今週末は何をする?

 学校からの帰り道は、必ず彼女と一緒に帰ることにしている。朝はバスの時間が違うため登校できないが、帰りであれば途中まで一緒に帰れる。

 別に彼女と一緒にいるところを見せびらかしたい訳ではない。ただ、純粋に彼女と同じものを見て、同じことを感じたいと、ずっと思っているだけだ。

 この春、僕たちは高校を卒業することになっている。まだ2月末だというのに、桜は少しづつ咲き始めている。これは地球温暖化の影響だ。そう、ぼんやり考えていると、

「あっ、もう桜が咲いてる。これって、温暖化の影響だよね? ね?」

 全く同じことを考えていたのか、彼女も桜を指さした。少し驚いて彼女の方を振り向くと、目線が合う。僕の驚いている表情から、僕が同じことを考えていた───と、まさに気が付いた顔をした。そのまま二人して、自然と笑みをこぼした。

「やっぱり同じことを見ちゃうね」

「そうみたいだね。できれば、満開になるところも見たかったね」

 思わずこぼしてしまったその言葉に、彼女はうつむいた。不用意なことを言ってしまったと後悔し、強く彼女を抱き寄せた。腕の中で彼女は気分を落ち着かせ、おずおずとこちらを見上げた。

「………ねえ」

「なに?」

「コンシュウマツは何する?」

「どうしようか………」

 僕は腕を組んで考えるフリをした。正直な話、考えられる手段はやりつくした。どうせ今回も無駄だろうという諦念にも似た感情が湧き上がる。

 新聞に投稿した。地元の政治家に陳情した。インターネットで情報公開した。論文を出してみた。天体写真を公開した。英語でNASAに電話した。石を思い切り投げてみた。地球の反対側に逃げようとした。

 だが全て無駄だった。

 今週末、地球に隕石が落下する。それは僕たちだけが気が付いている。それはどう足掻いても避けられないことだ。隕石が落下した瞬間、僕たちは蒸発するように一瞬で死亡し、そして1か月前の世界に戻されてしまう。

 こうなった理由は分からない。知ったところでどうにもならない。僕たちに何か使命があるのかすら分からない。ただ、二人で永遠とも言えるようなループを経験し続けている。

 腕の中の彼女を見る。歳を取らないはずなのに、立ち居振る舞いの節々には、老婆のような何かが見て取れた。おそらく僕もそうなのだろう。魂は肉体に先立つのだ。

 疲れ果てたうつろな瞳で彼女が言う。

「今終末は何をする?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る