第12話

 「・・・あの、お茶でも飲みますか?」


 何で、俺がこんなにビクビクしながら、話をしないといけないのだろう。


 「が飲みたい。梨沙。入れてくれるか」


 えっ。出来立てのお茶って何?

 もしかして、緑茶とか、そう言うやつ?

 うちには沸騰させた後にやかんに入れる、麦茶しかないんだけど。

 

 「嫌」


 あっ。嫌なの。

 

 俺がなんの事を言っているのか、疑問に持っている間に、娘に拒否されていた。

 

 「・・・・・・」


 娘に拒否されて、凄い悲しそうな顔をする忠邦さん。


 「橋本さん。入れてあげて」


 このままでは話が進まないので、俺から橋本さんにお願いすると、「先輩が言うなら、すぐに入れますよ」と言って、ニコニコしながら台所へと橋本さんは向かって行った。


 「貴様。私の娘に命令を・・・」


 あー!もう。めんどくさい。

  

 自分が娘に言う分は、良いが。俺から、言うのは駄目な様だ。


 「分かりましたから。とりあえず、私が橋本さんと同居する事になった理由を話しますね」


 忠邦さんに約束の話をした。

 お酒で娘をたぶらかしたと、怒ってくると思ったが、意外にも話を俺の話をしっかりと聞き、「そうだったのか」と納得する様に忠邦さんは頷いていた。


 「それで、約束の事はなかった事にしますから。安心してください」


 「あぁ。早くそうしな―—」


 「父さん。私たちの邪魔しようとしてるの」


 橋本さんが今にも、熱々に入ったお茶を投げつけそうな勢いで忠邦さんを睨んでいた。

 

 「いや、な。だいたい、付き合っていてもなかった、男といきなり同棲するなんて、駄目に決まってるだろ。それに、だ。私の事は、いつもの様にパパと呼びさなさい」


 忠邦さんは最後の一言以外は至極まっとうな事を言った。

 それに対して、橋本さんは「きもい」の一言。


 「梨沙!いつからそんな口が悪くなったんだ。親に向かって「きもい」なんて、この男に影響されたせいか」


 怒る、忠邦さん。

 それでも、橋本さんはまるで、ゴミでも見ているかの目で、言う。


 「そっか。お父さん。怒るんだ。じゃあ、私もに怒って貰おうかな」


 「——?!」


 ママという単語を聞き、忠邦さんが眉をひそめた。


 「わ、私は別に何も怒られるような事してないぞ」


 「ふーん。私の家に。・・・あるよね。私が気づいていないとでも思った?」


 何?五台って。

 

 「・・・そんな、ものは―—」


 「お父さん!しらを切るんだ・・・」


 「はい。あります」


 認めた!


 俺が、話に入る事ができない中、どんどん忠邦さんの初めの威勢がなくなっていった。


 「すまなかった。梨沙。許してくれ」


 「じゃあ、私と先輩の同棲認めて」


 「それは・・・」


 「もう、いい!お父さんじゃあ、話にならない。ママに言う」


 「それだけは、本当にやめてくれ。今日だって、勝手に仕事休みにして、ここに来てるんだ。もし、バレたら・・・」

 

 ガクガクと震える、忠邦さん。

 そこまで恐れる橋本さんのお母さんって、いったい何者なんだ。

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