エピソード46 久しぶりだね
私はまさしく突然、彼に連絡した。
とはいえ、電話ではなくメッセージを送っただけなので、返事をするかどうか、それがまず彼には重要な選択肢となる。でもいかに素晴らしい彼でも男という性、枠組み内でのみ価値判断がなされている。
たとえ言葉の上では私を『地雷』という事はあっても、無下に切り捨てることはない。
〈どうしたの?〉
彼は様子を窺っている。突然のメッセージに、その上、突然の告白やデートのお誘いなんかがセットであれば、きっと今は断り文句を選別していたはず。
でも私はそんなヘマをしたりはしない。
これは長年の計画の一局面に過ぎないのだから。
そもそも、『突然の』という枕詞をつけるためには、私が彼に恋心を抱いてからも、変わらぬ接し方を続け、そして連絡を取る習慣やイメージを与えてはならない。その間、約8年。8年前はそれなりに話したが、それ以来、全くもって話していなかった。
私の敵は彼の周りに居る、あるいは居た女たちなんかじゃない。それは早くから気づいていた。
本当の敵は、彼の中に居る。そう、私への第一印象だ。
人間心理は体系的かつ経験的に相手の人柄を描き出す。時には思ってもみなかった人が成功したり、はたまた犯罪者になっているのはそういう仕組み。
つまり、恋人候補になっていない以上、第一印象が薄れるのを待つしかない。
そして顔も性格もエピソードも薄れたとき、文面を通して、あえて警戒させる。
ここで変に明るく振る舞ったり、気取ったりするのはダメ。
むしろ、得体の知れなさを誇張することで、不安が解かれたとき、相手は再度形成された印象を私に抱く。これを意図して行っていないケースは同窓会での不倫関係。印象が薄れているがために再発見する愛。でも彼らは結局のところ不倫であって、いわば息抜き。でも私の場合は長い充電期間みたいなもの。
連日メッセージを送るのもダメ。
時には真珠のように、女性は待っている必要がある。そして――――
<うん、良かったら俺が車出そうか?>
警戒心を解いた彼。それはとりもなおさず、私とだけの新たな関係性の始まり。
「大丈夫、君が幸せになる用意は6年前には既に確立してあるから」
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