終の書

この世界は、今の僕が見えないことを隠す為に、今ある世界を切り取り続けている。

(この世界が自分のものでなくなった時、自分に見える世界を閉じたら、何も見ないで立ち尽くしなければならない。その代わりに、自分が見えなくなった時は誰の心も閉じずに、ただただその場に立ち尽くし、目の前にいるもうひとりの自分を見つめるだけ)

この世界が自分でなくなった時も、僕はこの世界を見つめる。何も見えず、何も感じない。ただ一人、この世界で生きていく。

(僕はもう死んでいるから、もう世界を見ることもない)

生まれ変わった世界は、死んでも変わらない。

ただ生を繰り返す事を決め、死んでも消えない存在として、彼らはこうやっている。

『私たちの世界は、別の世界とは違う』

これが生きる上で、彼らに課せられた呪縛のようだ。彼らはこの呪縛を乗り越える為の試練だとは言わないが、死んでも彼らにとって死んだように生きていけばいいということなのかもしれない。

(僕は、誰でもない、彼女たちと生きる)

だから彼らは僕を探し出せば、見つけることができるだろう。

これが、最後の最後の賭けだ。

(最後のゲームが終わったら、彼女らは僕を見つける。だから、僕は君に会いにいく。

だから、ここに、君の書いた世界を持ってきたいんだ)

何も見えない世界で、そこに君がいた。その場所には自分がいないけど、僕の中は僕がいる。

彼女らはここで暮らしている。今、ここで死んでも変わらない。死んでも、僕の中には君がいる。

(彼女らは僕のもとへ来る。必ず、君は僕を見つけ出してくれる。でも、君も同じ。誰かを愛したとしても、誰かを守る為なのか、翳りの中に潜めるのか、この世界に心が動くことはないから)

この書き手は、本当に何もない世界を書く。僕はそれをずっと読んでいた。でも、その書き手が最後に最後のことを話し始める。その時、僕たちは別世界に連れ戻された。

『──世界の書は終に閉じ、彼女は、二人の物語を書き終えた。私はその物語の名を、こう呼ぶ』

彼女は言った──彼女が最後の書き手である、最後に書き終えた物語の名を。僕は、世界の書として、彼女というこの書き手を最後に持ったようだ。書き手としての最後の最後で、彼女は物語の名の持ち主になることを決めた。

だから僕はこの書き手であり続けたいと、そう思う。君と最後に交わした約束を果たすためにも。

(続く)

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