第43話 与那国島奪還作戦 Ⅱ 与那国、上陸

現地時間 午前4時30分

比川方面から東崎に向かいながら上陸支援の為の砲撃。

旗艦Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)を含む戦艦による砲撃が開始された。


午前5時30分

Arc de Triomphe(ラルク・ドゥ・トリヨーンフ)を含む艦隊が航空艦隊へと合流のため戦線を離脱、戦艦四季島を旗艦とし上陸支援を継続。


午前6時

祖納(そない)より、上陸部隊が与那国島に上陸。

飛行場へ向かう。


午前7時

比川浜、カタブル浜から上陸部隊が与那国島に上陸した。


装甲艦波照間

俺とC分隊は、装甲艦波照間からLCPLと呼ばれる小さな小舟に乗り換えた。

なぜかというと、波照間自体には上陸能力はないからだ。

その代わりに、砲撃をしてくれるのだと言う。

他の上陸部隊はすでに島に上陸を開始していて、俺達は島の西側の久部良岳に向かう。

先ほどから、機関銃と砲声が聞こえて正直に言って怖かった。


ビーチは所々汚れていた。

白い砂浜だったのかもしれない。

でも、今は黒と赤が置いてあるだけだった。

X字になっている鉄骨には棘のついたワイヤーが巻かれていた。

もともと、こちらの防衛兵器だったのだが上陸を阻止できずそのままモンゴル軍に利用されていた。

まぐれ当たりなのかはわからないが、機関銃の置かれていた陣地が戦艦からの砲撃により地面ごと抉られていてクレーターになっていた。

Barlow(バルロー)曹長は、率先してクレーターの中を歩いて行った。

付近にはまだ、地雷が残っているらしく工兵部隊が地雷の処理にあたっていた。


「クザン少尉、第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊上陸に成功しました。」

「ご苦労、そのまま久部良岳に向かってくれ。貴分隊の密命は司令部より聞いている。…あの黒髪の彼かね?」

「はい。」

「…そうか、まずは戦況の方だが戦車がいくつか盗まれていてるのが生き残って兵士から聞き出せた。恐らく、久部良岳に配備されていることだろう。対戦車ライフルを持った部隊が先に先行している。このまま、敵を東と西で分けそのまま戦艦と地上部隊で挟み撃ちにする。」

「では、私達は久部良岳の山頂を確保に向かわなけれならないということですね。」

「ああ、そうだ。上陸部隊の損耗率は予想されていたものよりも低く抑えられてはいるがここからが難しい。」

「ええ、わかっています。」

「それでは、頼むよ。」


バルロー曹長が臨時司令部で話している間、俺は草むらに座っていた。

波の音が聞こえてくるくらい静かだった。

でも、相変わらず黒と赤の絨毯は広がっていた。


普段なら、嫌悪するのだがどういうわけか知らないけどあまり関心がなかった。

出撃前に行った投薬のせいかもしれないとは思う。

この世界の技術で、脳内に影響を及ぼす神経伝達物質…まあ、要するにホルモンだがその神経に影響を及ぼす物質の発生を抑制することでこうしていられるようだった。

戦場でのPTSD、心的外傷後ストレス障害が問題しされていたために作り出された技術だ。

投薬は、その技術によって簡易化された方法で俺の居た世界でアメリカ軍が行っていたカウンセリングを必要とすることもなく、また副作用もない。そんな完璧な方法だった。

実証データもすでに取れていて、その後の健康状態を見てもなんら問題はなかった。

戦場でのPTSDはもう存在しないのがこの世界の常識だった。


少し怖くはあるのだが、今はそれでいいと思った。

今日は、よく眠れそうだ。

そんな事を考えられるほど、普通な状態だった。


でも、海で濡れた靴下だけが不快だった。

けれど、乾かすことも出来ない為しばらくはこのままだ。


しばらく、バルロー曹長が戻ってきた。

これから、俺は久部良岳に向かう。

M1886に取り付けていた薄いビニールの皮膜を取り外し、銃口を空気に触れさせる。

木でできた銃床に海水が少しついてしまったが、多分大丈夫だろう。


「よしっ、全員居るな?」

「はい。」

「それでは、行動を開始する。当初のブリーフィングより戦況が変化している為改めてここで作戦を伝える。当初、海外線沿いに歩き敵と交戦しながら進軍するはずだったが、島の内陸部から海外線への南下に変更する。モンゴル軍は久部良岳、宇部良岳山頂に陣地を構えている空港からの航空攻撃を開始しているが未だ敵装甲兵力の撃墜は出来ていない。」

