第24話 慈愛都雅の天使様のアドバイス
放課後になり、駅前にでもシオリへの誕生日プレゼントを探しに行こう、と思いながら昇降口で靴を履き替えていると「一色君」と明るい声が聞こえてきた。
振り返ると、先程の闇堕ち天使とは思えない程に明るい笑顔でこちらに駆け寄ってくる慈愛都雅の天使様。
「さっきまでお花畑でバーベキューしようとしてた人だ」
「あ、あははー! もう復活したよ」
言いながらピースサインしてくる。切り替えの早い女の子らしい。
「四条は今日は部活ないのか?」
「うん。今日はこれからバイトなんだー」
「へぇバイトかぁ。何の?」
「カフェだよ。星場(すたば)のね」
教えてくれると「いらっしゃいませー。――みたいな?」と舌を軽く出して茶目っ気を見してくれる。
こんな可愛い子がカフェで接客してくれるならお客さんが増えるのではないだろうか。
「一色君はバイトしてないの?」
お互い、足を校門に向けながら雑談に入る。
「今、探してるんだけど……中々良いバイトが見つからなくて」
「そうなんだ。――一色君なら……家庭教師とか似合いそう」
「カテキョか……。でも、高校生のカテキョって募集してないだろ」
聞くと四条は人差し指を顎に持っていき天を仰ぐ。
「あー……。言われてみれば大学生が多いイメージだね」
「てか、ここら辺のバイト募集って高校生不可が多いんだよな……」
肩を落としながら言うと「あれ?」と疑問の言葉を俺に投げてきた。
「一色君って冬馬君と同じ中学だよね?」
「そうだよ」
「じゃあ別にここら辺で探さなくても地元で探したら良いんじゃない? 確か学校から電車で何駅か離れてるんだよね? だったら休日とかわざわざこっちまで来るの面倒だと思うよ」
「あー……」
確かに四条の言う通りである。無理に高校の近くで探すよりも家の近くで探した方が利便性が良いだろう。――それは、もし俺が一人暮らしをしていなかったらの話だけどね。
俺が一人暮らしをしていると言う事は、別に自分から誰かに言う事でもないので、その事を知っているのは学校側と冬馬だけだ。しかし、別に秘密にしている訳でも無い。
話の流れだから別に良いか……。
「俺、家の事情でここら辺に『一人暮らし』してるんだよね」
一瞬、一人暮らしと言った時にシオリの事が過ったが、四条が俺の家に来る事なんてこの先ないだろうし、別に言っても何の問題もないだろう。
「えー! すごーい!」
四条は目を丸くして驚いた様に言ってのける。
「うそー。同級生が一人暮らししてるなんて――なんか、凄いね……」
「よしてくれ。親の金で生活してるんだ。カフェで働いて金を稼いでいる四条の方がよっぽど凄いよ」
「いやいやいやいや。あたしなんかお母さんに起こしてもらわないと毎日遅刻の自信があるよ!」
大きな胸を張って、堂々と自慢にもならない事を平然と言ってくる。
「そんなのは一人になったらどうとでもなるさ」
「いや、絶対一色君の方が凄いと思うよ」
「いやいや」
「いやいやいやいや」
お互い言いながら校門を出ると、俺は家とは反対方向――駅の方向へと足を向ける。
「あれ? 四条もこっち?」
「うん。駅前の星野(すたば)なんだ」
「国道沿いのじゃ無いんだ」
「あっちは募集してなかったんだよね。――一色くんの家は駅方向なの?」
「いや、本当は逆なんだけど、今日は駅前に用が――そうだ」
俺はポンと手を叩いて思い付いた。
「四条はさ、プレゼントとかどういうの貰ったら嬉しい?」
彼女もシオリとはベクトルが違うが、同じ美少女というカテゴリにいる。
四条の意見が何か参考になるかもしれない。
「え? プレゼント?」
「そうそう」
そう言うと二マリと笑ってくる。
「もしかして――彼女とか?」
そう言われて俺は爆笑する。
「俺にいると思うか? あははー」
「うん。いると思う」
予想外の答えに俺は少し戸惑ってしまう。
「え? 嘘……」
「本当だよ。いないの?」
「いないっての。いた事もない」
「へぇ。意外だねー。結構モテそうだけど」
「初めて言われたわ」
こんな可愛い子にモテそうとか言われると悪い気がしない――寧ろ気分めちゃくちゃ良いわ。
「じゃあ誰――もしかして七瀬川さん?」
まさに送る相手の名前が出てきてドキッとなったが冷静を装う。
「なんで?」
「いや、何となく? この前も一緒に部活来てくれたし」
「あ、あー。まぁクラスメイトの中でも喋る方なのかな? あはは。――送る相手は知り合いのお姉さんだよ」
適当に架空の送る相手を言うと「そっか」と言って、四条は人差し指を顎に持っていき考える。
「プレゼント……。うーん……。一番良いのはその人が欲しい物だけど……」
欲しい物……。眼鏡とかランドルト環とか言っていたけど、誕生日に送る物でも無さそうなので「まぁ分からないな」と答えておく。
「だよね。――その人がいつも使ってる物とか良いんじゃないかな? 例えばシャーペンとか。そのシャーペンも自分では買わない絶妙に高いシャーペンとかさ。アリなんじゃないかな?」
「あー。分かるわ。シャーペンもそうだけど、高いボールペンとか誰が使うねん! ってやつあるよな」
「そうそう。そう言うのをプレゼントで送るのって値段的にも丁度良いと思うよ」
「おお。めちゃくちゃ参考になったよ。ありがとう!」
礼を言うと愛らしい笑顔で「どういたしまして」と言ってくれる。
俺は四条のアドバイスを胸に駅前の雑貨店へと足を運んだのであった。
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