027.愚考。
私は、お前が同族だから側にいてほしい訳じゃない。
金と銀の双方を持ち合わせながらしかしそのどちらでもない青年を見据え、空がはっきりとそう口にする。真っ直ぐに青年に向けられたそれは、どこか宣言のようにも聞こえた。
いきなり何なのさ、小さな世界の不適合者。
空から投げかけられた言葉に、青年が眉根を寄せて返す。不機嫌そうに見える青年は、しかしただ単に空の言葉を不可解に思っているだけである。そう、本当に青年には空が何を言いたいのか分からない。
お前は私に言っただろう。私はお前ではなく、同族を求めているだけだと。でも、私は……。
ああ、そう言えばそんなことを言った気がするね。それがどうかしたのかい、小さな世界の不適合者。
空の言葉を遮って青年が告げる。青年のあまりにどうでもよさそうな態度に対して、空はむっと眉を寄せた。
何だそのどうでもよさそうな態度は! お前が言ったんだぞ!
どうでもいいことだよ。それに、くだらないことだ。
青年が冷たく返す。空が青年のことをどう思っていようが関係ない。青年は青年のしたいようにするだけ。だから、青年が投げた言葉に空がこんな風にわざわざ言ってくるのは、本当にくだらないことだと青年は思う。
雲。この際だから言っておくが、私はずっと独りだったんだ。幼馴染みも親友も弟のような子も兄のような人も、理解者だっていた。それでも。それでも、私は……。
独りだったんだ。
そう言って空が真っ直ぐに青年を見据える。感情を映さぬ表情は虚ろで、空っぽで全く生が感じられない。だから、と空が続ける。
だから、今更同族がいたからと言って、それに縋るわけないんだよ。
そう同族だなんてそんな者、今更な話だった。それは空にとっても、青年にとっても、同じこと。
分かってるよ。
溜め息を吐くように言葉を紡ぐ青年は、空と同じようなけれども何かが違う、冷たい無の表情を浮かべている。
どうであろうと、結局は同じことだ。君も僕も変わりはしないのだから。くだらないよ。
青年の言う通りだと言うのは、空にも分かっている。虚無であることも、空っぽであることも、世界の不適合者であることも、何も変わりはしない。それは既に定められた真実で、変えようのない事実で、救いようのない現実だった。考えるのも愚かな世界の真理なのだ。不意に青年が射るような眼差しを空に向けた。
君を見つけたのが僕でなければ良かったのかもしれないね。
どちらにせよ、同じことだけど。
そんな風に呟いて青年はどこかへ去ってしまう。くだらない、と無情な声が脳裏に響く。
ああ、そうだな。本当に。
くだらない、と自嘲気味に呟いて空は小さく渇いた笑いを零した。
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