第116話 おまけ

「うわぁ。凄いねー」


 メインストリートをシオリと歩いていると、途中から水中トンネルの入り口が見えた。


 トンネル内に入ると、東西南北、何処を見ても広がる海はまるで海底の世界へ迷い込んだみたいで幻想的であった。


「うはぁ。――あ! シオリ! あれイワシの大群じゃない?」

「美味しそう」

「やい文学少女! 花より団子ってどないやねん」

「お腹空いたから、つい」

「お前そんなキャラじゃないだろ!」

「私ってどんなキャラ?」

「そりゃ――」


 俺は腕を組んで眼鏡をクイクイする。


「なに?」


 氷の息を吐く様なイメージで言うと「パンチ」と台詞付きの肩パンをもらう


「――ってぇ……」

「馬鹿にしすぎ」

「でも、こんな感じだぞ?」

「嘘」

「ホント」

「そう……」


 シオリは少し考え込んでいる。


「シオリ?」


 名前を呼ぶとシオリは軽く睨んで来て言ってくる。


「ど、どうしたの? お、おにいたん」

「――は?」

「も、もう、お、おにいたんはすぐ寝坊するんだから。ウチの魔法で叩き起こしてあげるね。おにいたん」


 俺はシオリの肩にポンと手を置くと悟った目で言ってやる。


「ごめんなシオリ……。俺……俺……。お前に相当なストレスを与えていたんだな……」


 ガシッと彼女に抱きつく。


「ごめん! ストレス溜まってるシオリ見るの……。俺、やっぱ辛ぇわ」

「離せクソ野郎!」


 ドンと突き飛ばされてしまう。


「あはは。――で? 今のは?」

「私の好きなアニメの好きな主人公のソラちゃん」

「あー、魔女っ子アニメのね」

「しかし、今のは恥じらいがあったけど……。中々に良いかもしれない」


 何かしらの手応えを感じたシオリが無表情で言ってくる。


「今度からソラちゃんモードを取り入れる」

「やめて。マジでやめて」

「どうして? おにいたん」

「やかましわ! 誰がおにいたんじゃ」

「違う。ソラちゃんのおにいたんはそこで『なんだい? 俺のソラ。君の悩みは俺の悩み。なんでも言ってごらん』とイケボで実妹のソラちゃんを落としにかかる」

「ソラちゃんのおにいたんヤバい人なの?」

「彼女が四人いる」

「女垂らしだな! とんだ女児向けアニメだな!」

「まさに四天王のボス」

「訳わかんねーよ。――って……シオリ? あれ……」


 くだらない会話をして歩いていると目の前に見知ったトンネル内で二人が突っ立っていた。


 薄暗くて見にくいが分かる。冬馬と四条だ。


「こんな所で何してんだか……」

「さては……告白?」

「ここでぇ? いや、確かに告れとは言ったけど、デート中に告白するか? せめて水族館終わりにするだろ」

「同意見」

「ま、水中トンネルでもゆっくり見てるんだろ。声かけると怒られるし邪魔になるからさっさと抜かそうぜ」

「り」


 少しだけ歩みを早めて二人の横を通り過ぎると衝撃の光景が――。


 四条が冬馬にキスをしていた。


「――な……」

「やった……」


 俺達は更に歩みを早めてトンネルを抜け出した。


「――え? あれって」

「キス」

「――だよな……。え? 告ったの?」

「おそらく。でなければキスなんてしない」

「ですよね。――え? あのタイミングでいったの?」

「勇者と呼ぶ他にない」

「ああ……。魔王倒す方がまだ楽だろ」

「ともかく――」

「――めでたしめでたし。これで尾行の意味もなくなった」

「そもそも尾行してなかったけどな。――じゃあ二人に負けない位に水族館楽しむかっ!」

「うん! ――ペンギン見に行こう」

「お、良いね。行こう行こう」


 どうやら冬馬と四条は上手くいったみたいだ。


 俺が言うのもなんだが……ようやくだな、冬馬。

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