第33話 公的ギルドの構成

あの話し合いから、すでに10日が過ぎた。公的ギルドへの登録は5日前には始まり、今は毎日のように大量の登録者が押しかけているようだ。


話し合いの翌日の朝には王都向けの魔道具を渡した。ついでに色々と工夫して、自分なりに必要と思われる魔道具も追加して渡してある。

翌日には王都へ向けて10人以上の兵士で届けに向かわせたようだ。


王都向けの魔道具を渡すと、その日は1日中スライム溶液の採取をした。

大量にスライムを殲滅したために、スライムが減り過ぎたので試しに、解体で出たゴミを帰りがけに撒いてから帰った。翌日には調査をお願いした兵士から、半分ほどスライムが復活していたとの報告をもらった。


やはり、スライムが消化するようなものを与えれば、繁殖することが分かった。今後はスライム養殖を検討する必要になるかもしれない。


その翌日にはルークさんの要求のあった魔道具が準備できたと報告し、さらに翌日にはその魔道具をすべて設置した。

ついでに公的ギルドの出張所の強化や、セキュリティ対策をする。その翌日には現地での研修が始まり、その翌日に公的ギルドの登録を開始したのである。


予想以上に登録者が押しかけ、クレアさんの部隊は警備に奔走していた。


町は異様な雰囲気で盛り上がりを見せるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



公的ギルド本部の比較的大きな部屋に、エルマイスター家と公的ギルドの主要なメンバーが勢ぞろいしていた。


「今日は公的ギルドの関係者が初めて全員揃ったようじゃな。慌ただしく公的ギルドを推し進めたから、全員が集まることがなかったからのぉ」


ハロルド様の言うとおり、それぞれの担当者が個々に頑張って進めてきたのだ。


「公的ギルドが落ち着くまで、今後は5日に一度は揃って会議をする予定じゃ」


全員がハロルド様の話に頷いている。ハロルド様はルークさんに合図すると、ルークさんは立ち上がって話を始めた。


「実際に初めて会う人や、それぞれの立場がよく分からないと思います。最初に私がそれぞれの方を簡単に紹介していきます」


確かに初めて見る人が多いなぁ。


「領主のハロルド様は紹介する必要はないと思います。

その右隣に居るのがエルマイスター領の行政の代表であるメイベル様、その隣が騎士団長のアラン様です。

そして私が公的ギルドのエルマイスター支部のギルドマスターであるルークです。

私の隣が公的ギルドのグランドマスターであるレベッカ様、そしてハロルド様とレベッカ様の間に居るのがエルマイスター家の相談役と公的ギルドの顧問を務めるアタル様です」


公的ギルドのグランドマスターをハロルド様に頼まれたが断わった。

現状でグランドマスターは将来を見据えた役職であり現状はお飾りでしかない。それでも目立ちたくないので断ったのに、中途半端に目立つ役職になってしまった。


う~ん、この中で私の役割は、たぶんほとんどの人が分からないだろう。


「公的ギルドの半分は役所のようなものになるが、半分はこれまでの各ギルドのような組織になる。公的ギルドは領地の利益を一番に考える組織じゃ。だからこれまでの各ギルドのような組織優先ではなく領内の住民のことを最優先して欲しいのじゃ。

そして半分は役所じゃが、優先するのは領主ではなく領地やそこに住む住民になる。みんなにはそのことを理解して仕事をしてほしい!」


公的ギルドは半官半民の組織を目指してほしいと思う。

この世界は領主や貴族の権力が強すぎる。だから、冒険者ギルドや商業ギルドのような国や領主に縛られない組織も良いが、そこの住民を軽視するような今のようなギルドでは意味がない。


現状では領地に協力的な半官半民の組織にして、将来的にゆっくりと民間寄りになるほうが、ドラスティックに組織ができると考えたのである。


公的ギルドの職員は真剣な表情で頷いている。


「それでは、主要な部署の責任者やギルドマスターと役割を説明します。

探索ギルドのギルドマスターのランドルフさん。探索ギルドは冒険者ギルドのような役割をしていただきます」


ランベルトさんは冒険者ギルドでサブマスターの経験があると聞いた。しかし、冒険者ギルドに失望して辞めたのだが、公的ギルドに入ることに抵抗があったようだ。しかし、ハロルド様の説得で何とか探索ギルドのギルドマスターを引き受けてくれたらしい。


「商店ギルドのギルドマスターのソルンさん。彼は商業ギルドとの揉めごとが収まるまでは商業ギルドの副ギルドマスターを兼任します。商店ギルドは領内の商店の管理と、素材などの販売を担当します」


商業ギルドとの揉めごとは、まだ完全には片付いていないらしい。それが片付いて新しい商業ギルドの職員が来るまでは兼任するということだ。

しかし、商業ギルドの職員の大半がすでに公的ギルドに移ってしまったようだ。


販売するのはダンジョン産の素材と塩や小麦である。小麦はこれまで他領から領主のハロルド様が買い付けて、商業ギルドに販売を任していたが、今後は商店ギルドがその役割をする。

販売先は商店ギルドに登録された領内の商店だけで、領外から仕入れに来た商人には、その商店が販売する形になる。基本的に公的ギルドは小売りをしない。


まあ、将来的には私の作った魔道具や素材、服なども売ってもらうおう。


「人材ギルドのギルドマスターのプトーコスさん。人材ギルドはすべての住民の管理部門と人材の紹介部門、そして雑務部門で構成されます。それぞれの部門にはサブマスターが責任者として配置されています」


ギルドマスターのプトーコスさんは役所の住居部門の責任者だった人だ。サブマスターには元商業ギルドの職員2名と元冒険者ギルドの職員1名がサブマスターになったようだ。


住民の管理部門は戸籍を管理する部門になる。公的ギルドカードの発行もこの部署の仕事になる。

人材部門は公的ギルドの職員の採用や、仕事の斡旋や紹介などもする。それに職人の紹介などもする。

雑務部門はこれまで冒険者ギルドや商業ギルドで斡旋してきた町中の雑用を中心とした仕事の斡旋事業である。要するに日雇いやパート、アルバイトのマッチング事業になる。


「施設部長のカジェットさん。施設部には領都の住居の管理と公的ギルドの施設管理、魔道具も管理してもらいます。それぞれに管理長が責任者として配置されます」


カジェットさんも元役所の人材で、住居管理は商業ギルドで担当していた人が管理者になり、公的ギルドの施設管理は元役人が、魔道具管理の責任者は、なんと教会から逃げ出してきた錬金術師の男がなっている。彼は教会の大半の錬金術師を連れて領主のハロルド様に助けを求めてきたのである。


錬金術師たちは魔法契約して正式に私の知識を教えている。今はポーション作成の正しいレシピを教えている。

それ以外にも錬金術のスキル持ちの教育もお願いしているのである。彼らは教会の過酷な作業環境から移ってきて、今では充実した表情で仕事をしている。


「他にも色々な部署がありますが、現状で重要なギルドと部署だけの紹介とさせていただきます」


うん、これでもやり過ぎだと思う。


最初は探索ギルドだけ始めるのかと思ったが、ほとんどが公的ギルドに集約された気がする。役所ですら縮小させて公的ギルドに任せた感じになっている。


「もうこの体制で動き始めています。今日は運用を始めて問題などありましたら、遠慮なく話してください。すぐに対応できないことでも、検討して後日対応することもあります」


え~と、問題があると私に振られそうで怖いんですが……。


早速、探索ギルドのランベルトさんが手を上げるのであった。

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