第14話 それぞれの思惑
冒険者ギルド一行が町中に入って行くと、アランは兵士たちに後は任せハロルドへの報告に向かった。
ハロルドは大賢者区画にある兵舎でアランの報告を待っていた。
最近は中央役場よりもこちらの兵舎に居ることが多い。公的ギルドに用事がある事も多いし、地下通路を使えば屋敷にすぐに帰れる。そして何と言っても時間があればすぐに訓練できるのが最高だと考えていたのだ。
アランがハロルドの執務室に行くと、机に座って何もない空間を見つめていた。
「書類の確認ですか?」
「今は日報の確認をしていたところだ」
アタルの作ったシステムで、紙媒体での報告が無くなり、それぞれの部署で整理した情報がシステムでハロルドに報告されるようになったのである。
「随分と書類仕事が楽になったようですなぁ」
「ふん、楽になったが、確認をしてないと警告が出て無理やり働かせられるから、前より大変じゃのぉ」
ハロルドは遠い目をして呟いた。
「しかし、書類仕事が劇的に改善して、役所の人材不足が解消されたと聞いていますよ。私も騎士団長で書類仕事は苦手ですが、前より楽になったのは間違いありません」
「そうじゃのぉ~、その通りじゃが……。それより冒険者ギルドはどんな感じじゃ?」
ハロルドは話を冒険者ギルドの件にして質問する。
「そうですねぇ~、予想よりまともな人材を送り込んできたようですが、やはり冒険者ギルドは腐臭がしている感じですなぁ」
アランは冒険者ギルドの上層部が腐ってきて、それが少しずつ下の方まで広がっていると遠回しに表現した。
「ふむ、押収資料から予想以上に冒険者ギルドは腐っておるのは分かっていたが、人材もダメかのぉ」
ハロルドは残念そうに話す。ハロルドも若い頃は冒険者をしていた時期もあったのだ。
「微妙ですなぁ~、新しいギルドマスターは冷静に判断ができそうですが、サブマスターは勘違いしているタイプでした。それと、昔から噂のあった冒険者ギルドの裏組織が判明しましたよ」
「ほほう、本当に存在したのか?」
「はい、普通のギルド職員と冒険者に偽装していました。たぶんギルド職員は情報収集が中心なのか犯罪の称号はありませんでした。
冒険者は非合法活動が中心なのか犯罪の称号がありました。拘束したのですが、すぐに毒を飲んで死んでしまいました」
尋問して情報を聞き出したかったアランは残念そうに話す。
「それは仕方ないのぉ。これまで噂にしかならなかったのじゃから、そのような対策はもちろんしてるはずじゃ」
ハロルドも冒険者ギルドも簡単に尻尾は掴ませないだろうと考えていた。
「それで、どうされますか?」
「まだ迷っておる。とりあえずギルドマスターと会ってから考えるとするかのぉ」
冒険者ギルドと協調路線は難しそうだとハロルドは考えた。しかし、完全に冒険者ギルドと事を構えるとなると簡単に決断はできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
レンド達はようやく冒険者ギルドに到着できてホッとする。しかし、ギルド内に入ると冒険者を1人も見かけないし、ギルド職員の数が少なかった。
年配のギルド職員がレンド達に近寄ってきて話しかけてきた。
「新しいギルドマスターのレンド様でしょうか?」
「そうだ、お前はたしか……、報告書を送ってきたランベルトか?」
「はい、それよりみなさん、王都から来られてお疲れでしょう。ギルド職員と家族を宿舎に案内させます。護衛の依頼を受けた冒険者は、依頼の完了手続きをしてください。レンド様は引継ぎをしたいので会議室にお願いします」
レンドはランベルトが予想以上に優秀であることに驚いた。
グランドマスターからは裏切り者の可能性が高いから、適当に情報を収集したらギルドから追放するように言われていた。
(ゼヘトの代わりにサブマスターを任せたいぐらいだが……)
残り少ない他のギルド職員の質は低そうで、ランベルトが指示すると嫌そうな顔をしながら指示に従っていた。
レンドは色々と話を聞きたかったが、この場で質問するのは止めて会議室に移動することにする。
ランベルトの案内で会議室に移動するのは、ゼヘトと例の裏ギルド職員、そしてA級冒険者のアジスのパーティーも一緒について行くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
