第21話 キャベツ姫とのデート
キャベツ姫はロンドンを、灯火があちこちでともるブダペストの夜景が見下ろせるテラスに案内した。
彼女は侍女に酒と肴を用意するよう指示し、別の侍女にはここに豚王がけっして来ることのないよう立哨せよと命令した。
で、ロンドンはキャベツ姫と差し向かいで一杯やることになった。
びっくりするような成り行きだが、彼にとってこれは大喜びイベントであった。今までは引っ張り回されていただけだったけど、二人でお酒、となればこれはもうりっばなデートではないか!
この前デートしたのはいつだったっけ、と情けないことを考えながら、旅から旅へと明け暮れる硬派ぶった男ロンドンは、内心の嬉しさを隠し切れないでそわそわした。
「さ、どうぞ」
キャベツ姫は色っぽく微笑んで、ロンドンにキャベツ酒入りの小瓶を差し出した。姫自らのお酌に彼は感激した。彼も姫の小さなグラスに酒を注いだ。
ぐびりと一気に飲むと、キャベツ姫も「今夜は飲むわよ!」とばかりにすぐ杯を干した。
「ふー、おいしい」とは言ったものの、彼女は父親には似ず、あまり酒に強くはないらしい。早くも頬が桃色に息づき、目がとろんとしてきた。
「どんどん飲んでね。なくなったらまた持って来させるから!」と彼女は言い、空になったロンドンの杯に酒を注いだ。彼はますます嬉しくなり、何か元気の出る話をしてあげなきゃな、と考えをめぐらせた。
しかし、機先を制したのはキャベツ姫の方だった。彼女は二杯めにちょっぴり口をつけると、ロンドンににじり寄って、いきなり言葉の暴風雨を降らせてきたのである。
「おとうさんったらね、ほんとにずるいのよ。自分は一万人の女を制覇だ、なんて息巻いているくせに、娘には変に厳格なの。あたしに彼氏ができそうになると、その男の子を左遷したりして邪魔するのよ。ひどいと思わない? おかげで城の男の子たちはびびっちゃって、あたしに声すらかけなくなっちゃったわ!」
また始まったぞ、とロンドンはげんなりした。
「それだけ姫のことを大切に思っているんですよ」
彼はあたりさわりのないことを言うしかなかった。
「ちがう!」
キャベツ姫は言下に否定する。
「あれは娘に対する愛情とかそういうレベルじゃないわ。もし愛ならそれは盲愛偏愛迷惑愛ってものよ。もう滅茶苦茶なんだから! あたしがどれだけ泣いたことか!」
彼女は興奮して両手で杯を握り締めた。精巧な細工入りのグラスがピシッと音を立てた。
よほどの恨みつらみがあるらしい。そいつをぶちまけられたら、せっかくのデートがだいなしになる、とロンドンは警戒した。
しかしキャベツ姫の勢いは止まらず、「あたしの初恋を話してあげる」と始めてしまったのである。甘い語らいの夢は破れた。彼女の身の上話はとめどなく続き、ロンドンは一方的に聞き役に回る破目に陥った。
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