第36話 自決

 まさか躱されると思ってなかった私は、次の手を打つのが若干遅れた。


 その間、カイル様とアラン様が苦戦している。多勢に無勢だから当然だ。ましてや相手は相当な手練れ。このままではやられてしまう。だから私は方針を変えた。


 連中の足元を狙うことにした。どんなに剣の手練れであっても、足元は疎かになるだろうと思ったからだ。


「がぁっ!」「ぎぁっ!」「ぐぅっ!」「げぇっ!」「ごふっ!」


 思った通りだった。5人があっという間に地を這ったので、残った最後の1人、私の攻撃を躱したヤツもさすがに動揺したようだ。今度こそ後頭部に一撃して昏倒させた。


 カイル様とアラン様の方も終わったようだ。5人とも絶命している。


「お二人ともお怪我はありませんか?」


「問題ない」「かすり傷だ」


「良かったです。ところで、紐かロープを持っていませんか?」


「持ってるが、どうするんだ?」


「この男を拘束して下さい。いつまでもこの場所に留まるのは得策ではありませんから、尋問は王宮に戻ってからにしましょう」


 いつまた伏兵がやって来るか分かんないからね。


「だがこの馬車が邪魔だぞ?」


 私は連中が横向きにして道を塞いでいる馬車に触って、一瞬の内に亜空間へ収納した。 


「これで通れます。さぁ、行きましょう!」


「お、おう、分かった!」



◇◇◇



 男はロープでぐるぐる巻きにした後、亜空間に放り込んでおいた。馬車に戻るとアクセル様が迎えてくれた。


「お疲れ様、怪我は無いかい?」


「えぇ、大丈夫です。あの体勢から躱されたのは初めてだったんで、ちょっと焦っちゃいました。私もまだまだ修行が足りませんね...」


 相手は相当な手練れだったからね。それに対して私は素人に毛が生えたようなもんだから。


「いやいや、カリナは十分凄いと思うぞ? 今日だけで俺は何度も命を救われたんだからな。今日だけじゃない。これまでを含めたら何度救われたことか。本当に感謝してるんだ」


「有り難いお言葉です」  


 その後は何事もなく王宮に着いた。私達はアクセル様の部屋へは向かわず、近衛騎士団の詰所に真っ直ぐ向かった。男の取り調べをするためだ。


 詰所に着くと、早速カイル様とアラン様が同僚に今日起こった事を説明した。すると何人かの騎士が飛び出して行った。恐らく、放置して来た賊の死体を回収しに行ったのだろう。


「カリナ、いいぞ。出してくれ」


 取り調べ室に入った私にカイル様が告げる。アラン様は隣で警戒体勢に入った。アクセル様は部屋に入れていない。


「出します」


 私は亜空間を解除した。男が床に転がる。カイル様が男を仰向けにしようとして止まった。


「こいつ...自決している...恐らく奥歯に自決用の毒を仕込んでいたな...」


 敵ながらあっぱれというべきか。初めて私を焦らせた名もなき手練れの剣士は永遠に沈黙した。


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