美少女AIロボットが僕の好みを学習して理想の女の子に近づいていくので困ります

和希

第一章 美少女AIロボット、現る

第1話 プロローグ~美少女AIロボットが送られてきて困ります

 穏やかな陽光が窓から差しこむ、四月上旬。

 マンションのわが家のリビングで、僕、夏野なつのみなとは途方に暮れていた。


 目の前に置かれているのは、人ひとりくらい入れそうな、大きなアルミケース。

 スマホには、姉の夏野なつの天音あまねの愛らしい笑顔が映し出されている。


『みぃ君、元気? お姉さんがいなくて泣いたりしていないかなぁ? ふふっ、そんなさみしがり屋なみぃ君に、お姉さん、愛をこめてプレゼントを贈っちゃいま~す♡』


 僕に向かってウィンクにChuっ! と投げキッスまでしてみせる天姉あまねえ

 実の弟を軽く引かせるそのブラコンぶりは、どうやら留学先でも変わらないらしい。


「プレゼントったって、いくらなんでも大きすぎじゃない?」


『うふふ。お姉さんのみぃ君への愛の大きさは、そんなもんじゃないけどね~。さあ、開けてみて! きっとビックリするから!』


 天姉はご機嫌な笑みをコロコロと転がせ、僕を急かす。

 僕は言われた通り、目の前の特殊なアルミケースを開けてみた。


「わぁっ!?」


 なんと、中に入っていたのは金髪ロングで色白の美少女だった。

 まぶたを閉じ、どうやら眠っているらしい。


 それにしても、裸って!? 

 あらわになった豊かな胸のふくらみを目の当たりにしてしまい、僕はあわてて背を向けた。


『あは~っ。みぃ君、顔真っ赤~っ♪』


「天姉っ! なんてモノ送ってきたんだよっ!?」


『うふふ。安心してみぃ君。それ、ロボットだから』


「ロ……ロボット?」


 僕はふたたびふり返り、もう一度箱詰めされた裸の美少女に目をやった。

 つややかな金髪、長く伏せたまつげ、整った顔立ち。女性特有の滑らかな曲線と、もちもちしたふくよかな肌感。

 これがほんとうにロボット?


『こぉら。女の子の裸をそんなにまじまじと見ないの』


「ご、ごめんっ」


 でも、どう見たって普通の人間にしか見えないんだけど。

 街中に紛れこんでいたら、異国の地の美少女だとは思っても、まさかロボットだとは誰も夢にも思わないだろう。


 天姉はこほん、と軽く咳ばらいをし、得意げな目を光らせた。


『それは汎用はんよう型美少女AIロボット、通称【シャーベット】ちゃんだよ、みぃ君!』


「汎用型美少女AIロボット? AIって、人工知能のこと?」


『そーだよ。でね、汎用型ってのは、人間みたいに行動できるタイプってこと』


「すごいね」


『でしょ~♪ でもね、シャーベットちゃんは感情表現があまり得意ではなくて、冷たい感じがするから。それでシャーベットちゃん』


「なるほどね。でも、どうして僕に?」


『ほら、お姉さんがみぃ君の元に帰るの、何か月も先になっちゃうでしょう? それまでみぃ君がちゃんと一人で生活できるかどうか、お姉さん、心配で心配で。もう夜しか眠れないの』


「それはわりと普通なんじゃ」


『そこで、私が通う大学の研究チームに協力してもらって美少女AIロボットを作ったの。今日からはそのシャーベットちゃんがみぃ君の面倒を見てくれるわ』


 天姉の天才ぶりは今にはじまったことじゃないけど、それってすごすぎない?


『しかもそのシャーベットちゃん、みぃ君の言葉や行動からちゃんと好みを学習して、どんどんみぃ君の理想の女の子に成長していくんだよ~。この先、シャーベットちゃんがどんな女の子に育っているか楽しみ~っ♪』


 僕は特殊なアルミケースに横たわる【シャーベット】なる裸の美少女を見下ろし、ごくりと息をのんだ。


 AIが学習して、僕の理想の女の子へと成長していく?

 まだ誰にも踏みならされていない、この新雪のようにまぶしい純白金髪の美少女が、どんどん僕の色に染まっていくっていうの?


 不覚にもイケナイ妄想がふくらみかけて、なんだか顔が熱くなってきた。


『あー。もしかしてみぃ君、いやらしいこと考えた?』


「かっ、考えないよっ」


『フーン。ならいいけど。シャーベットちゃんに変なこと教えちゃ、めっ! だからね~』


 天姉は眉をハの字に下げた笑みを浮かべ、やんわりと僕をたしなめる。


『ところで、みぃ君の理想の女の子って、誰なのかなぁ?』


「誰って……」


 急に言われても、とっさには出てこない。

 なんとなくイメージするのは、清楚で可憐で、けがれを知らない天使のような女の子だけれど。


 でも、この場合、答えるべき名前は決まっている。

 だって、天姉が他人の名前を告げることを許さないようなまがまがしい黒いオーラをただよわせながら、期待に満ちた目で僕の返事を待っているんだもの。


『ねえ、誰なの? お姉さん、知りたいなぁ。いったい誰なのかなぁ? ねえ、だぁれ? 早く答えてほしいな。誰誰誰……?』


「ぼ、僕の理想はやっぱり天姉かなぁ。あはは……」


 たちまち、天姉の表情がぱあぁっ! と晴れやかに輝き出す。


『うふふっ、だよね~♡。 そう思って、シャーベットちゃんの初期設定をお姉さんの行動様式に合わせておいたんだ~。そろそろ起動するはずだから、その子をお姉さんだと思って、い~っぱい甘えてね♪』


「えっ、それってどういう?」


『あっ、いけない! お姉さん、そろそろ行かなきゃだから。またね、みぃ君。愛してるっ♡』


 天姉は最後に瞳を閉じ、キス顔を画面に近づけてくる。

 僕はあわててスマホを切り、ため息をついた。


「まったく、天姉のブラコンぶりにも困ったもんだよ」


 弟を大切に思ってくれるのは嬉しいけれど、度が過ぎる愛情表現はご遠慮したい。

 などと考えていると――。

 背後からいきなり両手が伸びてきた。


「なあっ!?」


 たちまち、僕はぎゅう~っ! と強く抱きしめられた。

 むにゅっと弾むような柔らかい感触が二つ、背中で押しつぶされている。

 あわてふためき、顔を赤らめてふり返ると、シャーベットの端正な顔と張りのある大きな胸がすぐそこに迫っていた。


「感動。やっとお会いできましたね、マスター」


 シャーベットはさらに僕を引き寄せ、愛おしむように押し倒してくる。

 もう、刺激強すぎっ!?

 さすがは天姉がプログラミングした美少女AIロボットなのだった。



 僕の生活、これからどうなっちゃうの!?

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