第30話 ハロルドの戸惑い

目を覚ますと隣にはクレアが、……居てくれたぁ!


昨晩も暗くなってから計画通りに作業を終わらせた。そして前日と同じように兵士に護衛されて、自分のテク魔車のある領主様の屋敷にまで送ってもらったのである。


テク魔車に戻ると子供たちは寝ていたがラナは起きて待っていてくれた。含み笑いを見せるラナに促され自分の部屋に行くと、前日のラナと同じようにクレアが待っていてくれた。


嬉しさのあまり、前日と同じようにテク魔車が揺れていないか心配になるほど、新魔エッチに気合が入ってしまったのである。


そして目が覚めるとクレアが横で寝ていた。寂しい思いをしたくなかったので、アラームをセットして早めに目を覚ましたのである。


そして昨晩の行為を思い出し、遠慮なく元気になったのを確認すると、クレアに悪戯を始める。


クレアはすぐに目を覚ますと、笑顔を見せて私の気持ちに答えてくれるようだ。


さあ、これから本格的にと思ったところで、ラナから文字念話が届いた。それは私だけではなくクレアにも届いていたようであった。


ハロルド様が朝から話があると来ているらしい。私が起き出すまで待つと言って、子供たちと朝食を食べているらしい。


クレアとお互いに悲しい顔で見合ってから、諦めて起き出すことにしたのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



クレアと起きて客室に行くと、楽しそうに子供たちと戯れるハロルド様が居た。ミュウやキティのケモミミとケモシッポを撫でまくっている。


うちの子のケモミミとケモシッポを、気やすく触らないで欲しい!


余計に腹が立ち不機嫌そうな顔で挨拶する。


「おはようございます」


「おう、おはよう! 昨晩もご苦労じゃったのぉ。問題も起こして無いようで儂もホッとしておった」


くっ、それじゃあまるで私が問題ばかり起こしているみたいじゃないか!?


「それで、朝早くから何の用です?」


できるだけ不機嫌そうに話すが、ハロルド様は気にした様子もなく遠慮なく話を続ける。


「それがのぉ。魔道具類の追加発注にきたのじゃ」


ハロルド様は書類を渡してくる。書類には魔道具の種類と数が書かれている。大した量でもないので問題ないが、書類だけ渡してくれれば良かったのにと思った。


「わかりました。今晩には渡せると思います」


追加発注の魔道具は全てレシピで生産可能なものだったので、問題なく生産できる。すでに神像区画の再開発も終わったので、後は役所関係の準備だけである。それも塩会議が終わるまでに用意すればよいので余裕である。


「そうか……」


ハロルド様は返事したが、何となく他にも用件があるような感じだ。ラナが朝食を準備してくれたのでクレアと食べ始める。


私は不機嫌そうな顔で食事する。久しぶりの朝から魔エッチを邪魔されたのだ。それもこれから本格的にといったところでの邪魔である。そのことで文句を言いたいが言えないし、男として複雑な気持ちもあり、不機嫌な顔をするしかできなかったのだ。


クレアは一緒に食事をしながら苦笑している。


「なんか儂がしたかのぉ。不機嫌そうで頼み辛いのぉ」


ハロルド様はまだ何か頼みがあるらしい。私の機嫌が悪いので言い難そうにしている。


「他にも何かあるんですか?」


とりあえず尋ねてみる。


「う、うむ、……この後屋敷の方に遊びに来ないか?」


屋敷? 遊び?


よく考えてみると今日から塩会議ではないか。


まさか、塩会議に出ろと!?


「今日から塩会議のはずですよね。まさか、塩会議に参加しろとか言わないですよね?」


「そ、そんな恐ろしいこと頼むわけないじゃろ!」


なぜか逆に驚かれてしまった。


それより、そんなに恐ろしいことなの?


まるで塩会議に私が参加すると問題を起こすと言っているような気がした。


「塩会議は昼過ぎからになったのじゃ。時間が余ったからエドワルドたちが会いたいと……のぉ」


ハロルド様は塩会議ではないと説明してくれたが、何となく歯切れが悪い。嫌な予感がしてすぐに断る。


「お断りします。やっと少し余裕ができたので、のんびり過ごそうと思います」


のんびり過ごせるか分からないが、孤児院のことも気になるし、不具合や足りない部分がないか公的ギルドに顔を出そうと思っていた。それほど急ぐ理由はないが、偉い人の相手をするより気が楽である。


