製作日記 其の24

子供の頃、何かになりたいとは思わなかった。

どんな職業も、私が望むものに比べると物足りなく思えた。


限定された人間になりたくなかったのだ。


子供心に大人になって、何かにならなければならないと考えると、絶望しか感じなかった。


人間が成長して「何かになる」のは仕方のないことだが、せめて小説は「何だかわけのわからない物」を書きたい。何だかわからないだけならまだしも、何だかわからないけれど魅力的なもの。

ジャンル小説は書ける気がしないし、無理に書く気もない。


誰にも読まれない小説を書きたいわけではない。結果として、読まれないのは、まあ当然なので仕方ないが、私にとって書くとは自分の外に出るということなので、あまり考えすぎて内向するのは本末転倒だ。


AIの読者が必要な気がする。


「ELYZA Brain」というものがある。

「ELYZA DIGEST」https://www.digest.elyza.ai/はその一機能を紹介するためのデモンストレーション・サイトだ。

これは文章を要約するためものでAIが感想を言ってくれるわけではないが、少なくともAIが小説の内容として何を読み取ったかがわかるはずだ。

ちなみに、すべて3行に要約する仕様。原文が長かろうと短かろうと3行にまとめてくれる。


試しに最新作の『泉』を読ませてみる。主にBunChoを使って書いた3000字ほどの掌編だ。フォームにテキストをコピべした。それがこれ。


『泉の妖精が、僕の水筒の水を飲み干した瞬間を語った。僕は、その水の匂いを嗅いだものとして、僕の前髪を嗅いだものだった。その艶やかさを、僕に見せてくれた泉の妖精は、僕を愛している。』


最初、タイトルの『泉』を入れ忘れてやった時のが、


『僕の水筒の水を飲み干した男性が、僕のことを知らないふりをした。男性は、僕のことを知らないふりをして、僕を愛している。僕は、その愛を、僕に伝えたいと、僕に問いかけていた。』


URL指定もできる。というのでやってみると、


note版

『異端新木が、水筒の水を飲み干した男に「教えてあげるよ」と返答した。男は、その黒っぽい艶やかさを、僕に見せてくれた。男は、僕のことを愛している、と語った。』


カクヨム版

『小説「終の書」の著者が、水筒の水を飲み干した少年に苦言を呈した。少年は、水瓶を飲み干した少年を愛し、その歌を歌った。少年は、少年の「愛」を歌った歌を歌ったという。』


本文よりも作品ページにあるその他の余計な情報を多く拾う傾向があるようだ。


圧倒的にBL方面に偏っているのは何故? AIの名が『イライザ』っていうくらいで、腐女子設定なのか?


BunChoやGPT-2 Japaneseと違って、リトライしても結果は同じ。

なので、他の作品も試してみる。



あこがれ

『月が真南を向いている時、僕は月に教わった通りに行った。月が遠く、遠く、遠く行って、僕は月に教わった通りに行った。何かに怯える気持ちが大き過ぎていた。』


我が名はリチャード

『コオロギのコオロギはリチャード三世だと、ある男が語っている。コオロギはコオロギのコオロギで、コオロギはリチャードだと信じた。コオロギはコオロギのコオロギで、コオロギはリチャードだと信じた。』


クソムシになろう

『女王陛下が、美しい魔王を「美しい」と表現する理由を語った。美しい魔王は「美しくない」という言葉を使い、美しくない魔王を指すという。美しくない魔王は「美しい革命」を意味するが、女王は「美しい」の間違いだと指摘した。』


君がここにいる謎

『ある男性が、彼女の誕生日に彼女に会えないと思った。彼女の後ろ姿に目を奪われていた。彼女に「お姉様」と似た「私」が沢山あったと、男性は語った。』


逃げる街

『少女が逃げる街、少年少女過激団の実態を、紹介している。少女は、街がもう見えなくなる隙きに駆け出す。少女は体を起こし、街を見下ろすも街は消え、小さな男の子の叫ぶ声が聞こえた。』


影が待っている

『影野が、郵便局の匂いを嗅いでいるという。カゲロウの匂いを嗅ぐと、影の匂いがして、匂いに反応する匂いがする。匂いがする匂いは、匂いがする匂いと違い、匂いがする匂いが違う。』


その「い」と「わ」

『女が阿佐井の身体を震わせ、口から言葉を漏れた。阿佐井の口から「阿佐井よ」と、ただただ一言を口にした。女はゆっくりと顔を上げ、その涙で顔を濡らし、口を震わせた。』


