第4話 意外と優秀?
ヤドラスは裏ギルド職員に声を掛けられ目を覚ました。
村を出発して暫くは寝ようとしたが揺れで寝れなかった。しかし、いつの間にか眠っていたようだ。
「せっかく寝ていたのに起こすんじゃない!」
目が覚めて意識がハッキリするとすぐに文句を言い始める。
「昼休憩する場所に着いたのですが……」
裏ギルド職員の戸惑った返事に余計に腹を立てる。
「どうせ保存食か何かだろ。もっとましなものを用意しろ!」
裏ギルド職員は露骨にムッとした表情をして答える。
「エルマイスター辺境伯様の一行が居るようなので声を掛けましたが、必要なかったですか?」
「な、なに、それを先に言え! すぐに挨拶に行くぞ」
しかし、誰一人返事しなかった。仕方がないので慌てて馬車を降りると驚きで固まってしまう。
離れた場所に馬車が3台止まっていて、その横にテーブルを出してお茶を飲んでいるのが見える。しかし、驚いたのは馬であった。たぶん馬ゴーレムだと思うが、見たことのない馬ゴーレムが10頭以上並んでいるのである。
ヤドラスは冒険者ギルドの本部で馬ゴーレムを見たことがあったが、形や大きさが全く違っていたのだ。
(あ、あれは普通ではない。エルマイスター領で何が起こっている!?)
ヤドラスはそれまで報告書を読んでも信じていなかった。どうせ自分の失敗を隠すために大げさな報告や嘘を書いていると軽く考えていた。何故なら自分ならそうするからだ。
そもそも報告書を読むのは、自分の出世に役に立つ情報がないかと考えながら読むだけであった。
ヤドラスが呆然としていると1人の騎士が近づいてくる。
「私はエルマイスター家騎士団、副団長を務めるサバルだ。あちらに居られるのはエルマイスター辺境伯様である。警備上あまり近づかないでもらいたい。我々はすぐに出発する」
サバルが必要なことだけを丁寧に伝える。すぐに戻ろうとしたがヤドラスが声をかける。
「お待ちください。私はエルマイスター領の冒険者ギルド支部へ赴任することになりましたヤドラスと申します。冒険者ギルドがエルマイスター領でご迷惑をお掛けしているようで申し訳ありません。
冒険者ギルドとエルマイスター家との関係改善のために、私が新しいギルドマスターとして赴任してきました。できましたらエルマイスター辺境伯様にご挨拶をしたいのですが?」
普段の高圧的な態度がなくなり、まるで商人のように腰を低くしてサバルに願い出る。
「んっ、新しいギルドマスターは着任したばかりではなかったか? たしかレンドとか言ったと思うが……」
「はい、ですがその際にもサブマスターがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。冒険者ギルドとしてもテコ入れが必要と考え、私が派遣されてきたのです。
どうか挨拶だけでもさせてもらえないでしょうか?」
そのやり取りを見ていた裏表のギルド職員はヤドラスの変わりよう唖然としていた。
「わかった。辺境伯様に確認をしてくる」
「ありがとうございます」
サバルが少し考えてから返事すると戻っていく。それを見送るとすぐに裏ギルド職員たちにヤドラスは話しかける。
「すまんが、挨拶に行くことになったら2人一緒に来てくれ。挨拶は私がする。さすがに1人では格好がつかん。頼むぞ!」
「「「わ、わかりました!」」」
言い方は少し命令口調だったが、それまでの尊大な態度がなくなり、普通の上司のような態度でヤドラスは話した。
こうなるとヤドラスに逆らうことも無視することもできない。職員たちはすぐに準備して馬車から降りる。
そこにサバルが戻ってきた。
「辺境伯様がお会いになるそうだ」
「ありがとうございます!」
ヤドラスは丁寧にお礼を言う。サバルが先導してハロルドの方へ向かう。一緒について行く裏ギルド職員2名も真剣な表情で後ろからついていくのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
サバルの話を聞いてハロルドは驚いた。相手が商人ではなく冒険者ギルドの一行で、また新しいギルドマスターが赴任してきたと聞いたからだ。
ハロルドとしてはすでに冒険者ギルドと完全にやり合うつもりだった。すでに領内の冒険者ギルドは最低限の窓口しか機能しておらず、それすらも奪うつもりいたのである。
