第96話 許嫁と風呂の中
「うひゃー……」
「全身ビショビショだね」
玄関に入るとすぐに足下がビショビショになってしまう。
家に着く前からだけど、既に頭の先から足の先までお互いずぶ濡れであり、濡れたワイシャツやらパンツやらが肌に張り付くあの嫌な感じに慣れてしまっていた。
プラス、俺に関しては、謎のテンションでシオリをおんぶしてダッシュしたので体力が激しく減ってしまった。
雨の日にずぶ濡れだとテンション上がるよね……。その後、俺なにしてんだろ……ってなる。
まるで、酒をガンガン飲んだ次の日、トイレで休みを過ごす事になり後悔するみたいな感じだ。――いや、酒飲めへんから知らんけどな。
「コジロー、先にお風呂どうぞ」
「え……。いや、良いよ。シオリからで」
「ダメ。コジローから」
何か強い意志で見てくるので逆らえずに俺は「じゃあ」と無駄な口論はせずにすぐさま脱衣所へ向かう。
すぐさま服を脱ぎ捨て、風呂場へ入る。
夏が近く、気温も高いとは言っても全身濡れているので体温が低下しており寒い。
シャワーをしながら昨日の残り湯に追い焚きを開始させる。
俺は湯船に浸からないが、この後すぐにシオリに温まってもらう為だ。
夜にもう一度入ろうと思うので、さっと身体を洗う。
シオリが震えているだろうからな。俺なんかは秒で済まして風呂場のドアを開けた瞬間――。
「――うわぁ!!」
「なに? その反応……」
風呂を出ると脱衣所にシオリが立っていたのでかなり驚いた。
ドアを開けた先に人がいたら誰でもびっくりする件。
「なんでぃ!? その格好ゎぁ!?」
驚いたテンションのまま声を出したので江戸っ子みたいな声になってしまう。
シオリは後ろの髪を上げてバレッタで止めており、何故かスクール水着だった。
「背中流してあげるからもう一度入って」
「いや、俺もう上がろうと――」
「良いから入る」
強引に風呂場に戻され、洗い場の椅子に座らされる。
「てか、シオリ身体冷えてるだろ? 先に湯船浸かれよ。湯は温まってるはずだからさ」
「それは助かる。温まったら背中流す」
シオリは素直に頷いて湯船に浸かる。スクール水着で。
先程は驚きが勝ってしまったが……。なんで俺、スクール水着の許嫁と風呂入ってるんだろ……。てか、あれだな……。スク水って露出少ないけど風呂で見るとなんかエロいな。
しかし、それよりも気になるのはシオリは風呂に入る時、髪の毛を上げているって事だ。
そりゃ湯船に髪の毛が入らない様にするか……。
その髪型が新鮮で可愛い。
「コジロー……視線がやらしい……」
「いや……その髪型可愛いなと思って」
「え……」
シオリは反射的に髪の毛を触り照れた様子。
「ほら、シオリってほとんどアレンジなしだろ? だから体育の時とかのポニーテールも可愛いって思っててさ。他の髪型も見てみたいなぁと思ってたから、つい視線がな」
「そ、そう……」
シオリは満更でもない声を出して髪の毛をいじる。だが、次に思い出した様な顔をして少しむくれる。
「コジローの好きなタイプは『自分を肯定してくれてノリの良い巨乳ショートヘア』」
「おいおい……」
そんな話良く覚えていたな……。
「てか、それって純恋ちゃん? ――浮気?」
「なんでそんな解答になるんだよ! 違うっての!」
謎理論を否定すると、その件は納得してくれたみたいだが首を傾げてくる。
「でも、髪の毛は短い子が好みなんだよね?」
シオリは何か決意したような表情をする。
「――切る?」
「やめろやめろ!」
間髪いれずに制止をかける。
「折角、そんな綺麗なロングヘアーなのに。てか、好きなタイプとか適当に言っただけだし」
「ほんと?」
「ほんとほんと。俺、シオリがヘッドホン首にかけて髪の毛キュってなってるのも好きだから」
「――あれは私もお気に入り」
「あれ良いよね」
どうやら俺とシオリの好みは一致したみたいだ。
「だから切らないで」
「わかった」
どうやら髪の毛を切るというのは阻止できたみたいだ。
シオリ自身がイメチェンしたいと言うのなら止めないが、理由が理由なので思いとどまってくれて助かる。
「――でも、切るんじゃなくて、たまには他の髪型も見たいなぁ……とは思うな」
「例えば?」
「例え……。うーん……あのさ、ツインテールを上じゃなくて下で結ぶやつとか……おさげ?」
「あー……カントリースタイルね」
「へぇ。そんな名前なんだ。まぁ……それとか、サイドポニーとか?」
俺の提案にシオリはジト目で見てくる。
「な、なんだよ……」
「全部縛る系……。もしかして縛りたい願望が……。やはり変態」
「――もはやセワシ君理論だな。俺の場合行き着く先は何があっても変態という訳だ……」
「冗談。怒らないで」
「怒ってないから、今度髪型アレンジしてみて」
「善処する」
前々から思っていた髪型の事をこんなシュチュエーションで言えるとは思わなかった。
こんなシュチュエーション?
「あ、あのさ……シオリ?」
「なに?」
「今、色々と疑問点があるけどな、あえてこれから先に聞くわ。――なんでスク水?」
「裸は恥ずかしい」
「いや、まぁ……うん……。じゃなくてさ、他に水着とかないの?」
「ない」
ズバッと言った後に続ける。
「海や学校以外のプールに行った事ないから」
な、なんか聞いていて凄く辛い。
「もうすぐ夏だろ?」
「もう目の前」
「夏休みじゃん」
「この夏は熱い夏になる予感」
「海行くじゃん」
「行きたい。プールも」
「海もプールも一緒に行こう」
「うん」
シオリは嬉しそうに頷く。
「スク水で?」
俺の質問にキョトンとなる。
「浜辺の視線を独り占め?」
「ある意味な」
苦笑いで答えるとシオリも苦笑いを浮かべる。
「――変かな?」
「高校生でスクール水着は……ちょっと……」
「それもそうだね……」
シオリは考えると立ち上がる。
「早急に対応する」
そして湯船から上がり、風呂場を出て行った。
うんうん。良かった良かった。ま、シオリがスクール水着でも良いって言うなら俺は何でも良いんだが、折角なら可愛い水着でも着て欲しい。
――いや……待て……!
これ、ムフフなイベントだったろ!? なんで俺はリビングで出来る様な会話で終わらしているんだ……!?
「シオリー! スク水で背中流してくれるんじゃなかったのかー!?」
俺の変態的発言は浴室内に虚しく響くだけであった。
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