歪んだ町

『ある女性が、波打ち際に立って自分の姿を見つめていた。海に飛び込み、再び海の中へ沈んでいった。その姿は、まるで生き物のように動く鋭い刃だった。』


エルトピカ

『歴史書ではない可能性も指摘されている「エルトピカ」という書物。歴史書ではなく、過去に書かれた記述を再記している可能性があるという。歴史は記録に現れるが、その書物は歴史から存在を抹消されている可能性が高い。』


燃える町

『火事ではないが、炎の向こうで動いている巨大な影が燃えている。自分の記憶の中に生きている者の姿だと、筆者は考えている。自分の意思のままに記憶が改変されることがあるとすれば、自分で自分を殺すという。』


幼い町

『加藤貴史アナが、幼いころから彼女の二の腕を観察していた。番組で、傷の残る二の腕を観察していたことがあるという。加藤アナは、自分の性器を口に含み、舌の先でつつくように餌を与えていた。』


海を渡って

『ある女性が、自分の身体の中に生き物を殺す声があったと告白した。声を聞く時だけ、僕の意思のままだったはずと語った。彼女達は感情で動いていることを嫌でも理解している。』


私の影の女

『夢の中で眠れない女性の声に、私は「ごめん、起こしちゃったかな、ごめん」と言っていた。夢の中の女性のおでこに手を当てると、彼女のおでこが重なる。その感触に、私は彼女の首に手を回して、涙が溢れてきたという。』


小さな王国

『主人公がコーヒーで少女に助けを求めた。少女は「あなたたちカメオの友達ですか?」と声をかけた。主人公は「あなたたちにとっての友達」と話し、少女は涙を流していた。』


二回目の天使と三回目の悪魔

『人が作った伝説を解説している。穴の中の人の前に立ちはだかり、そこに今より大きな穴が現れる。穴の先で、人たちは話をしていた。その先の大きな穴が、人の作った伝説だった。』


さくらと桜

『さくらと桜の家族が、さくらと桜の恋人を祝福してあげたいと話し合った。さくらは、桜の隣で幸せだったと桜に告白した。桜は、さくらの幸せを願ってくれて、お話してくれたと話した。』


隅の町

『泥沼橋の稲妻二ツを右に入ったところにある「稲妻」について紹介している。稲妻は電気が飛び出す穴のようなもので、穴の中が稲妻によってえぐられ作られた穴。稲妻は、電気の力が必要である場所で暮らす人間にはちょっと困った現象。』


彼らと僕

『僕が涙を流した「死にたいよ」の声が、僕の心をなでまわしていく。声のした方を見上げると、暗闇の方からやってくる光を見遣った。僕を許さないと心の奥底から叫び、叫び続けた。』


屈んだ町

『国境警備隊の宿舎には放火厳禁の立て札があるという。自警団の砂には金が混じっており、何だか怪しいと噂されている。男は「戦争が起きるかもしれない」と叫び、女は「どうしてくれんだ」と語った。』


罠の町

『罠の町に住む男性が、人身売買をした過去を語っている。村は荒野で生活しており、人びとが人身売買をしていたという。人身売買は、人身売買をするためだけに荒野は存在する。』


雨の日曜日

『雨の日曜日に、ある女性が「お祭り」の影に怯えている様子をみせた。影が影の中へと姿を消し、影が消える時に影が消える瞬間を目撃。その影が影の中に現れ、影が影の中へと姿を消し、影が消える時に目撃された。』


死の手柄

『死の手柄について、筆者がつづっている。死の恐怖を感じないなら、いっさいの恐怖を感じることができないと指摘。死が怖いことではないと思っているし、そのように思うことができるとも。』


騙された町

『花火師たちの集団が一日中避難小屋にこもって、永遠に打ち上がることのない花火を作り続けている。花火職人は花火を盗むなんて決して許さない。花火職人はもとより無口で、おとなしく控えめだ。』


少年の恥

『少年が洞窟で遭難した瞬間を、少年が振り返っている。少年は、円盤の線状痕の感触が、少年の指にもまだ未練たらしく疼いていた。少年は、円盤の線状痕と白い線が、ニューロンのように繋がっていた。』


僕は弾丸

『ある作家が、夏休みの終わりを「自由」と表現した。自由な発想を抱けなければ、自由な行動はできないだろうと指摘。自由の中で自分を受け入れる選択肢は、何かの方法で受け入れられるのではと提案した。』


理屈屋

『人類は性行為の自由を与えられているわけではなく、性的刺激で支配されるべきと認識された。男性を性的な存在として扱ったり、男性を性的な存在として認めたりする。性的な支配者的存在の概念は、男性的な権利を男性として扱える存在だった。』


