凹んだ町

白昼、強盗が、すべるように車道を走り抜けてゆく。

人気のない店先で倒れた看板が、倒れた勢いのまま、どこまでもすべってゆく。

ゴミは、道路に沿って渦巻きながら、風の向きにも逆らって一方向に流れていく。

町は中心に向かってゆるやかに傾斜していた。

しかもその傾き方は、あるときからだんだんとひどくなり、そのうち、町は見えない高い壁に囲まれる。住人は誰も町の外にでられなくなった。それによって、傾斜の下の方は廃棄物が溜まるばかりだ。

そういった、見るからに不衛生そうな町の底で、人々は、どうやって生きているのかと思うような有様である。

ところが、その町の中でもっとも清潔とは言い難い場所にある古ぼけたレストランで、ある人たちが、頻繁に店に出入りしていた。

しかもこれは、その町の中でも異類の住人と呼ばれている男と、その家族たちだ。

強盗が帰る場所はいつもそこだ。

彼らは、どうして健全な町の住人を襲ったのか。

どうしてそんなことをしたのか。

彼らは、町の外からこの町に移り住んできたばかりであり、何の目的でそのようなことをしたのか。

ゴミ以外のものを手に入れるためだった。

そう、彼らは、町の外に住んでいる人間だ。つまりは、人ではない。

彼らは、自分達のやっていることが、町に住む者達の、そのような理由で、そのように思われていることに、とても納得がいかないと表明したのである。

そんな理由を、襲われた人達の目の前で、この町の住民に向かって、堂々と主張していたという。

それを、この町に住んでいる者達は、一族やその家族に伝えていない。町の中に、異類の一家がいることを、一度もはっきりと認めていない。

どうして、彼らの言う、自分達が、この町の外から移り住んできた者であることを話さないのか。

彼らは、それを、自分たちが何の目的で彼らと同じように町の中に住んでいるのだと知っているとは、思わないのか。

町へ来てすぐ彼らを家から追い払った人々は、なんの目的で、こうやって自分たちを、非難する一家を、外ではなく、町の中心に排除したのか。

この町のすべての人間の家のすべての者や、その者たち自身の意思で移動させたのか。そうまでしなければならないとは、彼らは何者なのか。

異類の一家は、そんな中で、そのように思ったからこそ、彼らは、自分たちのことを、町の中にいるだけである、というように言い張るのだろうか。

異類の一人が言った。

「この町で起きたことは、皆が思っている通りです。僕らという人間は、皆、その思い込みに近く、そして、その思い込みから生まれる、僕たち、という生き物なのです」

彼らの中から出て行った彼らの姿を見て、その声は、かすかな笑い声となった。

「僕らの中で、僕らのことを知っているのは、この町の外から来て、この町のすべての者たちを知っている、僕らの中の皆さま、です」

「僕らの中の皆さまは、僕らの生まれた地のことや目的といった、思い出を頼みにして、この町の人々の目的意識の深淵の中にいらっしゃいます。皆さま自身で、この凹んだ町で生きていくのを楽しみにすることが、その使命感によるものなのです。でも、果たしてそれは達成でしょうか?」

彼はそれには答えずに、少し強く言った。

「だからこそ、僕らがこれからやってくる、時の移り変わりに、我々が、皆さまに協力できるということを示すためにもあなた方、それぞれに、それぞれの仕方で協力するのが、僕らが今ここにいられる理由ではありませんか。そうでしょう?」

そしてその声は、いつしか、静かながらもやや興奮したような響きを伴っていた。

もはや誰も傾斜を攀じ登れない。雨水も泥も人間もすべて、すり鉢の底へ落ちてゆく。

住民は平衡感覚を失って、日になんども倒れ、傾斜にしがみついたまま動けなくなって、日が暮れるのを待つ。そのまま数ヶ月。餓死した人の白骨も塵となって消え、あるのは、人の姿を形の無いまますり減らし、道も建物も空である町の廃墟ばかりだった。

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