第11話 一番悪い奴!
朝食までの数時間、クレアと色々と暴走して、昨日の事も含めて色々とスッキリした。
テク魔車の座席で朝食を食べに行くと、イーナさんは心配そうな顔で迎えてくれた。私はスッキリとした表情でイーナさんにお礼を言う。
「昨日は心配させたようで、すまなかったね。一晩寝たら色々とスッキリしたから大丈夫だよ」
イーナさんは私の様子を見て、本当に大丈夫そうだと感じたのかホッとした表情を見せてくれた。
ク、クレアさん、隣からジト目で睨まないでぇ~!
目の端で少しだけクレアのそんな表情が見えた。すぐに目を逸らしたのに横からジト目で睨む圧を感じるぅ~。
「でも、本当に良かったです! 私は獣人だから理不尽な目に遭っても仕方がありません。でもアタル様は人族で、みんなのために一所懸命なのにあんな風に……」
イーナさんは話しながら更に腹を立てたのか、怒りながら涙を目に浮かべ始めた。
うん、ほんまにええバニーちゃんやぁ!
「私の前で獣人だからとか、人族だからとかはダメだよ。バニー、……ゲフン、イーナさんが理不尽な目に遭ったら、私が守ってあげるからね」
「は、はい……」
あれ、私はまた変なこと言っちゃった!?
イーナさんは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに返事をしてくれた。
ク、クレアさん、またジト目で睨まないでぇ~!
今度は顔を全く見ていないが、この圧は間違いないだろう……。
焦っているとノックしてルーナさんが入ってきた。
「失礼します。外にハロルド様が……」
こんなに朝早くハロルド様が?
「旦那様、実は昨晩」
クレアは私が部屋に行ってからの事を説明してくれた。
私はこの町や国を亡ぼすようなことはしない……と思う。
それはともかく、クレアの気持ちも嬉しいが、ハロルド様がクレアや私を大切に考えてくれていることも嬉しかった。
でも……、なんでそこまで大袈裟な話になっているんだ!
落ち込んだけど、それは私の個人的な考えでしかない。国やカービン伯爵と相容れないならエルマイスターに引き込もれば良い。それも頼まれた仕事はきちんとしてからのつもりだった。
納得できないようなことは地球でも良くあることだ。
ボッチを卒業しようと会社を辞めようとした時も、1年の話し合いだけでなく、その後2年も契約で縛られたくらいだ。雇い主や顧客からの要求のほうが大変だった気がする。
「旦那様、ハロルド様は無理な要求はしないと思います」
クレアが真剣な表情で頼んできた。
いやいや、ハロルド様に対して不満はないから、そんな顔で頼まなくても大丈夫だよ。
私は普通に了承してハロルド様に会うことにしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食も終わっていたのでハロルド様を呼んでくるようにルーナさんに頼んだ。すぐにハロルド様が来たのだが、私の顔を見てホッとした表情を見せていた。
なんだろう、自殺するとでも思ったのかな?
「元気になったようじゃな。やはり儂の思っていた通りじゃ!」
「閣下、だから問題ないとでも?」
クレアが少し冷たく言った。
「い、いや、それは違うぞ。今回の事は当事者のカービン伯爵も反省しておる。殿下も今回の事でアタルに迷惑を掛けたと言っていた」
え~と、大袈裟になっていません?
