24.下種な作戦、上等じゃん

 広がる草原を踏み荒らす害虫は、数を増やしていた。ざっと3000くらいか。実力差を考えれば、まだ足りないのだが……。さて、今度はどんな方法で処理するか。オレが魔法を使って大地を揺らしたせいで、魔術師が増強された。その周辺に大量の護衛が犇めいている。


 ふん、対策取る程度の頭はあったんだな。魔術師殲滅のために飛び降りる作戦は諦める。というか、あいつら事前に魔法陣を用意してきた。大量の紙束を持っているが、本ではない。魔法陣に魔力を流せば発動する特性を生かし、大量の魔法陣を描いたのは作戦としては有効だった。


 問題は、オレが魔術ではなく魔法を使う部分なのだ。簡単な呪文で発動し、魔石が不要な大量の魔力を有している。いくらでも対抗措置は思いついた。


「エイシェット、火と水どちらがいいと思う?」


 ぐるるぅ……考え込む彼女の背で、のんびりと風の魔力を発動する。


「風よ、矢を弾け」


 エイシェットも大量の魔力を保有するドラゴンなので、常に結界に似た魔力膜は保持している。そこにオレの風を重ねて、壁に近い強度まで高めた。一度命じて与えた魔力が尽きるまで、風は彼女を包んでくれる。運んでくれた彼女を傷つけるわけにいかない。もし彼女の翼に矢が刺されば、オレの負けは確定と言ってもよかった。


 戦局を見れば勝ち戦でも、最低限守らなければならない民を犠牲にするなら負けだ。ぐるぐると旋回するドラゴンに気づいた魔術師が火矢を飛ばした。風に阻まれてあらぬ方向へ飛び、左翼の部隊に降り注ぐ。


「あっぶねえな、仲間同士で殺し合い……っと、それもいけるか」


 左翼の兵士に負傷者が出たらしく、指揮官への報告と同時に苦情を言いに部隊長が走った。魔術師側と言い争いが起きた現場を見物しながら、オレの頭はフル回転で新しい作戦を組み上げていく。同士討ちを誘ってやればいい。ある程度の被害がでれば、互いに殺し合い身食いして絶えるだろう。


 ぐるるっ、ぐぅ。あんた、また変な作戦で戦うの? 一気に叩き潰せばいいじゃない。ドラゴンは基本的に正面突破が主流で、滅多に作戦なんて使わない。それだけの圧倒的な火力を誇る種族だった。自分が炎を噴くから短期決戦でいいだろうと提案する。


「変なこと言うなよ、エイシェット。まるでオレが悪い奴みたいだろ。それに……ほら、双子が来たぞ」


 森の王者と言われる地を走る魔獣の王フェンリル。魔王の側近として名を馳せた親をもつ子ども達は立派に成長した。遠吠えする彼らの合図に、エイシェットが呼応する。互いに鳴き声で確認し合ったところに、オレは風で作戦を飛ばした。


 渋ることなく頷いたカインに対し、アベルは不満そうだ。慎重派のアベルと楽観的なカイン。双子なのに性格はまったく違う彼らは、崖の上から人間の群れを見て頷きあった。オレの提案に乗ると返った答えに頷き、エイシェットに指示を出した。


「低空飛行してくれ。攻撃を受けたらオレが弾く」


 魔術師がいる中央を狙ってドラゴンが滑空すれば、恐怖や功名心から絶対に攻撃する。その攻撃を増幅して敵に落とす作戦だった。何度かそれが続けば、右翼と左翼の兵士は誤解する。攻撃しているのがオレではなく、功績に焦る魔術師だと――。そこまで導けばあとは高みの見物で構わない。


 矢も魔法も防げるだけの魔力を彼女に添わせる。興奮した様子で一回転したドラゴンの背で、オレはヒヤッとした背筋の感覚を誤魔化すように叫んだ。


「いけっ! 空の銀鱗の女王よ」


 ぐぁあああああ! ひときわ大きな声で叫んだエイシェットが、地上に犇めく獲物目掛けて突進した。

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