第16話 軍服は隊を現す?
しばらく昇(のぼる)は黙っていた。
ただ、そこには気まずさだけが塊となり部屋に鎮座していた。
昇はその塊に畏怖を感じていた。
それは、昇が抱え込んでいた不満そのもと同義だった。
そんな中、動きを見せたのは彼女だった。
「…昇さん?いつまでもそうしているんですか?」
やわらかな彼女の声が耳にあたる。
「今日は、もう疲れたからまた明日にしてもらえるか?」
昇は、一瞥もなくただ部屋の四隅に顔を向けていた。
「…疲れているのはわかりますよ。ただ…。」
「ただ…?」
彼女は、ばつが悪そうに言葉をかき消そうとした。
反射的に彼女に昇は問いた。
すると、彼女はまた言葉を選び昇と話し始めた。
「はい、これからあなたには働いていただかなければなりません。」
「あっ、うん。さすがに、これまで何もしてこなかったし別に構わないけど…何をするの?」
「う~ん、それが難しいんですよね。簡単に言えば楽なんですけどね。」
「…だから、一体何なの?」
「デスゲーム(ゲーム)です。」
「ゲーム?」
「はい、デスゲーム(ゲーム)です。」
「…はあ。どういう内容なの?」
「…えっと…グッロ…あっ、いえ…戦闘です。」
「…FPS?」
「まっ、まあ、そんな所です。」
「あっ、そうなんだ。…ゲームか、久しぶりだな。ネットに繋がんなかったし。」
「はい、そうです。」
(…これから戦場に行ってもらいます!っと、はっきり言った方がいいのでしょうか?でも、話の流れ的に言っても信じてもらえませんね。というか、第一、現代日本人のほとんどが軟弱ですからこういう風に気楽な感じ誘ったほうがいいんですよね?確かに、その方が都合はいいですけど…とりあえず、取り返しのつかない事をさせればあとは簡単にこちら側に引き込めるでしょう。しかし、問題はその後ですね。この年頃だと使えるか使えなくなるかの二択ですし、変なことをすればすぐに悲嘆的になり自殺してしまう可能性もあります。荒療治では、ありますがこの世界に来た以上この世界の人間とは根本的に異なりますからなんとしてでも有用な兵士に育て、日本に加担してもらわなけらばなりません。ましてや、ロシアとフランスには渡せません。ただでさえ、邪魔な老人しか居なかったのにこれ以上彼らの面倒は見れません。)
「…あの?」
「あっ、はい!何でしょうか?」
(…少し考えすぎてしまいました。)
「そのゲームなんだけどどういうタイプなの?」
「あっ、はい。戦闘機(筐体)でプレイするタイプや、ライフル(コントローラー)を使うものもあります。」
「なるほど、ゲームセンターみたいなものがあるんだ。」
「はい、そうです。」
(…シュミレーターはあったはず。)
「そうか、楽しみだな。…それじゃあ、もう寝かせてもらえると嬉しいんだけど?」
「あっ、待ってください。」
「あっ、うん。」
「起きたら私の所に来て下さい。私の名前は桔梗(ききょう)桜(さくら)です。」
「わかった。よろしく桔梗さん。」
「さくらでいいです。それじゃあ、約束ですよ。」
「わかった。」
そう言い終えると、彼女、桜さんは部屋を足早に出て行った。
この日、彼女の後に俺の部屋を訪れる人は居なかった。
そして、俺が目を覚まして外に出るとそこには見知った顔の人居なくなっていた。
俺は、どうやらおいて行かれしまったようだ。
仕方がなく俺は、桜の元へと向かった。
「それでは、彼らの身元は保証しましょう。外国人達は、同じ言語を持つ国へ向かわせましょう。」
「そこでも、彼らは?」
「問題ありません。無下に扱ったりはしないでしょう。」
「それは、良かった。」
昇が桜と話している間、田中もボナパルトと話していた。
無論、一人ではなく久本や、山本と名乗る男、さらには素性のわからない金髪の男性も集っていた。
「さて、それではこれからの話をしましょう。」
「ええ、預けて終わりではないですよね。」
「はい、彼らにも兵士になってもらいましょう。」
「…今、何と?」
「兵士になってもらうです。」
「そんな…。」
「あなた方にはまだ、話していませんでしたね。けど、十分な取引ではありますよ。」
「彼らは、民間人だ。」
「はい、ですがこれからは違います。」
「…それでは?」
「落ち着いてください。まずは、私達がこの世界では何なのかを知ってもらわなければなりません。」
「…わかった、教えてくれ。」
「はい、第一に私達とあなたにはこの世界に身体を持っていません。」
