第48話 パワーレベリング

  今日から従魔のみんなとダンジョンに潜る。


 初めてなのでフォーメーションの確認と、どれだけ戦えるかを見るため、1階から徐々に慣らしていくことにした。


 3人とは今後一緒に戦うのだけど、レベルもバラバラだし、僕が調整を頑張らないといけない。


 エブリンがレベル1、キンバリーかレベル3、ジェンナがレベル8て、ほんとに揃ってないね。


 1階は芋虫と羊だし、気を抜かなければ問題はない。


 ただ、いくらでレア種といってもゴブリンとオークだから、あまり期待してないんだよね。

 最悪ダメダメでも、それでいいかなぁとさえ思っている。


 だって初めての従魔とのパーティだし、なんだかワクワクするもんね。まぁ、とにかく試してみよう。


 最初に出会ったのは、いも虫1匹と羊が2匹だった。


 まず三人には羊1匹に対してキンバリーを前面に出し、エブリンとジェンナはサポートとして当たらせてみた。


 その間は僕が残りの2匹を引きつけ、攻撃はせず避けるだけにしておく、1匹目の羊を倒せたら順次やらせるつもりだ。


 開始早々からキンバリーの動きが良い。盾でいなして槍でも牽制をし、相手を近づけさせない。マジ、ヤルじゃん!


 そっちに感心していると、羊の後ろへ回ったエブリンが強めの1発をお見舞いしていた。


 羊は苦悶の表情を浮かべエブリンを睨みつけている。


 そのままエブリンに向かっていくかと思っていたが、どういう事かキンバリーの方へ突進していった。


 ヘイトを稼いだエブリンじゃなくキンバリーに行くなんて何が起こったんだろう?


 エブリンの方を睨んでる間のことだけど、喋ってはいないのに、なにか2匹の間で意思の疎通をしているかのようだった。


 言葉もなかったので、雰囲気的な感じを自分なりに翻訳してみる。




羊:『てんメェ~、何しやがる! 後ろからとは卑怯だぞ』


エブリン:『いえ、アッシじゃありやせんよ。向こうのアイツじゃないですか?』


羊:『何、おメェがやったのか? おぅん』


キンバリー:『そんな訳ないでしょ』


羊:『こう言ってるぞ、どうなってやがる』


エブリン:『旦那、アイツ嘘言ってますよ。絶対アイツ。アッシは見やした』


羊:『なんだとー、卑怯な真似して、しかも嘘までとは、ぶっ殺す』


キンバリー:『…………』


エブリン:『やっちゃいましょう、おともしやすよ』


羊:『イッテー! 又、後ろからー!』


エブリン:『旦那、アイツです、またアイツなんです』


羊:『なにー! 前にいるのに後ろからって! かさがさね、許さねぇ!』




 まぁ、こんなノリのやり取りがあったかどうか分かんないけど、ヘイトがキンバリーに移ったのは間違いない。


 すげー不思議! あとで分かった事なんだけど、エブリンの固有スキル〝意気投合〞の効果らしい。


 この〝意気投合〞はギルドの資料室で調べても何処にも載っていなかった。

 いったい何なんだろうて思っていたけど、こういう効果なんだね。


 もしそうなら、ヘイト管理が思いのままじゃん!


