第16話 姫の強襲

 超弩級の二日酔いである。ロンドンは目覚めるとすぐに、せっかく昨夜食べたマンモス肉をトイレで吐いてしまった。ふらふら状態でベッドに戻り、五分死んでからまた起き上がり、今度は胃液を吐いた。十分死んでから水を飲み、それもまた戻してしまった。頭がガンガン鳴り、平衡感覚がない。それから一時間で、彼は六回もベッドとトイレを往復した。

 ノックの音がした。

「ふわーい」と小さく返事したが、聞こえないらしく、さらに激しくドアが叩かれた。頭に響く。

「死んでまーふ。ほっといてくらさーい」

 やっとの思いでロンドンは言った。その声が聞こえたのか聞こえなかったのかわからないが、ドアが開き、人が入ってきた。

「だらしないわねぇ。まだ酔ってんの?」

 キャベツ姫だった。

 今日の彼女はキャベツ柄のサリーを身に纏い、いかにもお姫さま然としていて、ロンドンの胸を直撃する美しさである。しかし、今の彼には体裁を整える余裕はなかった。

「今日は不思議な動物の話をしてくれるって約束よ。楽しみにしてるんだから生き返って!」

 そういえば、そんな約束をした気もする。ロンドンは濁った脳みそで回想した。でも、ちょっと今はだめだぁ。

 反応のないロンドンを、キャベツ姫は無理矢理起こし、豚王の寝室まで引っ張っていった。なんつーわがままな姫だぁ、とロンドンは頭の中で悲鳴をあげた。

 豚王も地獄の二日酔いから抜け出せないようすだった。王の寝室の床はゲロだらけ。こちらの方はトイレだの流しだのに駆け込む余裕もなかったらしい。

「おとうさんまでしようがないわねっ! 講義よ講義! 古生物学講義の時間よっ!」

 キャベツ姫が豚王の耳元でまくしたてたが、沈没戦艦と化した豚王を起こすのは、いかに彼女といえどもかなわなかった。王がぐええ、と不吉なうめき声をあげたので、身の危険を感じてキャベツ姫は飛びのいた。

 ロンドンは、豚王のていたらくに救われた形になった。彼は「三時間後よっ」と言い渡され、プリプリしている姫から解放された。

 講義が始まったのは、結局四時間後のことであった。

「ロンドン。おぬしなかなかやるな……」

「陛下の方こそ、なかなかどうして……」

 豚王とロンドンは昨夜の健闘を称えあい、それからロンドンが「今日は陛下と姫に驚異の古代生物について、いくつか紹介したいと思います」と始めた。

 キャベツ姫が紙芝居か何かと勘違いしてるみたいに、にこにこ笑って拍手した。

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