「そうか、……でも少しだけでもダメかのぉ?」


ハロルド様は困った顔で尋ねてくる。


ハロルドも実際に戸惑っていた。昨晩も色々とゼノキア侯爵も含めて話をしていたのだが、その時のことを思い出していた。



   ◇   ◇   ◇   ◇



昨晩、ハロルドが公的ギルドでゼノキア侯爵とカービン伯爵に魔道具を実演して見せると、2人は何度も驚いた顔をしていた。

そしてようやく信じてくれたようなので、グラスニカ侯爵屋敷の会議室に全員で戻ってきた。


「どうじゃ。儂の話したことに嘘はなかったじゃろう。」


ハロルドは何度も疑ってきたゼノキア侯爵に自慢気に話す。


「確かに……、しかし、あのような魔道具をどうやって手に入れたのじゃ?」


ゼノキア侯爵は魔道具が聞いた通りのものであり、採取した塩が極上であることも確認した。カークが説明してくれた計画は問題なく進められると確信した。


しかし、これまでに見たことも聞いたことも無いような魔道具が次々と出てきたことで、当然その事が気になり始めたのである。


「それは秘密じゃのぉ」


ハロルドはからかうようにゼノキア侯爵に答えた。その勝ち誇った言い方にゼノキア侯爵はムッとする。


「これからお互いに協力しようという相手に秘密だとぉ!」


「おお、そうじゃ、今回だけの協力だけじゃ。そんな相手に手の内を全て明かせるわけがないじゃろ! それにまだお主には謝罪してもらってないからのぉ」


ハロルドもアタルのことは秘密にするつもりだった。ただ、王家にもすでに報告が届いているはずの、大賢者の末裔設定は話しても問題なかった。だが、ゼノキア侯爵から謝罪してもらってないことに納得してなかったのである。


「謝罪だとぉ! お前がいつも無茶なことをするから、本当のことを言っただけじゃ! なんで謝罪する必要がある!」


ゼノキア侯爵は今さらそんなことを持ち出されるとは思っていなかった。確かに今回の計画にハロルドもかかわっているのは間違いないが、どう考えてもハロルドが考えたはずはない。カークとエドワルドが中心になって推し進めただけだと思っていたのだ。


「今回の計画はほとんど儂が考えて、カークが悪辣な部分を足しただけじゃ!」


「悪辣……」


カークは悪辣と言われて呟いた。悪辣とも言えなくもないが、自分では政治的な駆け引きだと思っていたのである。


しかし、ゼノキア侯爵は別の意味で驚いていた。計略とか策略とは無縁だと思えるハロルドが、今回の計画のほとんどを考えたと言ったのだ。


「ハロルド、いい加減にしろ! 計画のほとんどはアタル殿が考えたと言っていたではないか。まるで自分の手柄のように話すのはお前らしくないぞ!」


エドワルドがハロルドに忠告する。


「馬鹿者! アタルのことは話すのではない!」


ハロルドに言われてエドワルドはしまったと顔に出る。しかし、そもそもハロルドが子供じみた意地悪を始めたのが問題だとエドワルドはすぐに気付く。


「お主がくだらない意地悪をするのがダメなのだ!」


「わははは、やはりハロルドにこんな計画を考えられるはずはないと思ったのじゃ! まあ、優秀な参謀役でも育ったようじゃがなぁ」


エドワルドが反論してゼノキア侯爵が笑いながらハロルドに勝ち誇ったように言った。


「な、なにを言うのじゃ。儂もほんの少しだけ意見を言っておるのじゃ!」


「「いい加減にしてください」」((あんた達子供か!))


カークとカービン伯爵が同時に叫んだ。2人が同時に叫んだことで、予想以上に大きな声になり、2人以外は驚いて言い合いを止めてしまった。


「ゼノキア侯爵、最初にエルマイスター殿に失礼なことを言ったのは貴方です! 計画は素晴らしいものだったではないですか。最初にあなたが言った発言は取り下げて謝罪するのは当然です」


「ハロルド殿、あなたらしくない! アタル殿の功績をまるで自分の手柄のように話すとは、恥ずかしくないのですか!」


「「しかし……」」


カービン伯爵とカークにそれぞれ注意されて、2人は小さくなっている。それでも2人はモゴモゴと何か言おうとする。


「これから協力していこうというのに、子供のような喧嘩は止めてくれ!」


エドワルドが興奮して2人に注意すると、2人はシュンとなってしまう。


結局ゼノキア侯爵にアタルはハロルドの相談役だと説明して、魔道具は大賢者の末裔と思われる人物が現れたからだと説明することになった。


それならアタルに会ってみたいとゼノキア侯爵が言い出し、ハロルドができないと突っぱねた。しかし、部下を紹介できないのは何故だと追及されて、結局アタルが大賢者の末裔だと疑われることになった。


ハロルドは面倒になり、アタルに聞いて本人が了承すれば紹介することになったのだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



ハロルドはアタルに断られてホッとしていた。しかし、紹介だけはしたいとも考えていた。同じ敷地にいるのは間違いないし、知らない所でアタルに会うことになれば、それこそ問題になりそうだからである。


ハロルドは戸惑いながらも、何故か機嫌の悪そうなアタルを見て、諦めて屋敷に戻るのであった。

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