エピソード20 心身と歴史に刻む愛
「どこにあるの?」
その日僕は同じゼミ生である
ここは僕らが専門とする日本中世・南北朝時代に活躍した
僕もそのような話はどこかで読んだ気もするが、時代は同じであっても僕は武士の方を研究していたのもあって、公家などについては実をいうと彼女ほど知らなかったりする。
そんな僕を見かねてか、これまで二人で出かけたことなんて一度もなかったけれど、こうして連れ出して、論文をより良いものにと、解説してくれている。
「麻里ちゃんはどうして公家を?」
僕が武士を調べているのは、それが後の室町幕府や戦国時代に繋がってゆくからだけど、公家はそうとも言えない。
「そうだね~平安と鎌倉で豪華に過ごしてた朝廷が、この戦争の結果、幕末・明治時代まで隅に追いやられるからかな。西洋史の中世だとそうじゃなくて、皇帝だけの権威が王様とか貴族とか領主みたいな感じで、どんどん広まっていったでしょ?そこが日本独特な感じがして惹かれたのかも。相変わらず貴族ではあるけど、それでもかつてほどの財力や影響力を持ってなくて、貴族なのに人から羨ましがられないのがね~」
「なるほど、確かに分かる気がするな」
「そう言ってくれると思った」
彼女の横にはそれこそ
「写真で見てたより高いね」
崖の上にこの神社は建立されており、きっと海の神や海難事故への供養などを由来としているのだろう。
「彼はきっともうすぐ死ぬことを予感していたんじゃないかな?それでも南朝が難破しないようにってお祈りしたんだと思うの。それに彼の氏は綾波。いかにもルーツは海にありそうだしね」
「それは麻里ちゃんの名字が
「さっすが、歴史家としての推理力があるね」
「関係ないでしょ」
「海を知っている人間は、きっと死ぬ前に人は海を見たくなるんだと思うな。
「そうかも」
「良かった」
告白が成就した時のような朗らかさと、結婚を誓った時に見せる覚悟の二つが混ざったような表情を海からの照り返しに輝かせながら彼女は言った。
「一緒に堕ちよ」
その言葉にはこの崖から飛び降りるという文字通り単純な解釈が許されないような重い響きが確かにあった。
でもその事を考えている時には既に身体が軽く宙にあった。
「これでずっと…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます