第4章 ダンジョン

第1話 反省する

夫婦用の部屋のダイニングで妻二人と昼食を食べながら、顔がにやけて来るのを止められなかった。


「旦那様、追加のパンはどうされますか?」


ラナが自然と尋ねてくる。


「いや、もうお腹いっぱいだよ」


幸せでいっぱいだと答えたいぐらいだ。


「すまない。私には追加でパンをひとつ貰えないだろうか?」


クレアは申し訳なさそうにラナにお願いする。


「遠慮なく言って下さいね」


ラナは笑顔で収納からパンを取り出してクレアの前に置く。


「やはり私は家では役立たずでしかない。ラナに申し訳ない」


「クレアさん、家の中の事は私にお任せ下さい。お互い出来ることで旦那様を支えていきましょう」


「そ、そうだな。私は騎士として旦那様を支えることに全力を尽くそう!」


クレアは真面目で単純な所があるなぁ。


「ふふふっ、私は家の事で旦那様を支えていきますわ」


ラナは昨日まで、どこか寂し気な雰囲気があったのだが、今は微塵も感じない。


昨晩の夫婦の営みで何か吹っ切れたのかもしれないなぁ。


私も二人と身も心も夫婦になれたことで、彼女たち以上に色々と吹っ切れた気がする。


自分でも二人に結婚を申し込んでから、色々と焦っていたのが今なら良く分かる。


寝る間を惜しんで今日のこの日を迎えることに邁進してきたが、少し無理をし過ぎたし、魔道具造りもやり過ぎたのではないかと、心配になってきた。


でも、いま二人の妻が目の前で楽しそうに会話している。それも夫である私を支えると話しているのだ。


「幸せだなぁ~」


心の中で呟いくつもりが、声に出てしまった。


「「はい、幸せです!」」


恥ずかしいと思う前に、妻たちが自然と答えてくれる。


すごく幸せです!


「ラナ、昨晩は旦那様に優しくして貰えた?」


いやいや、露骨にそんな事を聞かないで下さ~い。


「優しくもあり、激しくもありという感じですかね」


いやいや、そんな赤裸々に答えなくてもぉ。


「では、私の時と同じような感じだったのだな」


「ええ、事前に聞いていた感じと同じだと思いますわ」


待ってぇ、こ、これが普通の夫婦の会話なのぉ!?


「でも、起きてから2回も旦那様は……」


いやいや、顔を赤らめて話すなら、話さないでぇ~!


「そ、それは、……よく起きて来られたものだ」


「ポ、ポーションを頂いて何とか……」


クレアがポーションと聞いて驚いた顔をしてる。


「ま、まあ、そういった話を、あ、明るい時間からするのは止めときましょう」


そう話すと二人はジト目で俺を見つめてくる。


「明るい時間からあんなことを……」


「本当ですわね。起きてすぐに……」


止めてくれぇ~!


28年分も含めて色々と溜まっていたんだからぁ。


そ、それに、起きてすぐは男のロマンでもあるからぁ~。


「す、すまない。二人とは初めてで、嬉しくて我慢できなかった。これからは我慢するようにする!」


男のロマンより、妻たちの希望を優先しよう!


心の中では血の涙を流しながら妻に宣言する。


すると何故か二人は動揺した表情を見せる。


「べ、別に、つ、妻として旦那様に我慢はさせたくない……」


「そ、そうですね。妻としてお応えするのも務めですから……」


「えっ、これからも良いの!?」


真剣に問い返してしまう。


「で、できれば、少し加減を……」


「そ、そうですわ。加減して頂かないと……」


嬉しくなり、二人に返事をする。


「わかったよ。その分は夜に頑張るよ!」


「「えっ、えええええ!」」


二人の妻の驚きの声が夫婦の部屋に響き渡るのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



アタルが作業をすると言って夫婦の部屋を出て行くと、クレアとラナはお互いの顔を見て、話しを始めた。


「旦那様はまだ抑えているのかしら?」


「先程の話からそんな気がする……」


ラナ問いかけにクレアが答える。


「本当に聞いた話と全然違いますね」


「そうだな……」


クレアは言葉少なくラナの質問に答える。


「夜頑張るという事は、気を失ってでもという事でしょうか?」


「………」


クレアは質問されたことを想像して言葉が出なかった。


「クレアさんが居なければ、毎晩あれを……」


「さ、最初だからではないだろうか……?」


「「………」」


確かにまだ一度ずつでしかない。でも、何となく二人は最初とか関係ない気がするのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



