第14話 ぽんこつアンドロイドは悪役令嬢に脅迫される夢を見るか?

「――以上の事からキサマは『アンドロイド』ではなく、『人間』の安堂ロミオと断定できるワケじゃ」


 どうじゃ? と応接室の机の上に広がった資料を前にドヤ顔で俺を見てくるマリア様。


 机の上に広がった資料は何と言うか……俺が『汎用ヒト型決戦執事』人造人間ロミオゲリオンではなく、ただの顔面がやたらとイケている普通の男の子『安堂ロミオ』として証拠の数々だった。


 俺の戸籍やら、DNA判定やら、この1カ月の行動やらと、「もうそこまでされたら降参するしかないわ♪」と逆に尊敬するレベルにまでキッチリ調べられていた。


 もう女体を前にした男子中学生のように物凄い執念を感じたよね!


 息子のエロ本を炙りだすコトにけたPTA並みの捜査能力を前に、もはや敬意を払わずにはいられない。


 俺はそんな彼女の努力を祝福するかのように……執事服をその場でパージした。


「さて、これを踏まえた上で何か言い訳はあるかのぅ? 安堂ロミオど――のぉぉぉぉぉぉっ!? ちょっ、待てキサマ!? ナゼ今服を脱ぐ!? そんな雰囲気ではなかったぞぇ!?」

「これで勘弁してください」


 怒鳴り散らすマリア様の目の前で、文字通り一糸まとわぬ姿で日本の伝統文化DO☆GE☆ZAを繰り出すナイスガイ、俺。


 あまりにも俺の所作がよどみなく、美しかったせいか、マリア様がうっとりとした声音で賞賛の言葉を俺に投げかけてきた。


「いや意味が分からんわ!? 何故このタイミングで服を脱ぐキサマァァッ!?」

「裏表のない誠意をマリア様に示すために」

「いやほんと意味が分からんわ!? いいから早く服を着んかこの愚物ぐぶつがぁっ!」


 俺の誠意ある行動に胸を打たれたのか、顔を真っ赤にしてプルプルと震えだすマリア様。


 ここだっ! 畳み込むならここしかない!


 俺は持てる力の全てを振り絞るように、彼女に懇願こんがんした。


何卒なにとぞっ! 何卒この件はジュリエット様にはご内密にっ!」


 人間嫌いのお嬢様の隣に居られるのは、俺が無機物のアンドロイドだと思ってくれているからであって、もし人間だとバレたら俺はもうお嬢様の隣には居られない。


 あの春の木洩れ日のような温かい眼差しも、言葉も、想いも、全部失ってしまうのかと思うと……怖くて足がすくみそうだ。


 あぁっ、ジュリエット様を騙している最低のクソ野郎だと罵ってくれても構わない! それでも俺は彼女の隣に居たいのだ!


 もうこの時点で『バレたら親父ハゲ諸共もろとも、瀬戸内海に沈められる』ということすら忘れて、俺は必死にマリア様に哀願あいがんした。


 するとマリア様も鬼ではなかったのか、慈悲深そうにニッチャリと邪悪に微笑みを浮かべ、


「それは別に構わんが……さすがにタダでというワケにはいかんのぅ」

「と、言いますと?」

「こんなジュリエット工房始まって以来の不祥事ふしょうじを黙認するんじゃ、それなりの見返りを貰わなければ割りに合わんと思わんかえ? のぅ、安堂ロミオ殿?」

「……なるほど、身体ですか?]

「違うわバカタレ!?」


 俺は自分のイケてるナイスなバディを両手で抱きしめるようにしながら、半歩マリア様から距離を取った。


 肉食獣を彷彿とさせる瞳で全裸の俺を見据えるマリアに、俺は思わずうめくような声をあげてしまう。


「そ、そうかっ! だから俺の身体から無理やり衣服を剥ぎ取ったんですね?」

「被害者づらするなっ!? キサマが勝手に脱いだんじゃろがい!?」

「ひぃっ!? そ、その湿しめった、いやらしい指先で自分に何をするつもりですか!?」

「湿ってないし、いやらしくもないし、何もせんわ! いて言うなら目の前の変態バカから顔をおおうくらいじゃ!」

「信じられない……コレが良家のお嬢様がすることですか!?」

「おいめぬか! そんなゲスを見るような目で妾を見るな!?」


 だから違うと言っておろうが!? と自分の無実を主張するマリア様に湿った視線を送り続ける俺。


 いやいや、今のは身体目当てなそういう言い方だった! 俺には分かる! 何度も薄い本で同じシチュエーションを見たことがあるから間違いない!


 チクショウッ、薄い本が厚くなっちまうぜ!


「妾が求める見返りはただ1つ! 姉上が帰国するまでのこのゴールデンウィークの間、キサマは妾専属の専用使用人となるのじゃ!」

「へっ? せ、専属の専用使用人……ですか?」


 このまま魔法使いの権利を剥奪、もとい卒業式を敢行してしまうのか!? と歓喜に震え――違う、警戒していた俺に予想外の言葉が投げかけられた。


『現役JKお嬢様とめくりめく酒池肉林の日々がスタートするんだねパパッ!』と喜びに若干ふっくらしていた我が息子もパンツの下でピタリッ! と動きを止めたのが分かった。


 え~と……えっ? どういう意味だ?


「あ、あのマリア様? 専属の専用使用人と言うのは?」

「言葉通りの意味じゃ。姉上がイギリスから帰国するまで、妾の専属使用人として働いてもらう」

「それは……何故でしょうか?」

「キサマが姉上の、いやモンタギュー家の使用人に相応しいかどうかテストするためじゃ。もちろん妾も鬼ではない、至らぬ点があったら優しく指導してやろう」


 天使のような微笑みを浮かべるマリア様にうっかり惚れそうになる。


 おいおい、てっきり俺の弱味を盾にこのイケてるボディを10代の溢れんばかりの知的好奇心、いや痴的好奇心を持って蹂躙してくるか、もしくは俺を桜屋敷から追い出そうとするかのどちらかだと思っていたのに、まさか俺がよりジュリエットお嬢様の隣に居られるように修行をつけてくれるだなんて……。


 彼女はどれだけお優しいんだ! 聖母の生まれ変わりか?


 それなのに俺って男は、心優しきマリアお嬢様に疑いの目を向けて……恥を知れ!


「もちろん断ればこの話はナシじゃ。ただそのときはキサマの秘密を姉上に話すことになるが……どうする?」


 どこか挑発するような彼女の声が鼓膜を震わせる。


 こんな嫌らしいネチネチした言い方も、きっと俺の反骨精神に火をけるためにワザとやってくれているに違いない。


 使用人として稽古をつけてくれるだけではなく、俺のメンタルもしっかりと管理してくれるだなんて、マリアお嬢様の優しさには天井が無いのか!?


 俺はマリアお嬢様の谷間の如き深い慈愛の心に胸を打たれながら覚悟を決めた。


 女の子にここまで言わせたんだ、もはや俺の取れる選択肢は1つしかねぇだろうが!


 俺は全裸のままマリア様の足下に片膝をつき、王に忠誠を誓う騎士のように彼女の手を取り頭を下げた。





「今日からご指導ご鞭撻べんたつのほどをよろしくお願いします、お嬢様!」





 気がつくと自然と笑みがこぼれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る