第4話 お願い何もしないでぇ!
私の目の前ではたくさんのケモミミとケモシッポが踊っていた。
シャニにどうしても歌と踊りを見て欲しいと頼まれたのだ。
私は先に神殿に行ってその間に対処を考えるつもりだった。しかし、ジョルジュ様が見たいと言い出したことで、先にイベント会場で見ることになったのだ。
くっ、跳びはねるケモシッポは素晴らしい!
素晴らしいのだが微妙だ……。
なんで掛け声をかけてるぅーーー!
舞台の最前列に陣取る、男たちが必死に歌に合わせて掛け声を上げている。
私はそんなことは教えていないし、話してもいないはずだ。自然に彼らが始めたとしても、私の知らない
本当かぁ~!?
本当だとすると余計に危険を感じる。
こんなことがこの国、この世界に広まっていいのかぁ?
良くなーーーい!
し、しかし、良くできてるじゃねぇかぁ~!
グラスニカでは獣人族の職のない者や孤児が多かったのだろう。メンバー、ゲフン……、見習いのほとんどが獣人族なのだ。
踊りも微妙にアレンジされて、ケモシッポをうまく強調するような踊りになっている。踊りながら本来ならスカートを使うようなところを、ケモシッポを使っている。
くぅ~、モフりてぇーーー!
ケモナーの心臓を鷲掴みするような踊りから目が離せない。
しかし、近くでは無視できない会話が始まっていた。
「アリスさんも踊れるのね?」
「ええ、エルマイスターで覚えたのよ!」
「私も覚えたいけど……、貴族家の娘としては……」
「そうね、今もお尻を突き出しているわ。あれは確かに……」
「はしたないわ!」
「だったら、貴族家の令嬢として恥ずかしくないように、踊りを変えれば良いのよ!」
「えっ!」
「王都の学校で一緒に考えましょう!」
「そ、そんなことを!?」
「研究会を作るのよ。一緒にやりましょう!」
「……うん、一緒にやる!」
そんな
「それは素晴らしい試みだ。私も後押しをさせてもらおう!」
「「ありがとうございます!」」
王子が手を貸すんじゃねぇーーー!
神様まで喜んでいるんじゃねーーー!
私は間違った文化を持ち込んだことを反省する。そして、これ以上かかわらないようにしようと心に決める。
「はぁ、はぁ、アタル様、どうでしたか?」
「ああ、みんな頑張っているようで素晴らしかったよ!」
ダメと言えるもんかぁ……。
「これからも新しい歌や踊りを教えてください!」
かかわるのは……。
シャニだけでなく後ろのケモミミ達も真剣な表情で私を見つめている。
「ああ、……だが、まずは今の歌と踊りを完璧に仕上げるんだ!」
「「「はい!」」」
断われるかぁーーーーー!
やめれぇーーーーーーーーーーー!
無意識に聞いたことのある方言を使って、心の中で叫ぶのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
神殿アイドル、ゲフン……、神殿職員見習いの少女達と別れて神殿に向かう。
イーナさんだけでなく、ルーナさんも期待に胸膨らませている感じである。やはり獣人の神様に興味があるんだろう。
ジョルジュ様が生命の女神像の前で跪く。そしてその左側にエドワルド様の女性家族が並んで跪き、右側にアリスお嬢様とその友達、イーナさんと何故かルーナさんも獣人の神像の前に跪いていた。他はその後ろに跪いている。
祈りを始めようとすると、ハロルド様が耳打ちしてきた。
「アリスに子供ができたりしないじゃろうな?」
できるかぁーーー! ……できないよね?
処女解任などあり得ないと思ったが、あの神々である……。
みこと♪『そんなことできません!』
うん、ホッとした。
みこと♪『あっ!』
えっ、なに?
『『……』』
焦って周りを見回すと、獣人の神像からルーナさんに光が舞い降りていた。
なにぃーーー!?
シンジ(獣人の神)『俺は悪くない! 規則通りだからな!』
なんの規則だよぉーーー!
それよりなんで人族のルーナさんに獣人の神の加護が……。
呆然としているとまた神託があった。
みこと♪『実は神々が気分次第で加護を与えないように規則を作ったのですが……』
アタル『だったら、何故?』
みこと♪『彼女が条件にあったので自動で……』
アタル『それはおかしいでしょ! なんで人族のルーナさんに!』
シンジ『表面に出ていないだけで獣人の血が……』
なんで・そう・なるのぉーーー!?
みこと♪『世界の
そんな
アタル『人族のルーナさんに獣人の神の加護。それって、どうなるの?』
シンジ『覚醒しなければ、身体強化系のスキルが取得しやすくなるだけだ!』
アタル『……覚醒したら?』
シンジ『獣人になるのかなぁ……?』
なんで疑問形なのぉーーー!?
シンジ『初めての事だから、俺も知らん!』
開き直るんじゃねぇーーー!
みこと♪『アタルさん、言葉が汚いです……』
勝手に心を読むんじゃねぇーーー!
『『……』』
祈りが終わったのかみんな立ち上がり始めた。ルーナさんは何か感じたのか不思議そうな顔をして戸惑っている。
ハロルド「祈りの最中に金の話をされないのは最高じゃのぉ」
ジョルジュ「教会では祈りを邪魔するようにお布施を催促されますからね」
エドワルド「今回は何事も起きなくて良かった!」
エドワルド様が嬉しそうに話しているのを聞いて動揺する。
私は気になりルーナさんのほうに視線を向けると目が合ってしまった。慌てて目を逸らすが、ルーナさんの手にはギルドカードがあった。たぶんステータスを確認して加護に気付いたのだろう。
私は足早に神殿を出ようとするが、後ろから足音が追いかけてくる。
神殿を出ると同時に腕を掴まれた。
振り返るとルーナさんが真剣な表情で俺を見つめて、いや、睨んでいた。後ろからクレアとイーナさんも追いついてきた。
「話は後にしよう。他に知られれば大騒ぎになる!」
ルーナさんはハッとした表情をして、戸惑っていたがすぐに頷いてくれた。でもルーナさんは涙目になっていた。
まあ、混乱するよね……。
「アタル様どうしました? ハァ、お姉さんまで、なんで?」
イーナさんが追い付くと息を切らせて尋ねてきた。すでに顔色を変えたエドワルド様と、またかという表情をしたハロルド様がいる。ジョルジュ様もワクワクした表情でこちらを見ている。
「い、いや、子供たちの様子を見ようと急いだだけだよ。ルーナさんは、……護衛任務で追いかけて、きたの?」
「……はい」
ルーナさんは私の嘘くさい話に合わせてくれた。
エドワルド様はホッとした表情をしたが、ジョルジュ様は残念そうにしている。
「お前はいつも紛らわしいことをするのぉ」
ハロルド様は何か気付いているようだが、その一言で何もなかったことになった。
クレアはもちろん何か気付いているのだろう。私を見て微笑んでいた。
その後、アーニャさんやシャニをはじめとする神殿職員見習い達、子供たちにも挨拶して神殿区画を後にする。
グラスニカ侯爵の屋敷に戻ると、私はルーナさんに引きずられるようにテク魔車に連れて行かれたのだった。
お願い神様、何もしないでぇーーー!
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