第二十三話 客人


 ユウキたちは、客人をもてなす準備を始める。客人が、ユウキたちの拠点に来て、ポーションを渡すだけには出来ない事情ができてしまった。

 部屋の準備はできているのだが、それ以外の準備ができていない。滞在は、長くはならないと仮定しているのだが、客人の都合で伸びることも考えなければならない。


「今川さん。それで、客人は?」


「明日に、成田で、翌日には来る」


「わかりました。それでどうします?上級を利用しますか?」


「うーん。なぁユウキ。中級と上級の違いは?」


「違いですか?中級は、欠損は治りません、上級は欠損が治ります」


「例えば、色とか、味とか、見た目は?」


「あぁ・・・。大きな違いはないですよ。鑑定が使えなければ、わからないと思います」


「そうか・・・。でも・・・。よし!決めた。ユウキ。上級を頼む。先方には、説明をする」


「わかりました。値段は、森田さんと決めてください」


「いや、ユウキ。悪いけど、捨て値になっていいか?」


「何か、考えがあるのですか?」


「あぁ客人の父親に、金銭の要求はしない」


「対価を要求しない?」


「いや、対価は要求する。金銭は、父親が支払ってもよいと思う金額にする」


「へぇ考えたね。それで?」


「情報をもらう」


「情報?」


「ユウキ。俺たちがやっていることは、確かに世界で、俺たちだけだ。でも、名前を聞けば解るようなセレブが気にするようなレベルだとは思えない」


「そうなのか?」


「あぁ確かに、水面下で接触してくる奴らはいるけど、”脛に傷を持つ”者だ」


「まぁそうだろうな。詐欺の一歩手前だからな」


「そうだ。それでも、彼は接触してきた。そして、火傷を治すためだとしても、娘を預けると言っている。尋常じゃないだろう?」


「そうなのか?」


「そうだよ・・・。まぁいい。それで、彼らが何を狙っているのかを、率直に聞くことにする」


「わかった。俺たちがした方がいい事があれば教えてくれ、相談には乗れると思う」


「その時には、頼む。さて、俺は、交渉をしてくるよ」


 今川さんが、部屋を出ていく、変わりに入ってきたのは、部屋の監修に来ていたセシリアだ。サトシは連れてきていない。向こうで、国王になるための勉強をマイとしている。


「セシリア。悪いな」


「いえ、王城にいると、サトシ様を甘やかしてしまって、マイ様に怒られてしまいますので、渡りに船でした」


 セシリアは、日本語の本を読み始めている。

 サトシが、マンガが好きだと宣言して、マイは小説が好きだと言ったのがきっかけになっている。二人が好きな物を、自分も嗜みたいと言い出したのだ。


 サトシやマイにマンガや小説を送るついでに、セシリアに日本語で書かれた絵本を送ったのがきっかけになった。そして、セシリアが日本に着た時に、スキルを得た。言語理解だ。これで、セシリアも日本語が読めるようになった。


「そうか・・・。サトシは、上手くやっているのか?」


「はい!」


「そうか・・・」


「ユウキ様。すこし、問題がありそうな箇所は、修繕されていました」


「よかった」


 最終確認に来てもらっている。

 以前は、ダメ出しが多すぎて泣きそうになってしまった。


「はい。それで、気になった場所が出てきましたが・・・」


「そうか?すまん。教えてくれ」


「はい。些細な事ですが・・・」


 セシリアから聞いた内容をメモして、親方たちに伝える。

 すぐにできそうにない事は、スキルを使って実現が”可能”か、考えてみる。ほとんどの場所が、親方たちが修繕できるとのことなので、任せる。最後の仕上げは、本当に些細な変更だけだった。


 ユウキたちだけだと、何が問題になるのかさえ解らなかった。やはり、生粋のお嬢様に話を聞いたのは、間違いではなかった。

 説明をしてもらえれば、理解はできるが、指摘されなければ気が付かない。


 ユウキのスマホが振動した。


「はい。わかりました。連絡ありがとうございます」


 今川から、客人が成田で足止めされてしまったと連絡が入った。

 どうやら、検閲で注意されているようだ。一泊してから、ユウキたちが用意した場所に来ようと考えていた。しかし、日本で活動をするためには、2週間の隔離期間をおかなければならない。特権を行使しようとしたが、ユウキたちの人となりを聞いていた、上級ポーションを必要としている娘が、日本の流儀に併せた方がいいと言い出したようだ。

