第138話 許嫁と文化祭一日目①

 夏服から冬服への衣替えの季節がやって来ると同時期に行われる我が校の文化祭。


 ウチの学校の文化祭は二日間あり、一日目が学校関係者のみ、生徒と学校職員のみが参加できる文化祭。二日目が生徒より招待状をもらった学校外部の人間も参加出来る文化祭となっている。

 一日目は学校関係者のみだけなもんだから何も気にせず気楽に楽しむ、まぁ言わば前夜祭みたいなものである。

 二日目はいくら招待状をもらった人だけとはいえ、学校外から沢山人がやってくる。その為、ちゃんとお客様扱いをしないといけないので少しだけ学内に緊張が走る。いや、緊張は言い過ぎか。楽しむのが文化祭の醍醐味なので、初日と比べると少しだけ気楽さが抜けたと言うのが正しいかな。


 そんな気楽な初日の中庭に設置された二年六組のたこ焼き屋台はちゃんと形になっていた。

 夏祭りの屋台に並んでいても不思議ではない出来栄えである。


 可愛いタコが食材にされるのにウィンクしてたり、物凄い笑顔だったりする看板。怒って墨を吐いてる絵は理にかなっている気がするけどな。

そして『二年六組たこやき』とシンプルな内容だが、どこか味のある字の旗が風に靡く。


「そんじゃまた後で」

「はいはい」


 クラス全員で最後の準備を終え、俺が誰に声をかけるわけではないが適当に声をかけると誰からともなく適当な返事があった

 公平にクジで決められた店番の順番で、俺は最後の最後を引いてしまった。

 それは幸か不幸かシオリの劇の順番と被ってしまったのだ。

 シオリの最高の歌と最高らしいダンスと下手な演技を見られると思って楽しみにしていたのだが……。

 しかし、逆に考えれば今日はお互い終日一緒にいられるということ。

 そう思うと、こっちの方が二択ならば幸なのではないだろうか。

 文化祭は明日もあるし、明日も被ったら他の人にお願いして店番の順番を変わって貰えば良い。

 

 折角の文化祭なので前向きに考えながら、こちらの準備が終わった旨をメッセージで伝えた後に彼女との待ち合わせ場所へ向かった。




 中庭と運動場に散りばめられたとはいえ、屋台系の出店を出すクラスや部活動は多いみたいで、中庭だけでも結構な数と沢山の人で賑わっており、まさに文化祭。お祭り状態だ。

 なんだか歩いているだけでワクワクする中、待ち合わせ場所の噴水前にやってくる。


「付き合ってくだ――」

「ごめんなさい」


 見慣れたロングヘアにヘッドホンを首にかけた姿が見えたと思ったら、祭りの空気に当てられて早速男子生徒がシオリにアタックしたみたいだ。

 だが、そこはさすがは冷徹無双の天使様。久しぶりの告白に対しても容赦なしのコンマ数秒での斬り捨てごめんは健在である。


「ごめんごめん遅れて」


 謝りながらシオリに近づく。


「遅れたせいで絡まれたろ」

「大丈夫。申し訳ないけど速攻で斬り捨てた」

「まぁ祭りのノリで告って来たのが見え見えだったしな。そんな奴はバンバン斬り捨てろ」


 そう言うとシオリは首を横に振る。


「本気で来られても斬り捨てる。だって私にはコジローしかいないから」


 そう言って微笑む彼女を抱きしめたかったが、こんな大勢の前でやるのも場違いなのでグッと我慢する。


「シオリは準備とか大丈夫なのか?」

「うん。あ……出番よりちょっと早く集合しなくてはいけなくなったから、ちょっと早く離れないといけない」

「そうなんか。そんじゃ、そん時に俺も店番代わる様にするわ。言っても昼過ぎだろ?」

「そう」

「じゃあ、それまでは一緒だな」

「うん」


 嬉しそうに頷いてくれた後、シオリはポケットからスマホを取り出した。


「どこから攻める?」

「そうだなー……」


 シオリのスマホにはおそらく先生が作ってくれたのであろう文化祭の電子パンフレットを開いてくれる。

 今や学校でさえも電子化か……。紙媒体も良いと思うが、コスト削減の為だろうな。


「娯楽系もいっぱいあるし迷うな」

「悩みどころ」

「うーん……。悩むならさ、折角だしカフェ的な何かで悩もうぜ」

「同意」


 シオリも同じ意見らしいので一緒にカフェをやってるところを探す。


「カフェをやってるのは一年七組と三年一組か……。俺らの学年はやってないんだな」

「みたいだね」


 俺の言葉にシオリが相槌を打ってくれる。


「一年の方は――『おかえりなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃん』可愛い妹が出迎えてくれる妹カフェ」

「ほぅ」

「三年の方は――『お好きな衣装をご指名ください』コスプレカフェ」

「ほほぅ」

「――って……普通のカフェはないのか」

「それじゃ面白くない。文化祭はハッチャケないと。ハジケたもん勝ち」

「去年一人で暇してたやつの発言とは思えないな」

「今年はハジける」


 何やら変な目標を掲げ、拳なんて作っている。


「今年は私達許嫁ップルが一番ハジける文化祭にしようね」


 そう言いながら作った拳を前に出してくるので、よく分からないがとりあえず「ウェーイ」と拳を作り彼女の拳と軽くぶつけておくと嬉しそうに「うぇい」と返してくれる。


「よし! とりあえず妹から攻略! 後に続けコジロー!」

「それだけ聞くとギャルゲーか何かと勘違いしそうだな」



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る