第33話 許嫁とクリスマスイブ②

 シオリがやりたいと言ったテレビゲーム。


 俺も男の子なのでテレビゲームは好きだ。なので、ある程度のジャンルのゲームは持っている。


 RPGやアクション。スポーツゲームと幅広くあるがシオリがやりたかったのは「パーティゲーム」らしい。


 パーティゲームも昔々に買った古いのがあるのだが、最新のパーティゲームは持っておらず、その事を伝えると「古くても良い」と言うもんだから、久しぶりにそれを起動させる。


 昔は良く親や、友達とやったパーティゲームだが、もう長い事やってないので「こんなんだっけ?」と懐かしみながら呟く俺の隣で、シオリは目を輝かせてゲームのタイトル画面を見ていた。


「私はこのキャラを使う」


 キャラクター選択画面でシオリは二足歩行のポップな龍のキャラクターを選択する。


「俺はこれ」


 俺は髭のおっちゃんを選択する。


「なるほど……。自分の性癖と照らし合わせるなんて……流石コジロー。お見それした」

「違うから! 帽子の『M』は違う意味だから! いや! てか、俺はMじゃないから」

「ふぅん」

「ほらほら! ステージはどうする?」


 次いで、ステージセレクト画面に移行してシオリに聞くと、少し悩んでから「ここ」と選択する。


「季節感無視だな」


 シオリが選んだステージは、常夏の南の島をモチーフにしたステージだ。


「冬になると早く夏になって欲しいと思う」

「逆に夏だと早く冬になれって思うよな」

「わかりみが深い」

「よいしょー」


 ステージセレクトを終えるとゲームスタート。


 このパーティゲームはスゴロク形式の応用版。

 サイコロを振って、出た目の数だけ進み、止まったマスに様々なイベントが用意されており、全員サイコロを振ったら色々なミニゲームでバトルし、お金を集めてお星様と交換するといった、お星様集めパーティゲームである。


 最終的にお星様が多い人の勝ち。


 参加者は俺とシオリ。そしてコンピュータが二人の四人バトルロワイヤル。


 リアルは真冬だが、常夏のバーチャル世界を俺達の分身が駆け巡る。




「――あ! コジローズルい!」

「ふはははは! 勝てばよかろうなのだよ!」

「ぐぅ……」


 プレイして数十分。そろそろ様子見から仕掛けに行く事に。

 初心者相手に大人気ないプレイを披露してやる。

 

 許せシオリよ。勝負の世界は非常なのだよ。




「――うわっ! やめろっ!」


 俺の容赦ない攻撃から数分後。


 すぐにシオリは反撃の狼煙を上げる。


「えー……。どうしようかなー。コジローさっき私にいじわるしてきたからなー」


 楽しそうに言って俺を見てくる。


「どうか、どうかお慈悲を!」

「いじわるするコジローにはお仕置き」

「ノオオオオオオ!!」

 

