第12話 どう収拾すれば?

ハロルド様は謝罪していたが、他の連中にもしっかりと謝罪させると言って逃げるようにテク魔車から出ていった。


「旦那様、申し訳ありません。ハロルド様は昔からよく考えないで行動するのです。悪気がないのでお許しください!」


ハロルド様の代わりにクレアが謝罪するのも変だと思うが、クレアも父のように慕うハロルド様だからだろう。それに悪気がないからこそ質が悪いとも言える……。


「あれが私の仕える主なのか……」


ルーナさんは呆然と呟いた。クレアはそれを申し訳なさそうに見つめていた。


私は幼い頃に父と一緒に亡くなった祖父のことを思い出していた。祖父は建築関係の社長だったが、社長というより親方と言ったほうが似合う豪快な人だった。いつも祖母に叱られながらもいい年して馬鹿ばかりしていたのだ。


何となくそんな祖父を見るように、ハロルド様を見ていたのだろう。だからどこか憎めないのだ。


しかし、祖母はいつも愚痴を溢していたし、よく祖父を叱りつけていた。


やはり簡単に許してはいけないような気がしてきた。大好きだった祖母に迷惑を掛けていた祖父と同じなら厳しめに罰を与えないとダメだ。


ただ、ハロルド様に効く罰は、訓練禁止くらいしか思い浮かばない。


「クレア、ハロルド様みたいな人物は懲りないで同じような事をすると思う。少し厳しい罰を与えたいけど、何かいい罰はないかな?」


「……思いつくのは訓練禁止ぐらいですが、暫くは王都に行くことになるので、他には……」


クレアも私と同じ程度しか思いつかないようだ。立場的に私がハロルド様を罰するのは難しいんだよなぁ。


クレアも複雑な表情で考えている。主を罰すると言われても難しいのだろう。


「あ、あの、例えばなんですが、魔道具の使用を禁止するのはどうでしょうか?」


イーナさんが戸惑いながら意見を出してくれた。


「それは考えたけど……、前にも健康ドリンク禁止とか魔道具禁止はしたけど、ハロルド様の仕事に影響が出て、ハロルド様だけでなく周りまで困ったことになったからねぇ」


「あっ、余計なことを言ってすみません!」


イーナさんは本当に申し訳なさそうに謝った。


「気にしないで。意見があれば出して欲しいから、遠慮しないで大丈夫だよ」


「はい、……でも難しいですね。魔道具を禁止されたら私も辛いと思ったんです。でも仕事に影響が出そうですね。私はもう普通の馬車で旅などできそうになかったので……」


うん、そうだよねぇ~。私もテク魔車のない旅などしたくないなぁ。


んっ、テク魔車! それだ!


「テク魔車禁止は良いかも!」


イーナさんは驚いた顔をしている。


「で、ですが、移動が遅くなって色々と影響があるのでは?」


クレアさんは心配そうに話した。


「この後は他の領主も一緒に王都に向かうから、馬車に合わせた行動になる。それなら、快適なテク魔車は同行する女性や子供優先にしてもらうのはどうだろう!?」


「そ、それは嫌ですね……。テク魔車になれると前の旅がどれほど過酷だったか分かります。悲惨な食事に汚れた体、何と言ってもあの揺れは地獄です。私は歩く方が良いと思うぐらいでしたから」


クレアは私の話を聞いて、馬車の旅を思い出したように話した。


「で、でも、食事は他の人が渡せるのではありませんか? それに約束しても守るかどうかは……」


イーナさんは意外によく考えているなぁ。


「ああ、食事までの制限はできそうにはないよね。でもテク魔車やウマーレムは、クックックッ、約束を守らせるのは簡単だよ!」


こらなら罰と私のありがたみを分かってくれそうだ。ふふふっ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



9時頃にジョルジュ様から謝罪したいと連絡があり、カービン伯爵邸に来てほしいと連絡があった。


クレアと二人で向かおうと思ったが、イーナさんが興味津々で成り行きを気にしていたので一緒に行くことにした。イーナさんは獣人であることを気にして、また私に注意されて恥ずかしそうにしていた。