実際に今のギルドマスターのレンドは、その状況を受け入れ、王都の冒険者ギルドに今後の対応を任せていたのである。
サバスに案内されてきたのは、冒険者ギルドというよりも商業ギルドの方が似合いそうな男であった。
「初めまして私は王都から派遣された冒険者ギルドの新しいギルドマスターのヤドラスと申します。エルマイスター辺境伯には、冒険者ギルドの不手際で何度もご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
丁寧でそつなく挨拶するヤドラスを見て、ハロルドは少し警戒する。
「儂がエルマイスター辺境伯のハロルドじゃ。またギルドマスターが代わるのか?」
「はい、王都は離れていますので、正確な情報が上手く伝わっていなかったので、何度もご迷惑をお掛けしました。今後はハロルド様の意向を正確に把握して、関係の改善に努めたいと考えております」
「では、これまで冒険者ギルドぐるみで我々を騙したことを認めるのだな?」
ハロルドはストレートにヤドラスに本題をぶつける。
「それについては情報が少なすぎます。私の知るかぎり冒険者ギルドぐるみで不正があると確認できておりません」
「ふむ、だったら国で対処するまでじゃ!」
「確かに私は把握していませんが、代々のギルドマスターが不正をしていた可能性がないとは思っていません。それに王都の職員やグランドマスターまで不正に関与していたとすれば、私には判断できません」
「だったらなおさらお前は必要ない。あとは国で対処する。ご苦労だったな」
「お待ちください。もう少しお話をお聞きください。今の私には判断できませんがハロルド様のお持ちの証拠を見せて頂けないでしょうか。その内容次第で私が必ず対処するようにします。相手がグランドマスターであろうと、不正があるならそれを正すべきです!」
「それをお前はできるのか?」
「私は冒険者ギルドの本部からこの国の冒険者ギルドに来たのです。私なら本部に掛け合ってグランドマスターの不正でも対処できると考えております」
思ったより筋の通った話をされてハロルドは内心で戸惑っていた。しかし、目の前の男は信用できないと長年の勘が訴えていた。
「お前を信用するには時間が足りないのぉ。証拠はすでに王家に届いているはずじゃ。すまんがすでに手遅れじゃのぉ」
「そうですか……。ではお戻りになったら改めてお時間をください。私にできることは協力させていただきます!」
「約束はできんが、検討はしよう」
「移動中にお時間をいただきましてありがとうございます。領にお戻りになるのをお待ちしております」
ヤドラスはそれ以上食い下がることなく戻ろうとした。しかし、もう一度振り返るとハロルドに尋ねる。
「もうひとつだけお聞かせください?」
「なんじゃ?」
「あそこに見えるのは馬ゴーレムでしょうか?」
「そうじゃ。ウマーレムと呼んでおる」
「ウマーレム……。私は冒険者ギルドの本部で馬ゴーレムを見たことがありますが、大きさも形も違っていました。それにあのウマーレムですが、まるで最近造られたように新しいとお見受けしました。誰かウマーレムを造れるような、大賢者のような人物がおられるのでしょうか?」
「ふん、我が家の極秘事項じゃ!」
「そうですか……。お答えいただき、ありがとうございました」
また丁寧な挨拶をしてヤドラスは自分の馬車に戻っていく。
声が聞こえない距離に相手が離れるとハロルドがアタルに尋ねる。
「アタル、どう思った?」
「そうですねぇ~、油断できない政治家みたいですね。少しでも情報を引き出して、何やら画策しそうな気がします。それに、すでに証拠隠滅を進めている感じですかね。
たぶんエルマイスター領以外は証拠を消して、エルマイスター領だけの問題にしたいのではありませんか?」
「そんなところじゃろう。冒険者ギルドも本腰を入れてきた感じじゃのぉ」
アタルは地球で見た政治家や役人を思い出していた。少しでも問題を先送りにして、その間に証拠隠滅や落としどころを探す。そんな感じをヤドラスに感じていたのだ。
そして、そういった政治的なことにかかわりたくないとアタルは思っていた。
アタルは自分がその中心にいるとは考えていなかったのである。
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