第38話 最高機密機関

2022年7月13日 アメリカ東部標準時

午前8時12分

アメリカ合衆国 バージニア州

ペンタゴン 国家軍事指揮部

国防長官 グレイグ ジェイコブの視点

_________________


アフガニスタンの米軍基地が襲撃されたのを聞いて20時間。その間にも世界の命運を分けようとするような出来事が起きていた。


まず、第7艦隊と中国海軍が東シナ海を間としてもうすぐ接敵の関係性にある。

幸いにもまだミサイルの攻撃範囲ではないため、つかの間の安定は保たれている状態にある。


それと同時に台湾海峡付近に駐留していた中国海軍も進出を開始。

表沙汰にこそなっていないがロシア陸空軍がウクライナの国境付近で緊急軍事演習を行っているというとのことだ。まさしく第三次世界大戦にはうってつけの状態へとなっていた。


現在はイギリスの諜報機関と共に、相手がどう出るかを探っている事態にある。


この緊迫した空気を割るような出来事が起きたのは、ジェイコブが徹夜で国防総省にいて、統合参謀本部議長のエリックがいなければ老衰もしくは過労で死ぬのではないかと言う時だ。


「国防長官」


そう呼んだのは初老の男。確かニューヨークの件でここに来た時に出迎えてくれた男だ。


「どうした?事態に進展があったか?」


「いえ、国防長官に直々にお会いしたいという方々が」


初老の男は丁寧な口調でそう伝える。


「…あとにしてくれないか。今は一刻の猶予を争う事態だと伝えてくれ。そんな暇はないともな」


「いえ、少しでも耳を貸していただければ結構らしいです。緊急事態だとのことで。それに彼らは話を聞いてくれるまでは帰る気はないとも」


どうやら相当頑固な客人が来たらしい。緊急事態はこちらも同じだ。苛立ちを隠せないが仕方なくジェイコブは


「はぁ、分かった。10分後に向かうと伝えてくれ」


「分かりました」


初老の男はそう言うとどこかへ消えていった。


_______10分後_______


その男はジェイコブが来る前にそこで待っていたようだ。円でぐるりと一周している長椅子と言うべきその場所に腰掛けている。


「何の用かね?悪いが時間はそうないものど。前置きはなしにしてもらいたい」


「大丈夫です国防長官。すぐに済ませます…という訳にはいきませんが。とりあえずここで話すという訳には行きません」


その男は不気味な笑みを浮かべて言った。

黒のコートに灰色のメンズスーツを着ているその男は多少の修羅場をくぐり抜けてきた目をしている。だがその目は軍が持つ目とは違う。もっと闇がありそうだ。

歳は若くはない。だがジェイコブよりかは歳下に見える。50代くらいの男だろうか。


ジェイコブ達は国防総省の端のほうにある小部屋へと行く。防音管理がされてあり、デスク2つとそれに見合う椅子しかない寂しい部屋だ。傍から見れば刑務所の尋問室にも見える。


「私の名前はトーマス フォード。フォードで結構です。早速ですが本題に入らせていただきます」


その男 フォードは椅子に腰掛け、一息つくと


「今回私がここに来たのはニューヨークの件で知っていることがあるからです。あの化け物について」


これはジェイコブを戦慄させるのには十分な内容だった。だがジェイコブは驚きを隠しながらその内容を聞こうとする。


「ニューヨークの件だと?」


「えぇ、それとアフガニスタンについても」


アフガニスタン。この情報は現在機密情報となっているはずだとジェイコブは思いを巡らせていた。

アフガニスタンの米軍基地襲撃は大統領を動かすのに十分な出来事だったようで、

現在ニューヨークに回す予定だった予備軍の一部を中東への派遣に踏み切ってしまっていた。


そしてジェイコブはこの男がただ者ではないことを知る。


「ほう、どこの者だ?CIAではないな。MI6でもない。FSB(ロシアの対外情報機関)か?それともモサド(イスラエルの諜報機関)か?」


「いえ我々はどの国の者でもありません。と言っても私はアメリカ生まれのアメリカ人ですが。我々はTSAの者です」


「TSA?合衆国運輸保安庁だと?」


「いえ…それではなくてですね。それとはまた別の…。機密機関というのもあるのですがあちらは2001年に発足された機関であり…こちらは…Top Secret Agencyの略です」


