第87話 新たな出版社

 テレビ出演が成功を収めてから、Whiteへの仕事依頼が急激に増えた。

ライブへの出演依頼はもちろん、雑誌取材の依頼までその内容は多岐に及んだ。

極め付けは、無名のアイドルを半地下まで押し上げてプロデューサーとして、俺に取材したいという物まであった。


「テレビ効果すごいな」


 俺はパソコンに表示されているメールを眺めて言った。

その中に個人的に1番目を引いたものが存在した。


 メールのタイトルには『雑誌出演のご相談』というものだった。


「マジか……」


 そこは、大手3社と呼ばれる出版社の一つだった。

大手出版社は集央出版、英和社、談冬社の3社である。


 俺は集央出版と英和社には知り合いが居る。

しかし、談冬社には知り合いが居なかった。


 今回依頼が来たのは、談冬社からだった。


「これは、断る理由はないよな」


 この話を受ければ、大手出版社3社と繋がりを持てることになる。

これは正直言えば大きいだろう。


 俺はこの話を進めることにした。


 すると、先方はかなり乗り気であった。

直接会って打ち合わせをしましょうということになった。


 スケジュールを調整して、俺は一週間後に予定を立てた。



 ♢



 歳を取ると一週間というのが一瞬で過ぎ去っていくと感じる。

今日は談冬社の担当さんとの初回打ち合わせの日であった。


 俺は談冬社の本社ビルへと向かっていた。

談冬社の最寄り駅から本社ビルまでは徒歩数分だった。


「ここだな」


 ビルの正面には談冬社と書かれた看板が設置されていた。


「週刊少年エリース編集部の横山様とお約束をしております、株式会社フルムーンの四宮と申します」


 俺は総合受付でそう言った。


「ご確認致します」


 美人な受付嬢の子が確認を入れると、顔を上げた。


「四宮様ですね。いつもお世話になっております。エレベーターで4階へお上がりください」


 受付嬢は微笑みを浮かべながら、通行証を渡してくれた。


「ありがとうございます」


 俺は通行証を首にかけると、エレベーターのボタンを押した。

しばらく、エレベーターを待ち、指示された通りに4階のボタンを押した。


 エレベーター内にも談冬社が手がけている漫画やアニメのポスターが貼られている。

これは、どこの出版社でも似たようなものらしい。


「四宮さんでよろしいでしょうか?」


 エレベーターが4階で開くと、40代半ばくらいのメガネをかけた男性に尋ねられた。


「はい、そうです」

「この度はご足労いただきましてありがとうございます。こちらにどうぞ」


 俺は会議室のような所に通された。


「もうし遅れました。私、週間少年エリース編集部で編集長をしております、横山樹と申します」


 そう言って、横山さんは名刺を差し出した。


「頂戴します」


 俺は横山さんの名刺を受け取ると、スーツの内ポケットに手を突っ込んだ。


「株式会社フルムーンでチーフプロデューサーをしております、四宮と申します」


 俺も名刺を渡した。


「ありがとうござます。頂戴します。どうぞ、おかけになってください」

「失礼します」


 椅子に座ると、横山さんあは俺の対面に座った。


「この度は突然のお声かけにもかかわらず、前向きに考えてくださり、ありがとございます」

「いえ、とんでもございません。こちらにもメリットがあることだと思いますので」


 この仕事が成功したら、間違いなくプラスになる。


「そう言って頂けて幸いです。早速ですが、弊社が刊行しております、週間少年エリースはご存知ですかね?」

「もちろんです。有名な漫画雑誌ですから」


 週刊少年ブレイブといい、エリースといい、日本に住んでいたら一度は目にしたことのある漫画雑誌である。


「恐縮です。これは先週のエリースなのですが、この巻頭のグラビアページに御社のWhiteさんを使いたいというご相談になるのですが」


 横山さんが、実際に漫画雑誌をめくりながら説明してくれる。


「弊社としては、ぜひともお願いしたいと考えております」


 望月社長からのゴーサインも出ているし、なんとしても物にして来いと申しつかって来たのだ。


「ありがとうございます。つきましては、スケジュールの調整の方に入りたいのですが」

「はい、お願いします」


 俺はカバンの中からスケジュール帳を取り出して来月以降のページを開いた。


「弊社としては、来月の末に刊行されるエリースで掲載したいと考えております」

「となると、撮影は再来週にはって感じですかね?」

「よく分かっていらしゃる。もちろん急なことですので、無理なら後にずらすこととは可能ですが」


 ウチとしてもできるだけ先送りにはしたくない案件である。


「再来週ですとスケジュールに空きがあるので、撮影を入れることは可能だと思います」

「助かります。では、再来週の木曜日でいかがでしょう」

「大丈夫です。そこでお願いします」


 木曜日は夜にレッスンが入っているだけなので遅くならなければ問題ないだろう。


「承知しました。ではその方向で手配します」


 横山さんも手帳にメモをしながら言った。


「あの、私からの提案が一つあるのですがよろしいでしょうか?」

「はい、伺います」


 俺は横山さんにある提案をぶつけようとしていた。

 

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