自己破壊行為

 広大な宇宙のどこかにある星系から飛来したその生物は、とある恒星系に生物の発生に適した惑星があることを発見すると、そこから少し離れた恒星系に定点監視用の拠点を設け、その惑星の観察を始めた。

 彼らはシリコンを基礎とした体組織を有し、ゆっくりとしたスパンで世代交代を行う種族であった。

 定点監視を始めてしばらく過ぎたころ、その惑星上でユニークな現象が発生し、彼らは興味深くその経過を観察した。

 その惑星では、当初、とある生物群が地上を覆うほどに繁殖した。その一群の多くは、その場から移動はせずに雌雄の生殖行為を行い、短い寿命の中で途方もない量の毒ガスを発生させた。その毒ガスは、物質を腐食させる性質を有していた。

 その惑星の大気は安定的な物質によって満たされていたが、その一群が繁殖したことにより、毒ガスの割合が極端に増加した。

 しかし、生命の進化は止まらなかった。

 やがて、惑星上には、その毒ガスを吸収し、再び安定的な物質に転換する生物群が現れた。この生物群の進化はすさまじく、極めて短期間に二足歩行を行う生物まで生み出した。

 そして、この二足歩行を行う生物が、極めて興味深い行動を取るようになった。つまり、安定的な物質の放出を自ら抑制したばかりか、わざわざ自らの手で、毒ガスを発生させる生物群を繁殖させ始めたのである。

 客観的に見れば自傷行為のようなこの行動は、シリコン生物の観察者からすれば、極めて非合理的なものであった。

 そのため観察者は、この二足歩行生物の詳細な観察を開始した。

 そうして彼らは、今も観察を続けている。二足歩行生物───人間が、二酸化炭素の放出を抑制し、酸素を放出する植物を保護する活動を。

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