120.人質の概念の違い
リリィへの反撃は慎重にしなくてはならない。なぜなら、彼女はわざわざ忠告していったからだ。
――わかってると思うけど……魔王城は私の手の中よ?
詳細は聞くまでもない。人間が襲撃した先日の事件以降、弱い種族ほど魔王城に近い場所に集まっている。魔王城そのものがリリィの手に落ちた今、住んでいる者はもちろん、周囲に暮らす魔族もすべて人質同然だった。逆らえば殺す、暗にそう言っているのだ。
「人質を解放する方法を考えなくちゃな」
カインとアベルが一瞬不思議そうな様子で顔を見合わせ、並んでこてりと首を傾げた。
「なぜだ?」
「意味が分からない」
オレの方も話が通じずに、疑問を浮かべて首を傾げる。人質がいたら自由に動けないから、解放しなくてはならない。そんな簡単な理論を彼らが理解できないなんて。横で双方の話を聞いていたエイシェットが、つたない言葉で間に入った。
「魔族、人質ならない」
彼女は状況が理解できたようだが、言動が幼いので話が遠い。エイシェットの発言で、気づいたのはカインだった。
「常識の違いかな。僕達は魔族だから、人質という考え方がないんだよ。弱い者は戦いの中で淘汰されるのが当然なんだ。でもサクヤは助けるべきだと考えたんだろ?」
「あ、ああ。そういう意味か」
魔族は人間より厳しい環境で生活してきた。黒い霧も、気象の変化が激しい森という場所も……その分だけ弱い種族も生き抜く術を身に着けている。いつしか自己責任という考え方が沁みついた。戦いで足手纏いになることを嫌うのだ。
一族を絶滅させない施策は行うが、ある程度の損害は諦める。それが魔族の戦い方だった。基本になっているため、彼らの常識と言い換えられる。オレが理解できずに首を傾げたのは、この部分を失念したからだった。
「出来るだけ傷つけたくない」
魔王イヴリースは悲しむだろう。心だけでも蘇っているなら、彼を悲しませたり傷つけたくない。オレがそう考えることまで織り込んで、彼女は魔王城を人質に取った。悔しいが、オレに彼らを切り捨てる選択肢はない。作戦は成功と言えるだろう。
「被害ゼロは無理だよ」
「戦いだからな」
割り切った発言をする双子の言い分も分かる。悩んで唸っているエイシェットの銀髪をぽんと叩いて、オレは新しい作戦を考えることにした。異世界人の知識を総動員してやる。オレが知る限りの小説や歴史の戦術を引っ張り出して、抜け道を見つけるしかない。
「なあ、ちょっと相談に乗ってくれ」
そう持ち掛けると、カインとアベルがお座りした。その横にエイシェットもぺたんと座り込む。並んだ彼らの顔を見ながら切り出した。
「戦う前に順番を確認したい。魔王城の奪還、女神の弱点探し、魔王イヴリースの解放、オレ達の戦力拡充だ。どこから手をつけようか」
一斉に発言する3人の意見は見事に割れた。
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