恐怖!ズールー王国の逆襲
「はい、カットです! お疲れさまでした!」
常盤はそう声を出し、口に咥えていたタバコをペッと大地に吐き出した。ここは南アフリカ共和国の東側に位置する港町ダーバンから、さらに北上したところにある大平原である。
昨日まで隣国のレソトでテレビ番組の収録をしていた常盤は、国際電話で上司に撮影終了の報告をした際、
「レソトにいるなら、ついでに南アフリカ共和国でも撮影してきてくれ。あそこにいる部族民の撮影をしときゃ、何かの番組でその画が使えんだろ」
との適当な指示のせいで、急遽、南アフリカ共和国の大平原に飛んだ。確かに地図上では隣国に位置しているが、その距離は直線でも恐ろしく離れていた。
「チーフ、通訳が呼んでます」
ADから声を掛けられ、常盤は通訳に向き直った。昨日雇った、現地民出身の通訳であった。
「もう撮影は終わりましたか? 彼らに撮影が終わったことを伝えますが」
「協力ありがとう。皆さんにも撮影が終わったことを伝えてください」
その言葉に頷くと、通訳は被写体になっていた現地民に話しかけた。
とたん、それまで裸に近い恰好で大地に寝転がっていた人々は、いそいそと起き上がり、Tシャツを着てスマートフォンをいじりだした。その変わり身の早さに、常盤は何とも言えない気持ちになった。話を聞くと、我々のように、いわゆる原住民的な生活風景を撮りたいとの取材申し込みは、数限りなく来るとのことであった。確かに彼らを見ると、厳しい大自然に生きているとは思えないほど肥え太っており、その脂肪は筋肉を覆っていた。
(これがビジネス現地民か。こんなところまで来て、俺は何を撮影しているんだ)
常盤は心の中で上司に毒づき、ふうとため息をついた。見渡すと、日本では見られないような地平線が見えた。赤土を基調とする大地と空は立ち上る陽炎によって、曖昧に分かれていた。
この大地には自分も、この部族民も似つかわしくないな。そう思いながら二本目のタバコに火をつけようと懐をあさった時であった。陽炎の中に何かが見え、常盤はピタリとその手を止めた。その様子にADと通訳も気が付いた。
彼らの目線の先には、どこから湧き出でたのか、雲霞の如く居並ぶ戦士団があった。皆、身の丈ほどはあろうかという巨大な盾を持ち、短槍を構えている。身体には余計な贅肉など見当たらず、筋張った筋肉がその強靭さをありありと示していた。あたかも、かつてこの地を支配したシャカ・ズールーの戦士団が再興したかのようであった。
「………お、おい。あいつら、どう見てもこっちに敵対的じゃないか。通訳、そこにいる現地民に、あいつらが何者か聞いてみろ」
常盤の指示に、通訳は直ちに反応した。その間にも、戦士の一団は短槍をかかげ、こちらを威嚇していた。
現地民に聞いた通訳が急ぎ戻ってきた。
「すいません。グーグルで調べても出てこないから、分からないそうです」
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