「曹長、では私達はその装甲兵力の撃破が今回の作戦目標ですか?」

「目標ではないが、発見した際は攻撃を行う必要がある。そこで、改めて部隊の再編を行う。」


杏樹の質問にバルロー曹長は淡々と答えた。


「まず、対戦車兵器として60ミリメートル迫撃砲、20口径対戦車ライフルの運用をする。私と、木村、坂上、杉山、中山で迫撃砲を使う、長篠、レフ、ロラ、木下は対戦車ライフルだ。砲手はレフだ。戦車発見後、今の編成に別れ攻撃を行う。敵戦車の近くに歩兵がいた場合は優先的に歩兵を排除すること、以上だ。」


基本兵装一式に、M1886、M1895に手榴弾と対戦車ライフルの弾が加わった。

戦車には会いたくはないが、一応装備がもらえたのは良かったとは思う。

バズーカとか、RPGとかはこの世界には多分、無いようで対戦車ライフル、迫撃砲の他には火炎瓶、対戦車地雷、重機関銃、投下爆弾が戦車に対抗できる兵器だった。


「これで…よしっと…。」


武器を確認し終えた俺は、ロラとレフ、健之助の様子を見た。

まだ、疲労も見えておらずコンディション的には問題なさそうだった。


「レフ、対戦車ライフルの腕は?」

「伍長、ライフルに問題はありません。」

「そうか。」

「はい、あとは場所を取るだけです。」

「…立ったまま、撃てはしないからな。」

「伍長、対戦車ライフルを立ったまま撃てるならこの銃は使いませんよ。」っと、レフは俺に彼の相棒のリー・エンフィールドを見せてきた。


カチューシャとの訓練で対戦車ライフルも何度か撃ったが反動が大きく立ったまま撃ってみようものなら身体を大きくのけ反るか、腰から落下するかのどちらかだろう。


「健之助、ロラ、調子は?」

「好調です。」

「衛生兵が体調崩していたら笑いごとにもならないからな。」

「ええ、任せてください。」

「あまり、頼りたくはないかな。」

「ロラ、お前は?」

「…ウォーリーって呼んで欲しいって言ったのに…。」

「ロラ?」

「伍長、問題はありません。行けます。」

「それじゃあ、そろそろ行こう。」


俺は、バルロー曹長に報告をし他の部隊と共に山を登る。

久部良岳の南側は等高線の間隔が短くなっているため、一度来たの空港の方に向かい。

西側に向かう。


「伍長、背の高い木が多いですね。」

「ああ、そうだな…。」

「これなら、戦車が通った所がわかりますね。」

「ああ、確かにロラの言う通りだけど戦車の後に地雷か機関銃があるかもしれないからな。」

「…ですけど、他に手掛かりがないですよ。」

「浜で、モンゴル軍の船の残骸が落ちていたから。多分、戦車は持っていないんだと思う。」

「何で、そう思うんですか?」

「モンゴルの船が木造装甲艦だから。」

「なるほど…確かに重い戦車は運べませんね。」

「ああ、最初の方は人海戦術で攻め込んだみたいだけど兵力が足りなくて何隻かひきかえしたのかもしれない。」

「増援を待っているって、ことですか?」

「その可能性が高いとは思う。」

「…。」


「長篠伍長。」

「どうした木下?」

「はい、今山の上の方が光ったような気がしたんですけど…。」

「全員、物陰へ!」


素早く身体を近くの茂みに寄せる。


「木下、どこからだ。」

「あっ…はい、あそこです。」


木下がこちらに身を寄せる。

俺は、木下の持っていた双眼鏡でその場所を確認する。


「…機関銃か。」


木下が見た光は、恐らく機関銃の横に置いてある双眼鏡だった。

人影も確認できる。


「木下…。」

「はい。」

「次に、光を見つけたら全員に伏せろって叫べ。間違っててもいいから。」

「はい。」

「レフと、ロラもだ。」

「了解。」

「わかりました。」


バルロー曹長に連絡を取りたい所だが、先行しているので呼び戻す必要があった。

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