閑話11 神々の思惑②
神界のある部屋に女神たちの何人か集まり、地球産のハーブティーを飲みながら話をしていた。
「ようやく落ち着いてきましたわ」
生命の女神がホッとした表情で話した。
「地球との文化交流も、うるさい連中が一通り文化交流を済ませたからでしょうね」
森の女神が同意するように話した。隣でハーブティーを楽しんでいる農業の女神もコクコクと頷いている。
「ええ、そのうるさい連中も文化交流の報告書の提出が遅れたり、内容がいい加減だったりして、暫くは大人しくなりそうですわ」
今後は落ち着いた文化交流が進められそうだと、生命の女神は考えていた。
「待つのじゃ。妾はまだ文化交流に行ってないのじゃ!」
転生の女神は地球産のクッキーを食べながら文句を言い始めた。しかし、その場にいる女神達は、冷たい視線を転生の女神に向けるのだった。
「転生の女神様、地球に行ってどんな文化交流をするつもりなんですか?」
生命の女神は冷静に転生の女神に尋ねた。
「そんなのは決まっておるのじゃ。買い物したり美味しいお菓子を食べたりするのじゃ!」
転生の女神は堂々と自分の欲望を答えた。
「確かに地球はノバと違い、そういった文化交流は必要ですわ」
生命の女神の話を聞きながら、転生の女神は得意そうな表情になっている。しかし、生命の女神は話を続けるのであった。
「それは転生の女神様がする文化交流かしら。そういった分野を担当する神は別にいますよ」
転生の女神は少し驚いた表情をした。そして焦ったように話をする。
「待つのじゃ、これまでは妾がその分野の文化を持ち込んでいたではないか!?」
「それは、転生候補者を探すついでよね。アタルさんが転生してきた今の状況では、それぞれの神が、それぞれの専門分野についての文化交流をするのが一番だと私も思うわ」
光の女神が、何を当たり前のことをといった感じで話した。他の女神達も頷いている。その様子を見て転生の女神が文句を言い始める。
「その文化交流を出来るように一番頑張ったのは、妾ではないか!」
他の女神達は頑張ったと言い張る転生の女神をジト目で見つめる。生命の女神だけ優しく微笑みながら答えた。
「その通りですわ。転生の女神様が頑張ったからアタルさんという優良物件を見つけることができました」
「そうじゃ!」
「転生の女神として最高のお仕事をされましたわ」
生命の女神は転生の女神の事を褒めた。他の女神達は驚いた顔で話を聞いていたが、転生の女神はペッタンコな胸を張り嬉しそうにする。
「むふぅ~、そうなのじゃぁ、だから」
「だから、今後はノバで転生の女神様の仕事をしてください!」
生命の女神はハッキリと転生の女神にそう話した。
他の女神達も同じ気持ちだったが、不慮の事故とはいえアタルをノバに転生させたのは転生の女神の功績でもある。だから、少しぐらいはそのご褒美として、地球に行かせても良いのではと思っていた。
転生の女神は目をウルウルさせて、他の女神に目で訴える。しかし、他の女神達は目を合わせようとしなかった。
「あっ、転生の女神様も文化交流に参加はできますよ!」
生命の女神が思い出したように話した。それを聞いて転生の女神は泣きそうな顔から一気に笑顔に変わり、生命の女神に詰め寄る。
「うんうん、そうなのじゃ、生命の女神はいつも意地悪な話し方をするのじゃ。そ、それで、いつ文化交流に行けるのじゃ? 次か、次の文化交流で行けるのじゃな!?」
「いえ、いつになるかは……」
生命の女神は考え込むように首を傾げ、片頬に手をつきながら呟いた。転生の女神は生命の女神に更に詰め寄る。
「どうすれば地球に行けるのじゃぁーーー!?」
転生の女神は叫ぶように生命の女神に尋ねた。生命の女神は軽く受け流すように答えた。
「他の神々と同じように、文化交流の申込書を提出してください。他の神々と同じように必要性を検討して判断しますわ」
「あっ……」
転生の女神は生命の女神の話を聞くと、絶望したように一言漏らしてうな垂れた。他の女神はそれを見なかったように、ハーブティーを飲むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
神界のとある場所で、異様な雰囲気の男神達が会合を開いていた。
