エピソード8 奥様は時の支配者

「つまり君は僕の将来の奥さんって事?」

「さっすが拓海くん!学生の頃から賢かったんだね」

 突然の休講で手持ち無沙汰にそこら辺を訳もなく歩きまわって、今日の予定を再考案している最中、これまた突然エンカウントしたOL風お姉さん。


 美人な顔立ち&スラっとしたいで立ちをスーツで覆う30代後半なこの女性は、一般的な大学生なら、声を掛けられる前にこちらからナンパしていてもおかしくない芸能人級。

 しかし少し話して見るだけで本性が見え隠れするから、こうして逆ナンパまがいな声かけをしているのだろう。


 第一声は『めちゃくちゃ若くて可愛い!この時代に会えたらよかったのにぃ~』


 曰く、タイムトラベラーで、20年後の未来に、40代の僕と結婚した方らしいが、事故死してしまったらしく、その大元を辿れば、この時代(大学2年)に原因が見つかったらしい。

 だが、その原因をはっきりと口にするのは規約上問題があるらしい。

 やっぱり分からんわ、意味が。


「それで、これからどうするつもりなんですか」

 無視して駅まで走るという選択肢を選ばなかったのは、あろうことか彼女が僕の下の名前を知っていたから。

 哀しいかな一年経っても友達がいない僕に、半径2キロ圏内に僕の名前を呼ぶ人間など存在しない。うっわ、孤独だ。


 だからって、年上の美人不審者で紛らわしたりなどはしない。その点ハッキリと宣言しておく。

「ここにはデートで来たんじゃないの。勿論一緒に居られるのは死ぬほど嬉しいけど、一つでもミスを起こせば、結婚どころか、出会えないかもしれないもんね」


 ここで一つ確認しておく。

 タイムマシンで過去は変えられない。

 これは絶対原則として古今東西の物語や論文が指摘している(道楽で調べた範囲)


 まず未来に行くには光速で進めば簡単?に行ける。

 しかし過去は光速以上のスピードを要し、ほぼ不可能な代物と言える。


 そして重大なパラドックスもあったりする。

 そもそもタイムマシンを発明するのは、その過去ありきの未来、ややこしいが、丁度いい事例として今回のがある。


 ①僕が将来、事故死してしまう。

 ②悲嘆を情熱に未来のお嫁さん・佐伯さえき美知留みちる(佐伯は僕の名字なので仮名としておく)がタイムマシンを開発or使用。

 ③過去へ戻って原因を取り除く


 こうなると、そもそも①での「僕が事故死」という必要条件を満たさなくなる。

 すると、瞬く間に②・③もうち消え、ここに美知留さんが居るはずがなくなるという論理。



 つまり彼女が本当に変えたいのは、彼氏の居ない現在に他ならないという事。


「やっぱり無理があったかな。ごめんね、痛いのは可哀想だと思って、変な話しちゃった。許してね?」

 許すも許さないも、僕は――――


「夫婦生活にウソはダメだよね。これからは二人っきりで真実の愛を深める事にしようね。私、絶対離れないから、拓海くんもウソじゃないか見届けてね」

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