クレアは私を心配してくれていると思うけど、問題を大きくしている気が……。
「本当ですか?」
「本当じゃ!」
ハロルド様はジョルジュ様や領主様達と、どのような事を話し合ったのか詳しく説明してくれた。
説明を聞きながら腑に落ちないことがいくつかあった。
「今回の事はカービン伯爵の失態だと認めるということですね?」
クレアがハロルド様に念を押すように尋ねている。
「そうじゃ!」
ハロルド様が答えたが、私はそこまで大事になっていることに驚いていた。
まあ、たまに扱いが酷いと思うこともあったが、それを変えてくれるようなので助かる。今回の事は私も非常に納得がいかなかったが、手違いもあったので仕方ないと思う。それも解決して、今後は同じことがないのなら、結果的に良かったと思った。
「今回のことは私も許しがたいことだと思います。でもカービン伯爵様も反省して、殿下や他の領主様も考えているようです」
クレアが水に流して欲しそうに話した。
それは別に問題ないと思い答える。
「いや、私も今回のことはもう気にしていないよ」
今回の事はね……。
「そうかぁ、アタルの事だから儂は大丈夫と言っていたのじゃ。アタルはそんな小さいことで大騒ぎしないと儂は信じていたのじゃ!」
でも住民を脅すのは小さいことじゃないと思う。
「はははは、これで面倒な役割は終わりじゃ! アタル、儂がしっかりとカービン伯爵やエドワルドの奴に謝罪させるから、安心するのじゃ!」
クレアもホッとした様子だ。
しかし、それだけでは解決しなければならないことが残ってしまう。
「ハロルド様、今回のことはそれで問題ありません。しかし、いくつか納得できないことがあるのですが?」
「なんじゃ? 他に何かあるのか?」
私の話にハロルド様は心当たりがないようだ。
「私は間違いや失敗は誰でもするものだと思います」
「その通りじゃ!」
「罰を受けたり、叱られて反省したりすれば許されるべきだと思います」
「そうじゃ、その通りじゃ!」
ハロルド様は嬉しそうに答え、クレアも納得しているようだ。
「許されたのに、そのことで騒いで、噂を広めるのは良くないと思います」
「うむ、そうじゃな」
「ましてや、そのことを持ち出して、その人物を貶めるのは良くない。絶対にするべきではない!」
「お、おう、そうだと儂も思うぞ……」
ハロルド様は同意してくれたが、私の真剣な表情を見て戸惑っている。
「クレアはどう思う?」
私はクレアの考えを確認する。
「それは人として恥ずべき行為だと思います!」
うんうん、そうだよねぇ~。
「今回の問題の発端は、私の前にした失敗を広めるという恥ずべき行為をした人物に問題があったのではないですか?」
「あっ!」
おっ、クレアも気付いてくれたようだねぇ。
それに、犯人も気付いてくれたようだぁ。
ハロルド様が渋い顔をしている。当然そうなるよねぇ~。
「ま、待つのじゃ。確かに儂は話をしたが、本当のことを教えてやっただけで……」
「あれ、先ほどのハロルド様の返事と違いますねぇ。許されたのに、それを広めて今回の事態を引き起こしたハロルド様。クレア、どうかな?」
「いや、そのぉ、確かに……、良くないと……」
「ま、待て! 確かにそうじゃが、丘を吹き飛ばすのは常識外れの行為じゃ。だから……」
「ほう、あの件で私は叱られたし反省しました。でもことある毎に持ち出されましたねぇ。いやいや、反省して許されたのに、こんな目に遭って、その原因を広めた当人は一切反省していない。そんなことが許されるのかなぁ?」
私は珍しく意地悪な感じで話した。
豪快で頼りになるハロルド様だが、時には子供のように暴走する。そんなハロルド様から何度も叱られていたのに、そのことを使って他の領主たちを脅していたのだ。
エドワルドさんが、あれほど私の事を警戒するような行動に出ていたのも、たぶんハロルド様が原因と言えるだろう。
ま、まあ、グラスニカの出来事の大半は神々の暴走であり、私はその火消し役だった気もする。それも私のせいだと思われているとしたら、やはり納得できない。
「す、すまなかったのじゃ! 驚く奴らの顔を見たら楽しくて、ちょっと脅してしまったのじゃ。いや、儂も驚いたから同じようにと……」
くっ、この
「閣下、それはあまりにも……」
クレアもジト目で
ようやく誰が一番悪いか分かったのである。
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