第29話 楽しいバザー

 もうすぐで待ちに待った、孤児院でのバザーが開催される。


 それまでにやる事はいっぱいだ。


 まずはMP丸薬作りは新芽を使っての製作になる。

 約半年分でかなりの数だけど、僕も慣れてきているので3日もあれば十分だよ。


 まず、魔力草を摩りおろし薬水を加え団子状にして天日干し、1日干すとちょうどいい具合になる。


 新芽の効果が楽しみでリーブラさんに見てもらった。


「あれ? おかしいね。効能が変わっていないよ」


 嘘でしょ?  新芽パワーで上位のMP丸薬ができるかと期待したのに~。


「ユウマ、もしかしたらお前のスキルが原因じゃないのか?」


 ポーもハッとした顔で僕を見た。


「〝限界突破〞ですね」


 2人がいうにはこの〝限界突破〞で既に既存のMP丸薬の能力を越えてきているのだそうだ。


 限界突破ってそっちの方向だったんだ。


 僕はてっきり最大レベルや頭を打ちのステータスを、途轍もない力で上げていく。


 そういうマンガチックな演出を期待していたんだ。


「ああ、そう考えればお前の異常に高いステータスや、MP丸薬の効能の高さも説明がつくよ」


 つまり、限界突破の効果は常に起きているってことになる。


 レベルアップをするときやアイテムを作ったときでも、

 その効果が表れ、知らない間に僕を助けてくれている。


 まじチートじゃん!


 たぶん自分自身では気づかなかった答えだね、やっぱりみんながいてくれって有り難いよ


 全て作り終えたので、秋に作って余分となった丸薬を孤児院へと届けに行く事にした。


「こんにちは、ガーラル院長。

 話していた丸薬120個持ってきました」


「ユウマ、ありがとう。今回MP丸薬はバザーの目玉になっていて、前評判も上々だよ。

 さぁ、座って温かい飲み物はいかがかな?」


 僕は白湯を受け取り話を聞く。


 前評判が良いってことは、その分冒険者がたくさん来るけどいいのかな?


 毎年ファミリー層で賑わうバザーなのに、ちょっと不釣り合いな感じがするんですけど……。


「はっはっはっ、彼らも良い人ばかりだし心配はいらないよ。

 それに丸薬を購入するには、条件を満たしてもらうようビラも配ってあるからね」


 その条件とは、孤児院での事前の半日奉仕活動か、当日楽しげな仮装しての来場のどちらかだってさ。


 教会での奉仕活動なら、前もって子どもたちとも仲良くなれるし、

 仮装でも他のファミリー層も楽しめるので楽しい雰囲気に絶対なるよ!


 強面の冒険者の仮装行列だなんて、どんな仕上がりになるか今から楽しみ。




 バザー当日、HEROESのメンバーも童話をもとにした仮装で参加した。


 僕とミーシャとドンクが子豚の格好で、ナオミが狼、ベルトランとポーが蝶々の役だ。


 孤児院の友達にもうけて好評だ。

 特にベルトランの蝶々の格好にみんな大笑い。

 本人もノリノリでナオミとダンスを披露したりしている。


 会場も良い雰囲気で、聞こえてくる笑い声が更に心をウキウキさせる。


「あーママー、今年も輪投げあるよ、やろうよー」


「この器あなたたちの手作りなの? 可愛いデザインね、3つ頂こうかしら」


 手作りゲームを通して地域の人と触れ合ったり、

 日頃自分たちが作った食器やハンドポーチとかを、

 じかにお客さんと話して買ってもらえることが楽しくてしょうがない。


 ハンナもオリジナルのピラワッサンと惣菜パンを売っている。


「ハンナ、大忙しだね。この調子なら自分の店もすぐじゃない?」


 笑って答えるハンナだがマンザラでもなさそうだ。


 お客さんもいっぱいで大盛況。

 丸薬の方にもたくさん人が並んでいる。


 その列は、カエルやトウモロコシやサンドイッチと、面白い格好をした大の大人達。


 ヒゲヅラの蛙や太ったサンドイッチってなんだよ!


