第37話 俺の両親は唐突

 高校の冬休みというのは短いものだ。


 三が日を過ぎたらF1並みのスピードで時が加速し、冬休みの残数も残り二日しか無くなってしまった。


 残り二日間何をして過ごそうか、この二日間の過ごし方で冬休み明けの俺の高校生活の活気が変わってくるだろう。

 いや、それは大袈裟かもしれないが、それくらいのつもりで何をして過ごそうか考えよう。


 リビングのソファーで決意をしてチラリとダイニングテーブルのいつもの席に座るシオリの方を見ると、相変わらず、体の一部と比喩していたヘッドホンをして読書に耽っている。


 ほんと……。何の曲を聞いて、どんな本読んでるんだろうな……。

 シオリの事だからクラシック聴きながら推理小説を読んでそう――うわぁ……おしゃれ……。


 あいつは残り二日を音楽鑑賞と読書で過ごすつもりだな。それで悔いなく冬休みを終えるってか? くっ……ルーティンで冬休みを満了させるとは高校生らしからぬ終わり方だ。


 俺にはそんなルーティンはない。どうすれば――。


 そんな事を考えていると、センターテーブルに置いていたスマホが震えた。


 テーブルで踊るように震えるスマホを「うるせ」と呟きながら取り画面を見ると――。


「父さん?」


 電話をかけてきたのは俺の父さんであった。


「もしもし」

『もしもし。コジ。元気かー?』

「体調は崩してないよ。父さんと母さんは大丈夫?」

『こっちも元気でやってるぞ』


 そう答える父さんの声色に嘘はなさそうだ。


「――で? どうかした?」

『ああ。実はな――年末年始の休みが取れてな』

「へぇ。良かったじゃん。年末年始休みないってボヤいていたから」

『そうそう。まぁ大晦日も新年も会社だったけどな』

「あはは。そりゃ仕方ないだろ。――それじゃ日本に戻って来んの?」

『もう戻ってきてんだよな』

「――は?」


 俺はあっけらかんとした声が出た。


『昨日帰国してきたんだわ。いやーやっぱ日本は良いね。ライスボールにミソスープ。最高よ』

「発音海外に染まってんじゃん! ――じゃなくて……帰ってくるなら帰ってくる前に連絡しろよ」

『サプラーイズ!』


 ――うざいわ……。この親、やっぱりうざいわ……。


『――つう訳で、今から実家に帰って来い』

「――は?」


 本気の疑問形な声が出てしまうが、父さんはお構いなしに続けてくる。


『後、汐梨も連れて来い』

「いやいや。いつも急なんだよ。こっちにも予定が――」

『コジはまだ冬休みだろ?』


 俺の台詞をキャンセルして来て聞いてくる。


「――ま、まぁ……」

『お前の事だから冬休みの残りも少なくなって、何かしなきゃとか考えてる所だろ?』


 ぐぅ……。と図星を突かれて黙り込んでしまと、父さんは電話越しに爆笑してくる。


『あっひゃひゃ! 何年お前の親してんだと思ってんだよ? どうせ、そんな事考えたってグダグダして終わるんだから帰って来い』

「単刀直入に言うわ」

『ん? どうぞ』

「めんどい。帰るのが」


 はっきりと言ってやるとすぐに返事が来る。


『分かる分かる。俺も逆の立場ならそう思うわ。流石は俺の息子、考え方が似てるな』

「だろ? だから、実家で母さんとイチャイチャしといてくれ」

『オッケー。俺等がそっち行くわ』


 あ、これ墓穴掘ったやつ……。


『そりゃそうだよな。誘った奴が出向くのが筋ってもんだ。そこに親子関係なんて関係ない。親だからとかそんなんじゃないよな? 分かった分かった。すぐ行くわ』

「ちょ――」

『いやー。久しぶりに行くわー。息子の家楽しみにしてるわ。――母さーん! コジが――』

「わーった! わーったから! 行くからっ!」


 親に部屋に来られるのは絶対に嫌だ。別に何かやましい物があったりする訳じゃないけど、何となくそれは避けたい。

 なので諦めてそっちに行くと返事をしてしまった。


『そ?』


 電話越しに父さんがニヤリとしたのが容易に想像出来た。


『そんじゃ今から来てくれな。汐梨連れてくるのわすれるなよ』


 そう言い残して父さんは電話を切った。


「――はぁ……」


 俺は壮大に溜息を吐いて数秒スマホを見つめると、センターテーブルにスマホを置くとダイニングテーブルの方へと歩く。


 俺の気配に気が付いたのか、視界に入ったのか分からないが、シオリは俺の存在に気が付いて、本を閉じ、ヘッドホンを外した。


「どうかした?」


 首を傾げて聞かれるので、いやーまいったまいった、と言わんばかりに頭を掻いてシオリの向かいの席に座る。


「さっき父さんから電話が来てさ」

「大幸(ひろゆき)さん?」

「ああ……。――って知ってた?」

「知ってる。美桜(みお)さんも知ってる」


 一応、許嫁って事をシオリは知ってたから、こっちの親の事は知ってるのか。

 シオリは知ってて俺は知らなかったのは納得いかないが、今はそんな事どうでも良い。


「――なら話が早いわ。俺の両親が日本に帰って来てるみたいだから顔見せに帰って来いって言われてさ。シオリを連れて来いって言うんだよ。一緒に行ってくれるか?」


 聞くとシオリは快く「良いよ」と答えてくれた。


「いつ帰るの?」

「それが今日って言うんだけど……」


 申し訳なく言うとシオリは相変わらずの無表情で席を立つ。


「分かった。今から準備するね」


 すんなりと話を受け入れてくれるシオリに感謝の感情が湧くが、同時に拍子抜けの様な感情も湧く。


「良いの? 予定とか無い?」


 あまりにも簡単に頷いてくれるので心配になり聞く。


「大丈夫。コジローも準備して」

「そ、そっすか。了解」


 こうして二人で俺の実家に帰る事になったのだが……両親はシオリを連れて来いって言う意味は一体なんなのだろうか――。

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