ウサミミが折れて垂れているのもかわ……ゲフン。


結局イーナさんも行くことになったのでルーナさんも一緒に行くことになった。


カービン伯爵邸に着くと、使用人たちが並んで仰々しく出迎えられたので私も戸惑ったが、それ以上にイーナさんやルーナさんは緊張で顔色が悪くなっていた。


役人風の男性に案内されて会議室に行く。会議室に入るとそっけない感じではなく、偉いさんが話し合うような部屋で、椅子や机も高級そうだと一目で分かった。


そんな部屋なのにジョルジュ様を始め、他の領主や貴族の人達も真剣な表情で立った状態で私の事を待っていた。ハロルド様だけバツの悪そうな表情をしている。


部屋に入ってジョルジュ様と目が合うと、ジョルジュ様が話し始めた。


「我々はアタル殿からたくさんの恩恵を受けておきながら、碌に感謝の意思を伝えることなく、それどころか失礼な態度や行動をとったことを謝罪させてもらいたい」


え~と、大袈裟過ぎじゃない?


私はどちらかと言うと好き勝手に作りたいものを作り、やりたいことや感じたことをしてきた。結果的には色々な人のためにはなっているとは理解している。でも、領主や貴族、王族などのためと思ってはいなかったので、それほどこの場にいる人達に感謝してくれとは思っていない。


まあ、それでも失礼だと思うこともあったから、謝罪してくれるのは嬉しいが……。


「特に今回のカービン伯爵家のしたことは、アタル殿にもこの地の住人に対しても許されないことだと理解している。どうか許して欲しい!」


「「「申し訳ありません!」」」


ジョルジュ様が頭を下げると、あまり見たことのない貴族様達まで全員で頭を下げて謝罪してきた。


そしてカービン伯爵が一歩前に出てきた。目には涙を溜めているのが分かるが、深刻な表情で謝罪を始める。


「アタル殿に仕事をお願いした立場でありながら、神像のことや教会の連中のことで、私は混乱して兵士に失礼な命令をしておりました。本当に申し訳ありませんでした! すべての責任は私にあります。どのような罰でもお申し付けください!」


いやいや、私が罰を与えるのは変でしょ?


だいたい神像の事とかは神様達が原因じゃねぇかぁーーー!


なんか腹が立ってきたぁ!


結局は神々の暴走まで私がしたように思われているじゃん!


『『『……』』』


それは違いますと言いたいが、言えないじゃん!


転子『なんで妾が! あっ、すまんのじゃぁ……』


おうふ、始まりは転子だと思うが……。他の神々も悪いだろうがぁーーー!


ノバ『すまんかったのぉ。儂からも注意するが、理の整備を進めるつもりじゃ。どうか許してほしい』


くっ、この世界を創った創造神であるノバ様にそう言われては……。


それにジョルジュ様もこの国の王族でもある。一介の平民に頭を下げるのは……。


「ほ、本当に申し訳ありません! 私の命を持って償いますぅーーー!」


えっ、なんでそうなるのぉ!?


カービン伯爵が土下座して、地面に頭を擦り付けるように謝罪を始めていた。


顔を上げて見回すとジョルジュ様も真っ青な表情になっている。よく見ると他の領主や貴族連中も顔色を変えている。ハロルド様は驚いた顔で目を見開いて私を見つめていた。


改めて状況を整理しよう。

私はこの状況に戸惑っていた。カービン伯爵が謝罪して、神様が原因だと分かり腹を立て……。


もしかしてそれが表情に出ていた……。


そして転子だけに押し付けるような神々に腹を立て……。


それも表情に出ていたのか……?


そしてノバ様に謝罪されて困惑して……。


何となく複雑で困った顔をしていた気がするぅ~。


そんな私の表情と言うか顔色を見て、カービン伯爵は俺が怒っていると勘違いして……。


うん、どう収拾すればいいのかな……?

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