「そんな、馬鹿なことが…。」
「はい、ですが…この世界の物質はことごとく私たちの身体をすり抜けたりすることがあります。」
「…それじゃあ、まるで幽霊じゃないか。」
「はい、そうですね。…山本さん、撃ってくれるか?」
「…わかりました。でも、いきなり驚かすのはどうかと?」
「ああ、まずは説明からだな。さて、田中さん。今、山本が持っているM1911(ガバメント)には、通常の9ミリメートル弾が入っている。そして、彼らの部下に私を撃たせる。」
「…死ぬ気か?ロシアンルーレットじゃあるまいし。」
「リボルバーでやるものだ。」
「まあ、それは置いといて。」
「ボナパルト、渡したぞ。…それでは、私はこの辺で。」
「ああ、お疲れ。」
「…っ…いきます。」
「ああ、よろしく。」
発砲音が耳を襲った。
同時に、銃口からガスとともに弾が噴き出た。
そして、弾はボナパルトを通り抜け会議室の壁にぶつかった。
「…噓だ。」
「…これが、真実ですよ。」
「そんなはずは…。」
慌てて、田中は立ち上がった。
再度、山本の部下は発砲した。
田中は下に伏せ、山本の部下のいる方を向くと彼の拳銃の銃口からは確かにゆらゆらと揺れる薄い煙が漂っていた。
後ろを向くと発射された弾がそこにあった。
それまで、田中が居た場所に。
彼はどうやら田中の身体を狙ったようだった。
しかし、田中は何も感じなかった。
ただ、和元の目が見開かれていた。
「…司令!」
和元が声を荒げる。
「…いや、何でもない。おそらく、空砲だろう。…あなた達も人が悪い。」
そう田中が口にした直後、部屋のドアが大きく開かれ銃剣付きのライフルを持った兵士が飛び出して来た。
外には、護衛に来た陸上自衛隊員も居た。
田中は一瞬、彼らが来てくれたのだろうかと思った。
しかし、明らかにその兵士の服装は陸上自衛隊のものとは異なっていた。
そして、発砲音が響いた。
田中は床に伏せようとしたが間に合わず被弾した。
そして、彼の下に兵士は突撃する。
身体を起き上がらせようとする彼の顔の前に剣が置かれた。
「これで、信じてはいただけましたかな?」
「司令!」
「…いや、大丈夫だ。…少し切れてはいるがね。」
「…じっとしてください。あなたには緊張感が足りないようようですね。」
廊下を走る音がする。
どうやら誰か来たようだ。
外から五名ほどの隊員がやって来た、そして、一呼吸遅く空挺部隊長杉澤(すぎさわ)正義(まさよし)がやって来た。
「あなた達、いったいどこに!」
「…すいません、司令。頼まれたものなので。」
「だからっといって…。」
「司令…私達が…いえ、私達も幽霊なんですよ。」
「あなた達!」
「はい、そうです。あなた達も私達と同じなんですよ。」
兵士は淡々と答えた。
田中は、その兵士の顔を見た。
顔立ちの整っている兵士だと思った。
赤い帽子と青い服。
そして、白い肌。
「ジャンヌ、そろそろ…。」
「はい、すいません。…田中様も信じてくださいましたか?」
「ああ、そりゃもう…。」
田中は、ゆっくりと立ち上がった。
少し怒りたくもなったが胸に止めた。
「…つまり、どういうことなんだ?杉澤?」
「はい、彼らの説明によりますと私達は本来この世界に存在しない存在という事です。」
「…だから、幽霊なのか?」
「はい、そして、私たちの身体が透ける事も確認できました。」
「…しかし、それでは、私がさっきまで椅子に座っていなかったということに…。」
「はい、そこなんですけど。…何と言いますか?効果範囲…といえばわかりますか?」
「…効果範囲?」
「はい、要するに判定です。基本私たちの身体に何らかの物質が当たるとします。例えば、先ほど弾丸は貫通します。しかし、水などは貫通せずに飲むことができました。」
「だから…いや、それだとおかしい。」
「はい、そうです。つまり、効果範囲だけでなく、認識範囲、もとい多次元収束という作用もあるようで…。」
「君はいったい何の話をしているんだ。」
「多次元収束…この世界ではそう呼ばれています。…いえ、私たちがそう読んでいるだけです。田中様ここからは私が説明いたします。」
そう言うと、兵士は帽子を取った。
すると、薄い銀色のような白桃色の長い髪がこぼれてきた。
「初めまして、ジャンヌと言います。」
その兵士は、ポニーテールの少女(フランス人)だった。
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