妖精の棲み家

「ああ、泥が……」

「泥ってどんなところで泥だらけになるのさ」

そんなことを思った。

「この辺りの生き物はね、水も食べ物もないの。だからさ、あたしたちがここに来たのは、あなたたちとは少し違う、泥だらけとも違う特別なことなのよ」

私がここに来たのは特別なことではない。

「そういえば、さっきから何かやってるような……」

「見ての通りよ。これ、ちょうだい」

と彼女は好き勝手に、私の心臓を持っていく。

目の前にいる妖精たちが何かと話しているのが耳を澄ましても聞こえてしまう。

彼女たちが話す何かとは、よく見るとあの青い妖精と白い妖精、そして私の家のことで、どういう意味かはよくわからないけれど、おそらく私の家を囲むようにして話しているのだ。

私は、この青い妖精のすぐ近くで、妖精たちが話している内容を耳で少しずらしながら聞くことにした。

『これ、どうすんの、あなたたちも』

『そんなの簡単よ。家にあったのを集めただけだから、これだけじゃ、あなたたちには届かないわ。だから、もうちょっとだけ、やっときなさい』

『やってるけど、何するのさ、これ』

『あんたたちは、見ているだけでいいのに、勝手に入っちゃって、あんたらも可哀相だから、こうしてる』

私は、また耳で彼女たちの話を聞くことにする。

『あんたら、本当に良い生き物ですね。こんなに小さいし、汚いところもあるし。でも、その生き物の持ち望みは、もうあんたたちには届かないと思った方がいいよ。お嬢ちゃんたちは、家の中に入っちゃって、それっきりじゃない』

青い、青っぽい何かを囲んでいるようだ。

『ほら、見てみなよ。お嬢ちゃんいるじゃん。この子だって、お嬢ちゃんよ!』

そこにいるのは見たことがない。私も知らない。

『だからね、お嬢ちゃん、こいつ、この子のお友達なんだけど、こいつはこいつ! こいつは、ちょっとだけ、家に入っちゃっただけだから、これは何ともないんだって!』

ここには、もう何も残っていない。私たちだけなのだ。

『お嬢ちゃんの友達さん、可愛いねえっ』

私の周りを囲っていたのは、青い何かだった。

『こいつ、こいつと遊べば、お嬢ちゃんなんて、ちっちゃくなっちゃうのかな!』

これから、私たちがこの青い何かを囲むとすると、一体、青い何かがここにいるということなのか?

『なあ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんと遊んでやるのって、なんのためなんだ?』

これから、ここに私を囲うように入るのは、きっと、何のためだろうか?

いや、違う。

『お嬢ちゃん。こいつは、もっと素直に、お友達とおしゃべりしていれば、お嬢ちゃん困らないんじゃないのかな? お嬢ちゃんも、この子のこと、可愛いと思うじゃん! それなら、こいつを、お嬢ちゃんの友達って呼んだら、お嬢ちゃんもお友達になれるんじゃないのかな?』

この青い何かに囲われていた私は、そうだろうか?

この先、この私は、私の友達に囲まれ続けて良いのだろうか?

その後、しばらくの間は、二人の青い何かに囲われ、私はおしゃべりなどしていられない生活を送るのだった。

家には、今日、生き物が私たち以外にどこにもいないことに、一人の男が気が付く。

『あれ? そういえば、私の友達がもうすぐいなくなっちゃうって言ってたなあ。なんで? あんたら、どうしたの?』

男は、また、今日一日の出来事を忘れていた。

そう、私は、あの青い何かから出ることに、恐怖を感じていたのだった。

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