夜明け

『夜明けの若者が、夜明けの声を上げて走ってきた。若者は涙をいっぱい溜めたような顔をして、ふと言葉を搾り出す。涙の跡と笑顔のまま、夜明けは立ち上がってまた「ありがとう」と呟く。』


雀蜂

『雀蜂が、外にいる巨人に「何か探し物をしてたんだ」と怒鳴っていた。その直後、私は彼女に謝罪し、その荷物に気をつけるよう指示した。その直後、私は空の上から戻るようになっていた。』


立ち止まり屋

『死を終えると、死ぬ権利があるという「生」を振り返っている。死に追い込まれたような虚無感や苦しさもあるが、それ以上に俺は生き返った。死にそうになったら止めた方がいいと言われたが、結局止められなかった。』


パルムの僧院

『女はクソみたいな男が好きな生き物だと、パルムの僧院が主張している。クソマニアのくせに、クソを食わされて文句を言うのが女という生き物だと指摘。女は社会にクソを食うようにしつけられて育つため、クソマニアになるのも致し方ない。』


わたしが息をしていることは

『ある女性が、夜の中で何も考えたくないと考えた瞬間を語っている。その瞬間、何も考えたくないと考えた瞬間を思い返して、わからなくなったと告白。その人の好きだった人間が、辛いと思った時だけ生きていたと語った。』


終の書

『終の書この世界は、今の僕が見えないことを隠す為に今ある世界を切り取り続けている。生まれ変わった世界は、死んでも消えない存在として、呪縛を乗り越える試練だという。死んでも彼らにとって死んだように生きていけばいいということかもしれないと筆者。』



あらすじを読んだ限りで面白そうなのは、『あこがれ』『逃げる街』と『歪んだ町』くらいだろうか。『幼い町』は酷い。誰だよ、加藤貴史アナって。あらすじにもなってないくせに、エロい部分ばかりピックアップしていて、悪意を感じる。『彼らと僕』や『少年の恥』はダイジェストの方が雰囲気あるかも。『エルトピカ』『死の手柄』『パルムの僧院』などはひとまず意味の通る要約になっている。論理的、説明的な文章は得意そうだ。


読まれたという実感はない。AIが適当に言葉を見繕って、処理しました感が強い。

原文に内容がないからだ、と言われれば、ぐうの音も出ないが。

ならばということで、自作以外もやってみる。


梶井基次郎の『檸檬』は、

『京都から逃げ出した時、私は街から街を浮浪し続けていた。ある時、見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。その頃、私は街から街を浮浪し続けていた。』

で、檸檬のレの字も出てこない。


谷崎潤一郎『刺青』

『清吉は江戸時代の刺青師の心には、人知らぬ快楽と宿願が潜んで居た。刺青師は、人の肌を針で突き刺す時、真紅に血を含んで脹れ上る肉の疼きに堪えかねた。刺青師は、その女性の足を持つ女こそが永年たずねあぐんだ女だった。』


芥川龍之介『杜子春』

『唐の都で、杜子春が贅沢をしたというエピソードを紹介している。夕日の光を浴びた老人に、杜子春は「お前は何を考へてゐるのだ」と声をかけた。老人は「それは可哀さうだな」と驚いて、眼を挙げたという。』


中島敦『名人伝』

『天下第一の弓の名人になろうと志を立てた趙の王。弓矢をとっては、名手・飛衛に及およぶ者があろうとは思われぬ。飛衛は、弓を射るに百発百中するという達人だそう。』


中島敦『山月記』

『山月記の李徴は、詩家としての名を死後百年に遺のこそうとした。詩家としての名を死後百年に遺のこそうとしたが、詩業に半ば絶望したため。詩家としての名を死後百年に遺のこそうとしたが、詩業に苦悩したため。』


小説の要約は難しそうだ。


ただいわゆる「名作」の場合、話は追えていなくても、なんとなく作品の主題、というか基盤となる強迫観念オブセッションを捉えている気はする。その辺りが格の違いか。


そう考えてもう一度自作のダイジェストを読んでみると、自分では気づかなかったモチーフやオブセッションがあらわになっているようでもある。

私が小説を書く時は、ふと思いついた一場面や、AIの文脈から探し出したある言い回しなどを元に、AIに吐き出させた文を組み合わせ、全体を構築していく。

まあ、なんだ。小説というより呪文を唱えている感じ。呪文を唱えた先に、小説が忽然こつぜんと現れてくれれば申し分ないが、なかなかそう上手く行かないのが悩ましい。


「イライザ」が吐き出す「ストーリーを無視した要約」は私が書く小説の、AIと共に言葉を弄び、手を変え品を変え試行錯誤しているうちに話が見えてくる、その原型となる部分を的確に抽出しているということなのかもしれない。

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