第102話 妖精の言ってる事はあながち間違いではない

 顎クイをされて攻めれている所、ディアナの懸命な説得により、俺は一命を取り留めた。


 お互いに立ち上がると、俺の足は軽く痺れていた。


「ま、まぁ……そういう事なら……」


 少し拗ねた声を出すシオリをディアナがジーッと見つめる。

 そしてディアナは「オー!」と言いながらシオリに抱きついた。


「――え……え……な、なに……?」

「このムサシ超おぼこい! 超美魔女! 超好き」


 色々言葉を間違えている気がするが、ともかく可愛いと言いたいのだと思う。


 抱きつかれたシオリはなんだか甘い物に包まれて幸せそうな顔をしている。

 そうなるよな? その気持ち、分かるぞ。


「てかさ、いつまでムサシ呼びなん……。女の子だぞ?」

「え……? でも日本人、娘に偉人の名前付けるの流行ってる」


 グゥの音も出ないわ……。確かに偉人を女性化しているゲームとか漫画はそこら辺にあるもんな……。


「コジロー……。もう私ムサシでも良い……」


 あかん……。シオリがディアナの身体が気持ち良過ぎて思考が停止している。


「ムサシ、アタシと一緒の学校来る。楽しいよー。大丈夫! ソウに任せれば裏口入学も容易であるんだ」

「闇深い会話を夏の爽やかなプールでするんじゃないよ」

「――行く」

「シオリさん!? 快楽に溺れて破滅パターンに入ってますよ!?」


 シオリの発言にディアナは尊くなったのか「んン……!」と抱擁に力を入れるとシオリはとうとうニヤついてしまった。

 ――そんなに気持ち良いのか?


「――こーら、ディアナ。やめとけ」


 突如聞こえてきた甘い声に振り返ると、そこにはゲームのキャラメイクで職人によって作られたイケメンを優に超える程のイケメンがいた。


 断言できる。今までの人生で見てきた、テレビや映画、二次元のキャラも含めた中で一番のイケメンだ。

 こりゃ世界で一番イケメンってディアナが言っていたのも全然間違いじゃない。


 おいディアナ。全然似てないじゃんかよ。どこをどう見たらこれが俺に似てるんだよ。


「ソウ!!」


 ディアナは彼の登場により、シオリへの抱擁を解き彼の右腕に抱きついた。その顔は恋する乙女の顔になっている。


「――危なかった……。もう少しで逝くところだった……」

「いや、マジでな……」


 シオリが一息つくとイケメン――おそらくソウさんがディアナに言う。


「ディアナ、名残惜しいけど少しだけ離れてくれないか。俺は彼等に挨拶しないと」

「くっついたまま、ダメ?」

「それは礼儀に反するからね。――後でたっぷりくっつこう」

「なら、一旦離脱」


 ディアナは彼の腕から離れる。

 すると、彼は頭を軽く下げて言ってくる。


「すみません連れがご迷惑をおかけして」


 甘く誠実な声で謝られてしまう。


「い、いえ……謝る必要はないですよ、な、なぁ?」


 謝られている側がアタフタとしてしまいシオリに振ると、流石のシオリも相手がイケメン過ぎてか、コクリとしか頷かなかった。


 俺が言うと彼は頭を上げる。


「申し遅れました。僕は水原 蒼(みずはら そう)です。以後お見知り置きを」


 名前爽やかだなぁ。


「あ、一色 小次郎です」

「七瀬川 シオリです」


 自己紹介されたので、こちらも自己紹介を返すと、蒼さんが俺をを見てくる。


「一色さん……は、どこかで……いや、会った事はないと思いますが、何か俺と――コホン。僕と近い何かが……」

「いやいやいやいや!」


 恐ろしいわ。こんなんと近いとか末恐ろしいわ!


「それはない。イケメン度が違いすぎます」


 おい許嫁。それはそれで悲しいぞ。


「あはは。でも七瀬川さんの彼氏さんもめちゃくちゃイケメンじゃないですか」

「――それは……」


 シオリは俺を見ると「まぁ……」と若干のデレを見してくれる。

 なんか照れるな……。


「――何かお礼をしないと……」

「お礼なんてとんでもないですよ。俺達、ただ彼女と雑談してただけですし」

「しかし……それでも俺が彼女とはぐれてしまったのが原因です。なので、なにか――」


 彼が手を顎に持っていき考えているとディアナが「ムサシ」とシオリを呼んでコソコソと何か密談しているのが伺えた。


「――そうだ……これはどうですか?」


 彼女達を置いて蒼さんは腕に巻いていたブレスレットの様なものを取り外して渡してくる。


「ここの遊園地の年間パスポートです」

「え!? そ、そんな高価な物受け取れません」


 結構高価な物を出会って秒の奴に渡すなんて――もしかして富豪か?


「あはは。気にしないでください。知り合いにもらった物ですし、この年パス一つで一グループまでいけるのですが、妹も持ってるので二つも要らないかなぁ、と。――ぜひ次回のデートで七瀬川さんと遊園地でお楽しみください」


 なんだか彼の発言に違和感があるようなないような気がしたが……それがなんなのかはわからない。


「――そ、そうっすか……」


 結構強引に渡してくる年パスを受け取ると「見つけたー!!」と女性の声が響き渡った。

 声の方を見ると四、五人の女性陣がこちらに向かって走っている。


 プールサイドは走っちゃいかんよ。


「やばっ! ソウ! 行くよ!」


 ディアナは蒼さんの手を掴み走り出した。


「ディアナ!? ――あ! すみません。またどこかで」

「バイバイ! ムサシ! コジロウ!」


 颯爽と去って行く二人の後を「待て! ゴラァ!」と追う女性陣。


 ――これまた美少女ばっかりで、美的感覚が麻痺しそうになる。


 最後尾の少し雰囲気がシオリに似ている美女が俺の方をチラリと見た気がしたが、すぐに視線を前に戻して去って行った。


「なんだったんだ?」

「さぁ……。――ところで何もらったの?」

「ああ……。遊園地の年パス……。要らないからってもらった」

「え……良いのかな?」

「さぁ……。とりあえず、これ一つで一グループいけるらしい」

「一グループ?」


 シオリは首を傾げた。


「一グループっておかしくない?」

「――ですよね」

「そもそも年間パスポートって一人一つじゃないの?」

「言われてみれば」


 俺達は首を捻りながら考えるが、良くわからなかった。


「もしかしたらゴミ渡してきたとか?」

「到底そんな事する人には見えなかった」

「だよな。――ま、なんでもいっか。シオリは? ディアナと喋ってたみたいだけど?」

「そうそう。試したいことがある。次は生身のスライダー行こう」

「なんか嫌な予感がするんだけど……」

「良いから! 行くよ!」

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