その日の夕食にはシア達も一緒に食べることにした。

自分達は後2日ほど休みにすることにしていたが、シア達は明日から仕事を始めると言うからだ。


夕食を食べながらシア達と話をする。


「そんなに慌てて仕事を始めなくても良いんだよ」


「ダメです。私達が休むと孤児院の子供たちの収入が減ります。それに結婚したのはアタル様で、私達がこれ以上お休みを頂くのは良くありません!」


別に悪くないと思うし、孤児院には食料と一時金を渡しているので問題ないと思うけど。


まあ、やる気があるのを止めるのも良くないのかぁ。


「でも、無理はしないようにね。明日から我々も普通に起きてくるつもりだからね」


「「「はい」」」


魔道具や仕事の仕方のマニュアルも渡してあるし問題は無いだろう。


「旦那様、今日の午前中に、カティとシャルの訓練をしたのですが、旦那様の言った通りふたりは動きも早く、索敵の能力も高いと感じました。

直ぐには無理ですが、時間のある時は二人を鍛えたいと思いますが、宜しいでしょうか?」


クレアの話でカティとシャルは嬉しそうに目を輝かせている。


「う~ん、とりあえずは時間のある範囲でお願いするよ。もう少し落ち着いたら、もっと計画的に二人を鍛える事にしよう」


「わかりました」


カティとシャルだけでなく、シア達も嬉しそうにしている。


「アタル様、お休み中なのですが、レベッカ様からお話しをしたいと昼頃に申し出がありました。孤児院や面接、見習いの事でどうしても早めにお話がしたいと聞いております。如何いたしましょうか?」


確かに休み中だが、孤児院や見習いについては早めに話を進めたい。


「話すだけなら大丈夫ですよ。調整してくれますか?」


「アタル様がよろしければ、明日の午前中に伺いたいと申し出を受けています」


来てくれるなら何も問題ない。


「それじゃあ、そう言う事で準備をお願いします」


「了解しました」


エマさんは普通に対処している感じだが、普通に見えるのは優秀だからだろう。



   ◇   ◇   ◇   ◇



夕食が終わるとリビングで子供たちと、まったり過ごす。


ソファに座る俺の膝と胸にはミュウとキティが乗っかり、シア達が横に引っ付くように座っている。


ラナはその光景を微笑みながら見ている。クレアは姿が見えないので2階にいるのだろう。


「アタルの顔が優しくなった!」


「うん、優しくなった!」


ミュウが私の顔が優しくなったと言うと、キティも同意する。


やはり焦っていたことが雰囲気で伝わり、表情に出ていたのだろう。


うん、反省しないとダメだな。


子供たちにそんな雰囲気や顔を見せるのは良くないと反省する。


「お嫁さんを貰って顔が優しくなったのよ」


はい、シアの正解です!


「なら、私もアタルのお嫁さんになるぅ~」


「ミュウが先よぉ~」


キティがお嫁さんになると言うとミュウも同調する。


「何を言ってるの! まずお姉ちゃん達が先に決まってるでしょ!?」


いえいえ、そんな事は決まっていませんからぁ~。


カティの発言でシアやシャルも参戦して大騒ぎになる。


そんな様子を見ても、ラナは微笑んでいるだけだった。


『旦那様、クレアさんの準備が整った様です』


おお、文字念話をそんな風に使うのかあ。


『それでは後の事は任せて良いですか?』


『はい、お任せください』


「みんなぁ、悪いけど先に休まして貰うよ」


そう言うと全員が騒ぎを止め、静かになった。


「今晩はクレアお姉ちゃんとお楽しみ!」


フォミが露骨に指摘する。


「ミュウも一緒に楽しむぅ!」


「キティもぉ!」


それは出来ません!


「あなた達にはまだ早いわ!」


そう言うシアも早いからね。


「はいはい、みんな旦那様の楽しみの邪魔はダメですよ」


ラナさん、その言い方はどうなんでしょうか?


ラナにそう突っ込みたくなるが、それ以上にクレアの事が気になる。


きょ、今日は冷静にじっくりと……。


後はラナに任せて夫婦の部屋に急ぐのであった。

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