 乗ってきたのが、プライベートジェットであり、空港に逗留させるために、特例で、プライベートジェットの中での隔離が行われる。


「ユウキ様?」


「あぁ客人の到着が遅れるらしい」


「そうなのですか?この世界でも移動は大変なのですね」


「あぁ・・・。まぁ移動というか、国ごとのルールが面倒になっている」


「そうなのですね。国は、どこでも同じなのですね」


「そうだな」


 ユウキも解っている。これ以上、この話を掘り下げても誰も幸せにならない。それだけではなく、日本だけではなく、地球の歴史をセシリアに説明しなければならなくなってしまう。そんな面倒なことは、ユウキはやりたくない。マイに任せてしまいたいと、本気で、心の底から、思っている。セシリアの好奇心は、それは、日本海溝よりも深い。一つの物事でも、いろいろな角度から考えて、質問をしてくる。異世界を説明するのに、ユウキがどれだけ苦労したのか、同じようなことをもう一度やりたいとは思わない。だから、本を与えたのだ。言葉が理解できるようになって、一番、喜んだのはセシリアではなく、ユウキなのは間違いではない。


「セシリア。送っていくよ。本はどうする?余裕ができたから、買いに行くか?」


「いいのですか!」


「おぉ無理は言うなよ?」


 サトシが、セシリアを連れて、西と東に反対の名前のデパートが入っている街にあるビルをまるまるアニメ関連の店に連れて行ったことがある。その時に、ビルが閉店になるまで出てこなかった。予算を決めていたので、その予算内で何を買うのか迷った挙句、決められなくて、悩み続けた結果、時間だけが経過してしまった。


 あれから、使える金額も増えた。サトシやマイが欲しい物を買っても、余裕があるために、二人が使える金額を、セシリアの本代に充てている。


 近くには、大きめの本屋が無いので、子供のときに通っていた本屋に向かった。程度な大きさがあり、新刊から少し前の本が置いてある。技術書も適度にあるので、セシリアを連れて行くのには向いている。セシリアが、超絶美人の外国人でなければ・・・。だ。


 流暢に日本語を話す。日本人ではない美人は目立ってしまう。東京なら目立つとしても、日本人ではない美人が皆無ではない。しかし、地方都市では珍しい。


 注目を集めた以外に、問題はなかった。

 ユウキが、拠点に戻って、セシリアを送り届けて、戻ってきた。


「お!ちょうどよかった。ユウキ。電話で伝えた通りだ」


「2週間の隔離ですか?」


「あぁ部屋は?」


「最後の確認を、セシリアに頼んでOKを貰いました」


「そうか、少しだけ余裕が出来たな」


 今川とユウキは、部屋の確認をして、先方から貰った情報から、食材などの手配を始める。

 要望は、”ない”と告げられているが、そのまま鵜呑みには出来ない。今川が、先方の代表者に連絡をして、準備したほうが良いものを確認している。殆どの物を持ってくる予定にしているようだ。


 準備には、時間は必要なかった。


 明日には、隔離期間が終わる。

 成田からは、今川が手配した車で向かってくる。


 陽が陰り、星空が見え始めた頃に、客人がユウキたちの拠点に到着した。


『ようこそ。今日は、もう遅いので、詳しい話は明日にしましょう』


 ユウキがにこやかに微笑みながら手を差し出す。

 執事に見える男性が押している車椅子に座る少女は、ユウキを見て驚いた表情を見せる。


『英語でも大丈夫です』


『わかりました。しかし、私は英語も貴女の母国語もわかりません』


『え?』


 客人の驚いた表情を見て、ユウキはまた微笑みを浮かべる。


『これが、魔法です。私は、ユウキ。魔法使いです』


 ニヤリと笑った顔を、客人である少女は、驚きと期待を込める目で見つめている。

 そして、火傷の痕が残る手を出して、ユウキの手を握る。


 この行動は、見守る大人たちが驚愕の表情を浮かべる。

 ユウキが手を引っ込めなかったことも、少女が手を差し出したことも、想定していなかったからだ。

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