第66話 四宮渉という男(ブルーシンデレラ目線)

 四宮との挨拶を終えると、準備のためにバックヤードの方へと戻る。


「荒木さん、四宮さんが来るなら先に言ってくださいよ! 言ってくれてたら、もっとちゃんとメイクして髪もちゃんと……あぁー」


 美優は頭を抱えていた。

四宮の雰囲気は1年前とは割と変わっていたので気づかなかった。

これでは、ファンとして失格である。


「申し訳ない。チーフプロデューサーになったって聞いてたから現場に出てくるとは思わなくて」


 普通、それなりの立場の人間は現場は他の人に任せたりする人が多い。

しかし、四宮はそれはしない。

自分が担当したアイドルは責任持って自分が同行するというのが四宮の理念であり、ポリシーだった。


「美優は四宮さんに会いたいからこの業界に入ったんだもんねー」

「もう、桜は余計なこと言わないでよ」


 同じブルーシンデレラのメンバーである桜がからかうように言った。


「でも、あれはズルいわ。26歳であのルックスとか絶対モテるもん」


 同じくメンバーの紗希は言う。


「だよね、荒木さんと交換して欲しいくらいだよ」

「おい、それは聞き捨てならんぞ」

「ははは、冗談だって。男は顔じゃないよ荒木さん」

「それはそれで傷つくな!」


 荒木と桜がそんなやり取りをしていた。


「どうしよう。四宮さんに絶対嫌われた。キモい女だって思われたよ」


 美優はまだ落ち込んでいた。


「まだ言ってんの? あんたの好きな四宮さんはそんなことで人を判断するような人なの?」

「それは絶対に違う! 四宮さんはそんな人じゃないよ!」

「だったら、クヨクヨしない! チャンスはいくらでもあるんだから」

「うん、私頑張るよ」


 紗希に励まされて、美優は立ち上がった。


 美優は四宮に会いたい、あわよくばプロデュースしてもらってアイドルになりたい。

そんな不純な動機からアイドルを志した。


 なので最初は、四宮の所属する事務所のオーディションを受けた。

残念なことにオーディションは通らなかったが、夢を諦めたくはなかった。


 違うアイドル事務所のオーディションに合格することができた。

この業界に居ればいつか四宮に会えると思っていた。


 その『いつか』が唐突に訪れるとは思わなかったが、人生というのはどこで何が起きるのかわからないからこそ面白いのかもしれない。


「会ってみて思ったけど、やっぱカッコいいなぁ。あれ、彼女とかいないのかな? 荒木さん知ってます?」

「彼女とかの噂は聞いたことないな。24時間仕事しているような人だからね」

「あー、なら居ないのかぁ。よかったー」


 謎の安心感が湧いてきたと思ったら、もう開演の時間が迫ってきていた。


 今日は『影の天才』四宮渉が見ている。

そう思うと、不思議と気分は高揚した。

その分、緊張も普段よりしている気がする。

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