EF70
問題は、EF60をもとにして、いかに新しい交流機関車をデザインするかということだった。
北陸線用の機関車としてはすでにED74が落成していたが、こやつは長編成けん引時、北陸トンネル内での再発進に不安があり、
「やっぱり6動軸が必要やで」
しかしながらEF60の重量はすでに制限いっぱいの96トン。
これに整流器を追加するのが交流機であるとすれば、重量超過は火を見るより明らか。(※)
「なんかEF60から外せる機器はないか?」
「なさそうですよ。EF60は蒸気発生器もないし、重連装置さえついてない。メンテが少なくて済む台車のおかげで、いい機関車なんですがねえ。ちょっと足が遅いから、ブルトレ引くには苦労してますが」
「メンテが少なくて済む台車ってなんだ?」
「ほら普通の台車は、車軸のベアリング部分を2本の柱のようなもので挟んでいるでしょう? TR11だって、TR23だって、DT22だって」
「ああ、そうか」
「あれは簡便な方式なんですが、欠点もありゃんしてね。車軸のベアリング部分のことを『軸箱守』と言いやすが…」
「『じくばこ・もり』って読むのか?」
「そうそう。走行中はその軸箱守が上下に運動するので、それをはさむ2本の柱がだんだんちびてくるんです。これを放置するとガタが出て、ついには軸箱が前後に揺れはじめ、これが『蛇行』といって、脱線に結びつきます」
「こえーな」
「それを防ぐため、ガタを修正する定期的なメンテが必要ですが、それをEF60のDT115台車は巧妙に回避しておりまして」
「どうやんだい?」
「メンテが不要にはなりません。しかしメンテ間隔は伸ばすことができて、かなりのコストダウンにつながるんですよ。といっても、前後の柱を平面から、ただ垂直の円筒形に変えただけなんですがね」
「そんなのでいいのか?」
「軸箱守が上下に運動するときに『こする』面積を考えてみてください。小さな四角い面積をこするか、円筒の曲面全体をぐるりと360度、全面こすらされるか。ちびる速さは全く違うはずです」
「ははあ」
と、すばらしいDT115なのだが、ここから先は私の想像。おそらくDT115は、
「重い」。
EF70を作るには、とにかくどうにかして重量を削らなくてはならない。
そこでDT115の使用をあきらめ、メンテ面の不利を承知で、円筒式でない普通の台車を新設計した。
これがDT120だと思う。とにかくDT120の売りは、「軽い」こと。
だからさらに数年後、奥羽線用としてEF64が作られるときにも、DT120に白羽の矢が立った。
EF64は、EF60に抑速ブレーキをつけ、暖房用の電動発電機を乗せた車だから、やはりどこかで帳尻を合わせなくてはならない。
それにしても、全長が16・5メートルのEF60と、17・9メートルのEF64が同じ96トンなのだから、技術の進歩は恐ろしい。
さらに時がたち、交直両用機関車の決定版ともいうべき車を作ることになった。
考えてみればこの時点まで、全国区で使用できるような交直両用機は存在しなかったのだね。
(EF80は常磐用。EF30は関門専用)
するとまた問題になるのが、
「どうやって軽くするか?」
ただこの時は、96トンはついに諦めた。EF81は100・8トンもある。
それでも軽量化の努力はもちろんされ、かといってDT120は採用していない。今回は、軽量さと、メンテの良さの二兎を追う気になった。
だが、どこかで帳尻を合わせなくてはならないのがこの世というもの。
新台車のDT138は、円筒式ではありますが、やはり省略した部品がある。
それは何かって?
「揺れ枕を取っちゃった、てへ」
(ただし、揺れ枕ナシ台車の乗り心地がそれほどひどいものではないということは、ED75ですでに実証されていたのだろうけれど)
(※)
書き終わってから気づいたのだけれど、EF60からは抵抗器も下ろすことができるから、さらにそのぶん車体は軽くなるはずですが…。
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