部屋は6畳ぐらいの大きさで、壁には地球のアイドルのポスターが張られていたり、様々なグッズが並べられたりしていた。一角にはガラスのケースのようなものがあり、中には様々なフィギュアまで飾ってあった。
炬燵のようなテーブルに3柱の男神は座り、顔を寄せ合うようにしていた。真ん中に座っていた権能の神が重々しく話し始める。
「我々、アイドル文化研究会は新たな局面を迎えた!」
権能の神は、左右に座る叡智の神と商売の神を交互に見ながら話した。話を聞いた2柱は権能の神の話に唾を飲み込む。
「そ、それは、新たなグループを地球で見つけたということでしょうか?」
商売の神が権能の神に尋ねた。
「違う! そんなのは前々から幾らでも見つけている。その程度の事で新たな局面とはいえないだろう!?」
権能の神は商売の神の問いかけを即座に否定した。叡智の神も権能の神が考えていることが分からないのか、必死に考え込んでいる。
「我々の悲願とも言うべき歴史の転換期を迎えたのだ!」
「権能の神、まどろっこしい言い方をしないで早く教えてくれ!」
叡智の神は自分では考えつかないようで、早く本題に入るように促す。商売の神も同意するように何度も頷いた。
「聞いて驚くなよ……。アタルが孤児院の子供たちに歌や踊りを教えている!」
権能の神は少し溜めてから話した。しかし、2柱は「だからどうした?」というような表情を見せる。
2柱の表情に気付いた権能の神は、呆れたような表情を見せて話を続ける。
「アタルの教えている歌や踊りは、モー○○娘の歌と踊りなんだぞ!」
権能の神の話を聞いた2柱は一瞬固まったようになり、すぐに叡智の神が反応した。
「ま、まさか、地球のアイドルをノバで再現するのか!?」
叡智の神の問いかけに、権能の神がニヤリと笑い頷いた。商売の神は2柱の話を呆然となり聞いていた。
権能の神は更に話を続ける。
「アタルは更に次の段階に進もうとしている。神殿の職員をアイドルグループにしようとしていると私は考えている」
「それは、アイドルグループではなく、聖歌隊のようになるのでは?」
商売の神が焦ったように尋ねた。
「……このままではそうなる可能性が高い。現在オーディションを進めているのだが、非常に有望な
2柱は話を聞いて少し落胆した表情を見せる。権能の神はそれを見て更に話をする。
「私は間違った道に進もうとするアタルを、正しき道に導きたい。その為に私が総括プロデューサーとなり、2柱にも協力してもらいたいのだ!」
権能の神の話を聞いて、2柱は頷き決心するような顔つきに代わる。
「叡智の神は制服のデザインを考えて欲しい。神殿という雰囲気に合いながら、彼女たちの魅力を引き出す衣装を考えて欲しい」
「ふむ、それなら清楚系のアイドルグループを参考したほうが良いだろう……」
権能の神の話に、叡智の神はすでに具体的なイメージを頭に思い浮かべているようだ。
「それに、アイドル予備軍ともいえる孤児院の子達の衣装も考えてくれ。こちらはなんでもありだ!」
権能の神が嬉しそうに話す。叡智の神もそれに答えるように笑顔で頷く。
「私はそれぞれに合った選曲やノバに合った歌詞への変更、振り付けを考えてアタルに神託で交渉を進める」
次々と進む話に、商売の神が焦ったように話しに入ってきた。
「わ、私には何を?」
「君には重要な任務をお願いしたい。彼女たちの人気を煽るようなグッズの作製と販売戦略を考えてもらう。もちろん儲けるためではなく、その資金を元手に更なる飛躍を目指せるようにしたいのだ」
商売の神も納得したように頷いた。しかし、すぐに心配したように権能の神に尋ねる。
「しかし、そんなことをして他の神々から苦情が出るのではありませんか?」
権能の神は商売の神の質問に笑顔で答える。
「それと同時に神々の姿や知識を広めるようなグッズも用意するのだ。そうすれば神々から歓迎されるはずだ!」
2柱は権能の神の話を聞いてなるほどと大きくうなずいた。
「さあ、新たなるノバの新文化の為にとりかかるぞ!」
「「おう!」」
こうして神殿アイドルプロジェクトがスタートしたのであった。
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