 体力派のキンバリーに挑発スキルがないので、どうしようかと思っていたけど、これで1つ解決したよ。


 与えるダメージ値は少ないけど、何気にエブリンって優秀かもね。

 動きは悪くないし、バックアタックなどトリッキーなことが好きな感じ。


 ほどなくして1匹目を倒し、2匹目の羊へと移った。


 ただ初めての試みなので、お互いの連携とかも無いに等しく被弾するときもある。


 そういった場面にはジェンナのアクアヒールがタイミングよく入る。

 あのタイミングだと、先読みしての呪文を準備しているかもしれない。


 それと〝ミスト〞という魔法を使い、その効果で敵の視界を遮り、防御にも貢献している。彼女もまたすごく優秀だ。


 2匹目も終わり、残りは防御力の低い芋虫だけだ。


 1匹だけといって手を抜かずに、全力で当たっているのがいい。お互いに最善を探し頑張ろうとしている。


 1グループの討伐が終わり、みんなで今の戦いを振り返る事にした。


「バカマスター、少し待て。落ち着ける場所を出しますよ」


 ジェンナがこれも他で見たことのない固有スキル〝湖畔形成〞で、安全地帯を確保してくれた。


 おっと、当たり前の様に〝安全地帯を確保〞って言っているけど、これも常識外れのスキルだよ。


 戦闘中はその効果も薄いけど、それ以外の時に展開すると、範囲内であれば外的脅威に全く心配しなくて良いと教えてくれた。


「3人ともすごく良かったよ。まずはエブリン、動きも良かったし、あのヘイトを移すのって複数同時ってできるの?」


「お茶の子サイサイだぎゃ」

 頼もしいね~。


「キンバリーはそのヘイトを受けきって、攻撃の起点を作るのも上手だったよ」


「マイマスター、お褒めにあずかり光栄でございます」


「それとジェンナ、回復魔法だけじゃなくて他の魔法もタイミングを考えての行動、バッチリだったよ」


「出来て当然です、当たり前のこと言わないでください……ポッ!」


 ちょっと喜んでいるのかな。


 3人とも思っていた以上だ。このパーティならかなりのとこまで行けるよ。レベルさえ上がれば3Fなんか楽勝だね。


「僕についてきてくれて、ありがとうみんな。僕もどんどん頑張るよ」


 早くHEROESに追いつけるよう頑張るぞ!





 そして何日もレベル上げに精を出した。


「ギャーーー!」


「キンバリー、エブリンのカバーに入って、ジェンナはそのまま防御を崩さないように」


「任せなさいバカマスター【アシッドレイン】」


「そこだ! 【シールドバッシュ】」


 今、僕たちは2階をもう攻略し始めているのだ。


 初戦を終わらせたその足で、1階フロアボスを倒しに行った。

 内容的には何の問題もなく終わり、エブリンがレベル3へと成長した。


 パワーレベリングではあるけど、1階の敵は3体だけだし、このメンバーだと僕が入らなくても練習にすらならない。


 だから2階に来て、中ボス狙いでウロウロしていたんだ。


 そしてその途中、キンバリーの固有スキル〝立体空間トレース〞で、僕の持っている地図にない部屋を見つけた。


 3階にあったモンスターハウスと同じ造り。巧妙に隠された入口と、60㍍を超える大きな部屋に、そして怪しく光る宝箱!


 事前に3人にはこの部屋の攻略方法を話しておき、回復アイテムも邪魔にならない数で渡しておく。


 大量の敵モンスターが出てくると聞き、3人はすごく不安そうな顔していた。


 だけど、僕たちにはいざというときの切り札〝分身の術〞がある。


 彼女たちを安心させるため、試しに影分身10体全部を出してみたら士気があがったよ。


 エブリンなんかもう勝った気でいた。そして…………。


「ギャーーー!」


「だから、エブリン下がって、僕にヘイトを移して!」


 ここのモンスターハウスの敵の数は3階よりも少ない。4体が6グループの24体。


 モンスターは3種類で少し厄介だが、パーティとしてまとまっていないので、そのことをしっかり把握していれば問題ないはず。


 三人にとっては、まだまだ思い通りにはいかないようだけどね。


【アクアヒール】


「た、助かった、すまんジェンナ」


「え? ええ……キンバリー、うしろ!」


「ギャーーーー!」


「チッ、エブリンこっちへこい! 【シールドバッシュ】」


 ぎこちないけど、なんとかフォローし合えているかな。


 そして最後の1体を倒したあとはレア種·ピンクキャタピラ·レベル5が出てきた。


 ザコモンスターの連戦はないようだ。3階を経験しているから、肩透かしを食らった感じになる。


 でも仮にもレアモンスター、普段にはない毒を含んだ攻撃もあったり、みんなにもいい経験になったと思う。


 それほど苦戦もせずにレアモンスターを倒せ、宝箱の中身を確認する。


 案の定、肩たたき券4枚。それを見て、ポカンとする3人をよそに、皆のステータスを確認してみた。


 エブリンはレベル4になり、キンバリーもレベル5になっていた。ジェンナは残念、変わらずだったよ。


 よしよし、この調子でここでレベル6まで上げてから3Fに行き、中ボスでレベル7まで上げていこう。


 そしてその後は……フフフ……。


 3階のモンスターハウスを身も心も擦り切れるほどの周回すれば、立派な戦士の出来上がり!


 フフフフフッ………………。


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