騙された町

不思議な夏は荒れ地でも涼しく風が吹く。

町の外れでは、花火師たちの集団が一日中避難小屋にこもって、永遠に打ち上がることのない花火を作り続けている。

出来上がった花火はすべて地下の貯蔵庫にしまわれる。

町に住人からは花火の持ち腐れ、と囃し立てられるが、それもまた風物詩だ。

花火工房の棟梁たる彼の胸の内は少しも傷まない。

暑い夏も、涼しい秋に至れるのだ。

花火師たちの生活は、町から町へ移り住む人たちとの垣根を越えて、そのまた先の、まだ来ない戦争の犠牲者に報いるためのものだった。

花火師の誰もがそれを理解していた。花火のことしか考えていない彼らに、誰が何の慰めを与えようというのか。

かつて、町は不思議な噂と天変地異に見舞われた。

井戸の水は涸れ、川は干上がり、畑はたちまち荒れ地に変わった。

その次の季節、花火師たちがやって来て、町に花火が持ち込まれた。

それが、噂に流れたもの、戦争が始まる前の季節にこの世に生まれるという花火だった。

町の住民が花火師たちに取り入るのは容易い。

町の女の何人かは彼らに言い寄ってきたが、申し出を即座に断ったのは花火師の棟梁たる彼だけだった。

花火師を籠絡すれば花火を盗める。そう思ったのだろう。

だが、花火職人は、花火を盗むなんて決して許さない。

彼らは地下に穴を掘り進め、花火を隠して決して人々の手には渡さない。

花火師はもとより無口で、おとなしく、控えめだ。いつも冷静で、興奮などしない。

女たちは、いくら抱かれても、花火に触れることさえ許されなかった。

女たちはやせ衰え、男たちは諦め、町は瞬く間に荒れ果てた。

しかし、それはすべて花火のお陰だと、住民は思っていた。花火さえなければ、こんなことにはならなかったと。

だが、戦争が始まった今となってはそんなことはない。

遠くに立った煙が、徐々に近づいた。

女たちに見放され、男たちに疎まれて、花火師たちの大半は町を去った。

ようやく町に戦火が及んだ。

男たちが悲鳴をあげ、女たちは恐れ戦く。町はパニックに陥った。

だが、それも一瞬のこと。

花火師の棟梁たる彼は、去り際に、今こそその時、とばかりにありったけの花火に点火した。

地下貯蔵庫の花火がいっせいに破裂する。

空一面に、空を埋め尽くす人びとの大群が舞い上がる。その歓声は、戦場の空気と、色を変え、そして――。

響くのは、落下して地面を叩く肉体が作り成す――戦いの音だ。

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