第26話 食べ物、美味しい
俺は今見たことがない物を口にしようとしていた。
パンとパン、それに挟まれた肉と緑野菜が食欲をそそる。
「やっぱアメリカのハンバーガーは大きいな」
「ヒカル、これハンバーガーって言うのか?」
「異世界人はこれ知らないの?これ人生で食べとかないと絶対損する食べ物なのに」
ヒカルがそう言うならこの食べ物は絶品に違いない。
ホテルからそう遠くない場所で俺達はファストフード店はどう?というヒカルの提案に乗り、この場所に来ている。
ヒカルが「テーブル席で待ってて、適当に頼んでくる」と言って持ってきたのがこれだ。
「なんというか…早死にしそう」
アナリスはこのハンバーガーとかいう食べ物を見て、多少抵抗があるようだ。
「まぁ、食べてみ。うまいから」
ヒカルが諭すようにしてそう言う。
てかこれどう食べるんだ?一枚ずつ側から食べていくのか?
向かいの席のカノンも俺と同じことを考えたようだ。一枚ずつ具材を分けようとしている。
よし、俺もそうしようかと思った時だ。
「待て待て待て待て待て、何してんだ?」
「え?こう食べるんじゃないですの?」
「んな訳あるか!かぶりつくんだよ!」
ヒカルが止めに入った。どうやらかぶりつくのが正解らしい。
アナリスはこのことを分かっていたのだろうかと思ったが、平気でかぶりついて食べているので分かっていたらしい。
ヒカルとアナリスにも言えることだが先に言ってくれてもいいと思う。
それはそれとして、周りの視線が気になる。なんかこう、見られてる。何故か。
格好かと思ったが、俺の格好は至っておかしくない。ジャージ姿のやつは俺以外にもいた。ヒカルはそもそもここの世界の人間だから違う。
じゃあアナリス…はローブ姿だ。おかしいっちゃおかしいがなんか馴染んでる。
となると…
「あの、見られてない?その姿まずかったのでは…?」
「えっと…それ私に言ってますか?」
うん。カノンに言ってる。カノンの服装は鎧姿だ。ゴツゴツとはしてないが、僅かながらに出ている金属が天井の照明を反射している。
「それは、まぁ確かにこの姿はまずかったかなと思いましたが…これ以外に服はないですし…」
「その辺で服とかその辺で買ってくれば?」
アナリスがそう言ってくる。この辺に服屋があるならそれでもいいのではないだろうか。
「近くあったけ?」
「そーいうのはヒカルの出番でしょ。スマホでちゃちゃっと調べちゃって」
アナリスは俺の質問の答えをポテトを掴み口に持っていきながら返す。
「はいはい。あんま油で汚れるから使いたくないんだけどな…あー、あるよ。すぐそこに、食べ終わったら行く?」
「いいんじゃないかな。アナリスとカノンは?」
「私はオーケー」
「私もかまいません」
どうやら異論はないらしい。
俺は具が飛び出そうなハンバーガーを口に入れる。
だが、ハンバーガーの具の一部が口に入りきれず、ハンバーガーの包み紙へと落ちる。
俺はそれを多少気にしたが、咀嚼する。味としては、うまいという感覚だろうか。一種の中毒、病みつきになりそうな味だ。それ以外に表現できない。
ハンバーガーを夢中で食べている時、食べ終わったヒカルが口を開く。
「なんというか~、その…疲れたわ俺。スマホのニュース全てニューヨークのことばっかだし」
「まぁそんなもんじゃないの?あそこすごい量の…米軍だっけ?まぁ人がいたし。何よりヒカルの世界じゃあこんなことなかったんでしょ?」
アナリスはさっきみたいにポテトを食べながら話し返す。
「まぁな。それに俺は10回見たぞ。ニューヘブンに来るまでに緊急車両がサイレンを鳴らして俺達の反対側を過ぎて行ってたのを」
「そうだね…やっぱ異常事態が起きてるからかな。どことなく騒がしいというか」
アナリスが言うように、今俺達がいる店は賑わっている。それはお店が繁盛しているという意味ではなく、困惑や疑問。そして驚愕の賑わい。これは俺達がこの店に来ていた道中でも同じことが起きていた。
俯いてスマホを触っている人が様々な表情を浮かべながら通り過ぎ、立ち止まっているのを見ていた。
どことなくこの状況は俺が初めてこの世界に来た時と同じような心境だと思った。
まぁそんなことを考えてたらいつの間にかハンバーガー食べ終わってたけど。
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