関ヶ原の問題


「鉄道ファンをやっていて、何かいいことがあったか?」

 などと質問されたことはないが、


・時刻表が読めるようになった。


 という答えはインパクトに欠けるし、


・いつの間にか旅慣れた。


 というのも、どうだろうね。


 じゃあ、


・問題に直面した際の、先人たちの解決策とその失敗例を学んだ。


 というのは嫌らしいですかね?


 東海道線の関ヶ原は勾配がきつい。

 電化完成後、1200トンの貨物列車をここで運転したかったのだが、そうするとEF15のモーターが上り坂で過熱しすぎてしまう。

 これは問題だ。じゃあどうする? どうやって解決する?


「高性能な新型機を設計する」

 

 なんてのは優等生の答えだが、世の中そうそううまく行くもんでないことを知らない優等生も多い。

 三国志か何かで、そんなエピソードがなかったですかね? 漫画で読みやした。

 座学で兵法を学んだだけで、自分は有能だと思い込んだ参謀がいたが、実戦ではまったく…


 高性能機ったって、そんなモーターどこから持ってくる? 軸重はちゃんと収まるのかい?


 ところで史実は、


「EF15は6個モーターだよな? じゃあ同じモーターを8個付けた機関車を作ればいいじゃん」


 ハイ、EH10が出来ました。


 別に私はバカにしてるんじゃないですぜ。

 これはこれで正しい問題解決の方法だと言っておるのです。


 予算には限りがある。

 期日も決まっている。

 持ち合わせた技術にも限りがあると来れば、持ち駒の中から何か解決策を探すほかないわけで。


 そういった例をもう一つ。


 戦争中は中断していたディーゼルエンジンの研究が、戦後になって再開されたが、なかなかうまく行かない。

 支線や入換に使用するディーゼル機関車には1000馬力ほど必要だが、そんなエンジンまだない。


「じゃあ仕方ねえ、戦前に試作した電気式キハのエンジンあったろ? あれを2個積もう」


「えっ、武豊線で試運転をしたキハ43000ですかい? だけど、あいつはオーバーヒートの常習犯でやんすよ。潤滑がうまく行ってないんでさあ」


「あのエンジンは3百数十馬力だったろ? 2個積めばほぼ1000馬力だ。潤滑といったって、キハの狭い床下に、横置きシリンダで押し込んだのが原因だよ。縦に置け、縦に」


 というわけで、DD13ができました。

 軸重が重いとか、客車の暖房装置を備えていないという欠点はあったにしろ、DD13がそれなりに良い機関車だったことは、よくご存知であろう。


「じゃあ次は本線用のディーゼル機関車だな。本線用なら2000馬力は必要だな。DF50もDD54も、うまくなかったしなあ」


「それなら、DD13のエンジンをもう一度使えば?」


「バカいえ、1両にエンジンを4個も積むのかよ」


「いや、そうじゃなくてさ、DD13のエンジンは直列6気筒でっしゃろ? ならばそれを2個くっつけて、V型12気筒にすれば?」


「おお…」


 はい、DD51ができました。

(なお、台車はDD13と同じのを使います。コストダウン、コストダウン…)


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