第11話 豚王城

 王城は豚鼻型のドームの周りに六本の尖塔を配したなかなか斬新なデザインだった。先頭のひと際高い尖塔には、〈歓迎吉田ロンドン様〉と大書された垂れ幕がひらひら踊っていて、なるほどこりゃあ型破りな王様らしいや、とロンドンを感心させた。

 王城の前にロンドン一行が到着すると、ファンファーレが鳴り響き、千切りキャベツ吹雪が舞った。一瞬、彼は一介の旅人に対してこりゃあちょっとオーバーなんじゃねぇのと思ったが、いや、これはおれの名声と演出、宣伝の勝利なのだと思い直す。

 そうだ、せっかく豚王が歓迎してくれるってんだから、この際徹底的に自分をアピールして、一気に王と友達になっちまおう!

 覚悟を決めたロンドンは、歓声で迎えてくれる王城の人たちに笑顔で応え、手を振った。

 王城前広場に巨大人骨車と労働者を残し、王の使いに促されて、ロンドンは城門をくぐった。歴代豚王の石像が並んだ厳かな回廊を進み、いよいよ会見の間とおぼしき大広間に出る。

 そこは最近やっと有名人の仲間入りをしたばかりのロンドンが、初めて経験する晴れがましい舞台であった。たまげたことにその広間の内装は壁も床も天井もすべて金属でできていた。

 まがまがしさを秘めた金属の光に、彼は目が眩んだ。

 これはもしや、古代文明期の終焉と共に消えたステンレスとかいうものではあるまいか? つくったんだか遺跡からかき集めたんだか知らねえが、とにかくすげぇや。

 ロンドンの心に、豚王に対する畏怖の念が急速に形づくられた。

 豚王はすげぇ! お人好しのシベリア公なんかとは格がちがう。希少物質の金属をこんなに贅沢に使うなんて!

 この内装をつくったのは現豚王ではなく、何代か前の豚王なのだが、畏怖の念に囚われたロンドンはそんなことには気づかない。前を見れば、極官大官武官を従わせた豚王があろうことか超希少物質であるプラスチック製の玉座にすわっている。

 なんという物量物質攻撃! ロンドンは思わず跪き、平伏した。

 頭髪、眉毛、睫毛、髭のない僧形の豚王が彼を見下ろしている。そのつるんとしてやたらと大きな顔には異様な迫力があった。

 広間中がしぃぃんと静まり返り、視線がちくちくとロンドンを刺した。彼は完全に舞い上がってしまった。何か言わねばと焦るのだが、緊張で声が出ない。

「わ、わわわたくしは、よよしだ、ろ、ろんどんであります。ごこうめいな、ぶぶ、ぶたおうへいかに、ひとめはいえつしたく、た、たびをしてまいりました」

 とぎれとぎれどもりどもり冷や汗かきかきやっとの思いでロンドンは発声した。こんなことは初めてだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る