 冷徹無双の天使様はバーチャルの世界でも冷徹無双であった。




 ――小一時間程プレイして結果発表。


 一位、二位をコンピュータが。

 そして、三位がシオリ、まさかの四位が俺と言う結果に終わってしまう。


 パーティゲームは運も絡むから。所持者が勝つとは限らないから。それに俺は久しぶりだから。


 そんな言い訳を心の中で唱える。


「久しぶりにやると面白いな。楽しかったわ」


 表向きは綺麗事を並べておく。


 まぁ実際は最下位でも楽しかったからね。


「中々に熱い戦いだった」


 もしかしたら煽ってくるかと思われたが、シオリは満足そうに言ってのける。


「あはは! だなー。どうする? もう一回やるか?」


 聞くとシオリは首を横に振る。


「楽しかったからこれで終わりでいいや」

「そっか」


 お互い、センターテーブルにコントローラーを置いてソファーに深く座る。


「最下位のコジローには残念賞あげる」


 そう言って明らかにクリスマスプレゼントだと言わんばかりの包みを何処からか取り出して俺に渡してくる。


「え? もしかして……プレゼント?」


 聞くと、シオリは視線を逸らして少しだけ頬を赤らませる。


「う、うん……。く、クリスマスイブ……だし……」


 消え入りそうな小さな声。


 まじか……。嬉しい。


 まさかプレゼントがあるとは思わなかったからめちゃくちゃ嬉しかった。


 初めて親以外から貰うクリスマスプレゼントがこんな美少女からだなんて……。

 俺は生涯の運を使い果たしているのではないだろうかと錯覚してしまう。


「そ、そんなに大した物じゃないよ」


 俺はそんなに期待に満ちた顔をしていたのだろうか。シオリがハードルを下げにくる。


「――じゃあ、俺も」


 いつ渡すか迷っていたプレゼント。最悪、枕元にでも置いておこうかと思っていたが、今が絶好のチャンスだと思い俺もシオリにプレゼントを渡す。


「え!?」


 俺からのプレゼントにシオリは目を丸くして驚いていた。


「何でそんなに驚くよ? シオリも言ったろ? クリスマスイブだしって」

「いや……。私はこの前貰ったし……だから――」

「それって誕生日の分だろ? 誕生日は誕生日。クリスマスイブはクリスマスイブ。別物だろ? まぁ大した物じゃないがな」


 そう言いながら渡すと、シオリは俺のプレゼントを恐る恐る受け取ってくれる。

 まだ中身を見ていないのに、シオリは嬉しそうにプレゼントの包み眺めていた。


「本当に大したものじゃないぞ?」


 俺の声が聞こえているのか、いないのか、シオリはジッとプレゼントの包みを見つめていた。


「――な? シオリ?」


 名前を呼ぶと「あ……」と我に返った様な声を漏らした。


「なに?」

「折角、プレゼント交換したんだからさ。せーのっで開けないか?」


 俺の提案に頷いて「良いよ」と返事をしてくれる。

 

 俺達は「せーのっ」と包みからプレゼントを取り出した。


 シオリからのプレゼントから出てきたのは黒を基調にワンポイントで青いラインが入っている編み物。


 俺からのプレゼントは薄い水色の編み物。


 お互いの包みから出てきたのは『マフラー』であった。


 それを見た後にお互いの顔を見合わせて数秒見つめ合った後に「あっはっは!」とお互い吹き出してしまう。


「仲良しかっ!」

「――だね。ぷくく」


 初めて見る、シオリの爆笑の顔。笑い方が独特過ぎてツッコミたくなるが、それは置いておこう。


 お互い爆笑した後に一息吐くとシオリが改まった無表情でこちらに言ってくる。


「――ありがとうコジロー」

「ん?」


 何に対してのお礼なのか分からずに首を傾げるとシオリがこちらを見る、


「私の小さな夢だったんだ」

「夢?」


 おうむ返しで聞くと頷いて説明してくれる。


「クリスマスイブにクリスマスっぽい事をする事。チキンを食べて、ケーキを食べて、パーティゲームして、プレゼント渡して――。『一人』でじゃなくて『誰かと』――」

「今まではずっと一人だったのか?」


 ちょっと前までなら流していたかもしれないが、俺は少し踏み込んでシオリに聞いてみる事にした。


 俺の質問にシオリは小さく頷いた。


「――でも、仕方ないんだよ。お父さんもお母さんも仕事が忙しいし。私のワガママでお父さんとお母さんを困らせたくない」


 そう言った後に、シオリは俺に初めて苦笑いを見してくれる。


「――だったら友達と過ごせば良いって話なんだけど……。友達の作り方なんて分かんないからさ……」


「だからコジロー」と表情を戻してこちらを見て微笑んでくる。


「誕生日もクリスマスイブも一緒にいてくれてありがとう」


 何処か消え入りそうな儚い表情でそんな事を言ってくるもんだから「だったらさ――」と俺は提案する。


「え?」

「だったら――来年も再来年も一緒にこうやってパーティしようぜ。今年はちょっとショボかったけど、来年はもう少し前から計画して、もっと盛大にさ。な?」


 そう言うとシオリは目を丸めた後に言ってくる。


「来年も一緒にいてくれるの?」

「あ、ああ。あれだ……。あの……」


 俺は頬をポリポリと掻いて視線を逸らしながら、隠しきれない照れを出しつつ言い放つ。


「許嫁だからな……」

「――ぷっ!」


 俺の恥ずかしい台詞に壮大に吹き出してくる。


「――な、なんだよ!?」

「う、ううん。な、なんでも……。ぷくくー」


 ムカつく笑いをされた後にシオリは何処か上から目線な表情を作り出す。


「しょうがない。来年も一緒にいてあげるよ」


 そう言われて恥ずかしさを隠す様に俺はコントローラーを持つ。


「きょ! 今日はオールだ! 俺が勝つまで寝かせないぞ!」

「望むところ。コジローが今日寝る事は出来ない。なぜなら私が勝ち続けるからね」


 許嫁と過ごす初めてのクリスマスイブはパーティゲームでオールナイトとなり、クリスマスの日はお互いぶっ倒れる様に眠りについたのであった。

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