Top Secret Agency。

直訳すると最高機密機関。


「…つまりこういうことか?同じコードネームの組織が2001年に偶然できてしまった。しかし機密機関だからコードネームの変更はできない…と」


《実際は作者がこの話の公開時点でまさかTSAという組織があることを知らなかっただけ。しかし変えるのは何かとめんどうなので許してください》


「この組織を造った者がシンプルな名前を好んだらしいので、我々の組織は冷戦時代の1967年、時のソビエト連邦大統領とアメリカ合衆国大統領の共同事業によって造られました」


1967年と言えばベトナム戦争の真っ最中で、キューバ危機が終わって数年程度の時期だ。ソビエト連邦とアメリカとの仲は最悪であったはずだ。ところが時の大統領達は共同でTSAという謎の組織を造りあげた。


「まずはこの組織が何なのか、その前にこの組織ができる発端となった出来事を説明します」


フォードは顔色1つ変えることなく正面を見つめて言う。


「事の発端は1965年。アラスカ、アムチトカ島付近で当時ソ連海軍を警戒していた米海軍のアイオワ級戦艦が島内にて異常事態を確認したことから始まります。

島が燃えていたのです。大きな炎を上げて、すぐに調査隊の派遣が検討されたのですが、ここで再び異常事態が発生しました。

なんと島内にて謎の生物の姿が発見されたのです。乗組員は遠く離れた場所からでもその姿ははっきりと見えたと。その生物は大きくて赤く、まるでそれは西洋の物語に出てくるドラゴンのようだと

当時この事態はソビエト連邦による攻撃だとされていましたが、CIAの諜報員がソビエト連邦内にて異常存在を研究している機関があることを突きとめました。そしてそれが兵器目的ではないということも。

大統領はなるべく穏便に事を運ばせようとソビエト連邦最高指導者との緊急の密会を開き、やがてこの組織が造られることになったのです。そしてこの事もきっかけとして冷戦は徐々にですが終結へと向かっていきます。ソビエト連邦崩壊は国内のクーデターが主な原因ですが」


フォードは一息つく。


「そして我々TSAが異常存在の研究を行うことが目的として発足され、その後アメリカ大統領の判断によりアムチトカ島での核実験として、核爆弾をアムチトカ島へと撃ち込みました。これでドラゴンもどきは死にましたが、アムチトカ島の地図を書き直す必要がありました。その後は核実験と称してあのドラゴンもどきの死骸を我々の基地へと運びました。もちろんソビエト連邦の協力を仰いで」


「まず異常存在というのが気になるな。ニューヨークの奴以外にもいるというのか?」


「えぇ、そうです。時には見つかっている場合もあります。もともとエイズはこの星になかった。ある時はUMAとなって、人々から恐れられる存在としても」


「そういう類のものを調べるのが君の組織の仕事というわけか。どこの国にも所属していないと言ったが資金源はどうしてる?まさか某映画のように宇宙人と取り引きをして稼いでいるとでも?」


「単純ですよ。国際連合に集まるお金を多少頂けば済む話です。今やほぼ200の国々が加盟している国連の経理の操作など造作もありません。私の給料が上がることはありませんが。他にもネット上の通貨や株なども利用しています。他に質問はありますか?例えば私達の基地はどこにあるのかとか」


「それを聞こうか。それもネバタ州の51とか言われている基地が本拠地とかか?私もこの立場にありながら何も分からないとはどういうものか…あの基地については何も聞かされていないもんだ」


「極秘ですから、大統領にも教えてはいませんよ。本拠地は北極にあります。最もネバタ州のやつも我々の基地なんですが、あそこはあくまで駐留地です」 


「それで…奴ら、あの化け物共が何者かの検討はついているのかね?その異常存在によって多数のニューヨーク市民が犠牲になっているんだ、極秘では済まされんぞ。宇宙人か?」


「宇宙人…そういう呼び方でもありとは思いますが我々は異次元的地球外生命体と呼んでいます」


「異次元的?どういうことだ?」


「あれはおそらく地球外生命体であることには間違いないでしょう。NASAが一生見つけられない存在であり、突然現れることを除いては。あれはおそらく別次元。つまり…」


「…………」


「異世界から来たということです」


フォードは間をあけてそう言った。








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