 ははは、具材のお尻がはみ出てるよ。

 皆さん買うことに真剣なので、その表情がまた周りの笑いを誘っている。


 そんな平和なお祭りの中、やはりというか大声で騒ぐ人もいる。


「なっ、頼むよ、ひとつでいいからさぁ売ってくれよ」


「そう言いましても、他の方もいますしルールは守って下さい」


「知らなかったんだよ。文字読めないしよ。なっ、1つでいいからよ」


 どうも仮装もボランティアの奉仕活動をしていない人らしい。

 今から仮装をして並び直すには遅い。


 だけど普段でも買えるんだから、今日は諦めたらいいのに……。


「なんだよ、そんな格好してバカみてぇ。それともバカじゃねーと買えねーのかよ?」


 だいぶ荒れてきた。

 こうならない為の院長の苦労が無駄になっちゃう。

 止めに入ったほうがいいかな。


「ちょっといいかい? 子供たちも怖がっているし、少し落ち着いたらどうだろう」


 声をかけたのは、お姫様の格好をしたトンスケーラさんだった!



「君の気持ちはわかるけど、ここは本来親子が楽しむバサーでしかも教会だ。

 どうかみんなや神も見てることだし、怒りをおさめて引き下がってくれないか?」


 言ってることは素晴らしいけど、お姫様のドレスがそれを邪魔をする。


 でも、トップパーティのリーダーにここまで言われると、

 相手も自分の行動に気づき恥ずかしそうに帰っていった。


 さすが有名人! カッコいい。イヤ、可愛い。

 こちらに気付くとお姫様が軽く手を振ってくれた。


 僕達はそのあと、炊き出しのお手伝いをしたり、

 久しぶりのヤギのミルクを堪能したりと大いに楽しんだ。


 バザーも終了し後片付けをして、夕食は久しぶりに孤児院の食堂でいただいた。


 みんな今日1日の売上を喜んだり、自分がどれだけ働いたかを自慢し合っている。


 ベルトランは蝶々の衣装を脱ごうとしてもみんながそれを許してくれない。


 やっぱりここは楽しい、心落ち着く我が家だよ。




 次の日、ようやく靴が出来上がった。

 僕は微調整をしてもらう為に店を訪れた。


「どうですか?」


 おお~、手に持ったときの軽さは、この世界にない軽さだ。

 僕の反応を見て職人さんがニンマリしている。


 これは期待できるよ!

 履いてみると足にピタッとフィットとしてきた! この機能もすごくない?


 横跳びをしてもズレないし、クッション性もよく、大きくジャンプした後の着地にも衝撃が足裏にこない!


 ちょっと本気を出して色々な動きをしてみても何も問題がない。


「素晴らしい……期待以上です」


「おっしゃー! 聞いたか今の? それとお客さん、これよ動きやすいだけじゃないんだぜ。

 ちょっくら知り合いに頼んでよ、障壁の付与をしてもらってな、水や汚れをはじくんだぜ」


 お金大丈夫ですか?


「…………きくな」


「親方、今のは私初めて聞きましたよ。なんで勝手に……もう知らねーぞ」


 あの最初に会った店員さんと揉め始めちゃった。


「ガタガタ騒ぐな。こんな最高の靴どこにも作れねぇぞ。

 それだけでもやった甲斐があるってもんだ。金のことは置いておけ」


 あのー、ちなみに次同じものを頼んだとしたらいくらですか?


「お客さん、次はダメですよ安くしませんよ。

 金貨55枚はもらわないと、店が潰れてしまいます」


 店員さん泣きながら言ってるけど、何を使ったらその値段になるの?

 日本円に換算したら……600万円弱……。


 いろんな思いが駆け巡る。


 最初の金貨8枚の設定も雑すぎるし、金貨55枚……靴1足の値段としてもプレ値どころの話じゃない。


 職人さんて恐ろしい……。


「わかりました。今回もその値段でお支払いします」


「ほ、本当ですか、ありがとうございます」


 店員さんがさらに泣き出す。


「待て、待て、待てえ。

 そりゃ筋が通らねぇ、最初の金額で……」


「いいえ、よくありません。親方さん」


「あん?」


「この出来は本当に素晴らしく、次も是非頼みたいと思います。

 でも、ここで払わず店が次に来た時無くなっていたら、僕は誰に頼めばいいのですか?」


「だ、だけどよー!」


「こんな最高の靴を作れる人、他にいますか? 僕が困るんですよ。

 だから、次注文するためにも受け取ってください。お願いします」


 僕は真剣だ。年が離れていても、ちゃんと気持ちを伝えれば、分かってくれるはずさ。


「あ、ああ、わかったぜ……お客さん」


 よかった、親方さんが受け取ってくれた。


 これで僕の準備は万全だ! 迷宮探索バシバシ頑張っちゃうよ。

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