会議室に入ると、机に書類が並べられていた。その机を避けてレンドとゼヘト、裏ギルド職員のカヌム並んで座る。アジスたちが適当に座るとレンドはランベルトに質問する。
「この時間になぜ冒険者がひとりも居ないのだ。一番込み合う時間だろう?」
ゼヘトはようやく気付いたような表情をしている。
「理由は分かりませんが、一昨日から冒険者の買取が減り、ダンジョンから戻ってくる者が全くいません。今日は朝からひとりも冒険者を見ていません」
ランベルトの説明にレンドはダンジョンで氾濫でも起きたのかと思ったが、兵士たちの様子では氾濫など起きてないと思い直す。
「おいおい、それなら調査に依頼を出せば良いだろ。使えない奴だな!」
ゼヘトの発言にレンドも同じことを少し考えたが、それができない理由も分かっていた。
「それは無理だな。ギルドマスターとサブマスターが居なければ、冒険者ギルドとして依頼を出すことはできない。それより、それらしい雰囲気は無かったのか?」
ゼヘトは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そうですね……、少し前にダンジョンの周辺に外壁が突然できて、冒険者がダンジョンに入るには検問所を通るようになったと聞きました。それに、外壁に囲まれた村規模の敷地もあるそうです。もしかしたらそちらで何かあったのかもしれません」
ランベルトの返答にレンドは考え込む。
エルマイスター家の方針でダンジョン周辺に村など作れないと資料にあったのを思い出していた。
それに検問所までとなると、何かしらあった可能性がある。しかし、それが何なのか想像もできなかった。
「検問所と言うと領都に入る時に魔道具で審査をされましたが、同じような審査をされるのですか? それにあの審査の魔道具については報告にありませんでしたね?」
「そうだ、冒険者まで審査をしていると、なぜ報告しなかった!」
裏ギルド職員のカヌムが質問すると、それに便乗するようにゼヘトがランベルトに文句を言う。それを聞いてレンドは呆れてしまう。
「ダンジョンの検問所の審査について詳細は分かりません。例の事件から領都では冒険者も審査を受けるようになりました。その事は王都にも報告しています。
審査の魔道具についても詳細は分かりません。数日前から魔道具を使って審査がされるようになったと、冒険者から話を聞いただけです」
「な、なにも分かっていないじゃないか。仕事をしろ!」
ランベルトの話で審査について報告されていると聞いて、ゼヘトは焦って誤魔化すように叱りつける。
「ふぅ~、審査の事は報告書に記載されていたぞ! お前はそれで門での騒ぎを起こしたのか? 悪いがお前は黙ってろ!」
ゼヘトは不満そうな顔をしたが黙って頷いた。
レンドはなぜこんな奴がサブマスターなのか信じられなかった。
「あの魔道具は危険です。できれば手に入れたいですね……。領主様と交渉して魔道具を手に入れて王都のギルドに送る必要があると思います」
カヌムは真剣な表情でレンドに提案する。
「そうだな…。魔道具についてはその方向で進めるしかないな。ダンジョン周辺はアジスのパーティーで調査してくれ」
「おう、構わないぞ。だが、あんたの護衛に俺が残るぞ。調査だけならこいつらで十分だろ?」
アジスは自分のパーティーメンバーを指差して返事する。
「それで頼む。それと、なぜギルド職員が少ないのだ。それに質も低い!」
レンドは責めるようにランベルトに質問する。
「身の危険を感じたこの町出身の職員が辞めたから数が減りました。残っているのは前のギルドマスターが王都から連れてきた職員になります」
「なぜ身の危険を感じる!?」
レンドも質の件は彼に文句をつけようがないので、数が減った理由を問い質す。
「ギルドマスターとサブマスターが犯罪に加担していたのですよ!? それに加担していると思われたら……」
レンドは門であった騎士団長のアランの事を思い出して、ランベルトの主張は仕方が無いと思った。しかし、それでもランベルトが冒険者ギルドを裏切っていないとは断定できない。
レンドはランベルトをさらに追求しようと決める。
追求しようとランベルトに質問をしようとすると、ギルド受付から騒ぎが聞こえてくるのだった。
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