第15話 仕掛け
ニーナをパーティーメンバーとして迎え入れたあとの最初の依頼は、討伐系を選んだ。
これなら、寺門たちのパーティーもバランスがいい証明になるのではないかと踏んだからだ。実際、戦闘員の寺門、バランス型のモニカ、回復役のニーナという状態になっている。
しばらくはこれで様子を見ながら、ニーナにかける負担を大きくしていくつもりだ。
さて、肝心の討伐系の依頼は、以前寺門とモニカが遭遇したオオアカグマの討伐だった。
依頼主である山小屋のオーナーは、以前から山小屋の敷地がオオアカグマの縄張りと重なってしまっているらしい。そのため、まれに山小屋の周辺にオオアカグマが出没するという。
今のところ被害は出ていないそうだが、今後も被害が出ないとは限らない。そのため、ある程度オオアカグマを狩ってほしい、というのが依頼内容である。
「オオアカグマって、すごい凶暴って聞いたんですか……」
「大丈夫です。戦闘は主に僕とモニカさんが担当しますので、アーネットさんは安全な場所で待機していてください」
「は、はい」
こうして寺門一行は、必要なものを持って依頼主の元に行く。
依頼主の所有している山小屋は、冒険者ギルドから歩いて2日以上の所にある山中に存在している。
その依頼主に会うために山小屋のある山のふもとに広がる村まで行った。
その道中、寺門はボソッという。
「なんか、乗り物があればいいんだけどなぁ……」
「リョウ君、乗り物欲しいの?」
「独り言が漏れてましたか。いやはや、学校で習った通り、冒険者とは歩くことに意味があるとは言ってましたが、こうもなるともはや大変ですね」
「確かに。馬車でも欲しい所だよねぇ」
そんな事をいう二人。その後ろを黙ってとついていくニーナ。
寺門はそんなニーナの姿に何か思う所があるようだ。
こうして道中、野営をしながら目的地に到着する。
「君たちが依頼を受けてくれた冒険者かい?」
「はい。今日は情報収集と、討伐の前準備をしようと考えています」
「それはいい。早速入ってくれ」
山小屋のオーナーの自宅に入り、詳しい話を聞く。
山小屋は、冬の間、山で狩りを行うためにさまざまなものを用意している掘っ立て小屋のようなものらしい。非常食や斧、その他狩りに必要な罠などを置いておくそうだ。
山小屋の周囲は簡単な柵で覆われているのだが、ここ数年はオオアカグマがやってきては柵を破壊していくという。これは縄張りが重なっていることが原因だと推測している。
しかも昨年は、山小屋の近くでオオアカグマの死体が見つかったそうだ。複数個体のオオアカグマが縄張り争いをしている証拠である。
「……そんなわけで、物騒なオオアカグマを討伐してきてほしい。個体数には限りを設けない。とにかくたくさん狩ってきてくれ」
「しかし、たくさん狩ってしまうと、生態系や環境に乱れが生じるのでは……?」
「生態系?そんなの考えてられないよ。こっちは迷惑しているんだからさ」
寺門とオーナーとの間に、常識の壁が存在しているようだ。
こうなった場合は、依頼主のいうことに従っていたほうが良い。後々問題にされたら面倒であるからだ。
依頼の内容を聞いた寺門たちは、早速山に入った。
今回の依頼で、山小屋の使用は許可されている。そこに野営用の荷物を置いて、身を軽くしてオオアカグマの討伐に向かう。
山に入って数時間、地図を頼りに山中を登る。
「これは……結構……きついぞ……」
「荷物持ちながらだもんね。そりゃきついよ」
寺門とモニカは愚痴をこぼしながら登山を続ける。
一方、ニーナは何も言わず、ただ黙ってついてくるだけだった。
しばらくして、目的の山小屋に到着する。
預かった鍵を使って、中へ入ってみた。
中は人が住めるのではないかというくらい、広々としていた。ここなら寝泊りする分にはちょうどいい。
「とりあえず、野営用の荷物などは置いて行って、身軽な状態で討伐しにいきましょう」
「そうだね。ニーナも荷物置いて行っちゃっていいよ」
「は、はい」
そういって荷物を置く。
まずは、周辺の様子を確認するために、敷地内から調査を開始する。
敷地内には、オオアカグマに倒されたであろう柵が放置気味にされていた。
「この辺に足跡でも残ってればうれしいんですけどねぇ」
そんなことを言いながら、寺門は周囲の様子を探る。
ふと、寺門の視界の隅にニーナが写る。ニーナは何をするわけでもなく、ただ後ろで呆然と立っていた。
「アーネットさん、こういう探し物で使えるような便利な魔法を覚えていたりしませんか?」
「あっ、えっと……ない、です……」
一瞬驚いたような声を出して、そして語尾になるにつれ声が小さくなっていくニーナ。
ないものねだりしても仕方ないと判断した寺門は、入念に周囲を見渡す。
すると、近くの木にあるものが残されていた。
「これは……引っ掻き跡ですね……」
それは寺門の目線の高さ程度に傷つけられた複数本の引っ掻き跡であった。
一般的な熊の習性として、このような傷をつけて、縄張りを主張するというものがある。
「やはり、この辺にオオアカグマが来ているようですね」
「やっぱり罠でも仕掛けたほうがいいかな?」
「そうですね。なるべく多くの罠を仕掛けておきましょう」
そういってモニカは、寺門の指示のもと、いろんな場所に魔術による罠を仕掛けていく。
こうして一日が終了し、寺門一行は山小屋で休憩を取ることにした。
「あとは明日になったときに、罠にかかっているのを確認するだけですね」
「でもなんだが長丁場になりそう」
「それは否めません。僕たちは依頼者のいう通りに、依頼をこなしていくだけですから」
そういう寺門を、ニーナがジッと見つめていた。
この日は早めに就寝することにした。翌朝になってから状況を確認するためだ。
「リョウ君は寝なくていいの?」
「はい。考えることがあるので」
「あんまり深く考えすぎないでね?」
「分かってます」
そのままモニカとニーナは眠った。
そして寺門も、自分の考え事に更けるのであった。
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