第20話 冒険者ギルドへの制裁①
突然ノックもせずに受付のギルド職員がギルドマスター室に入って来て、ギルドマスターのアラゴとサブマスターのエウスコは飛び上がりそうなくらい驚いた。
「何事だぁ! ノックもせず部屋に入ってくるなど無礼にも程があるかぁ!」
2人は内心で『ドラゴンの咆哮』の報告を待ちながら、内心ではビクついていた。アラゴは無事にことが進んで、薬草が納品されるようになるのか気にしており、エウスコは彼らがとんでもない失敗をして騎士などに捕まったらどうしようと思っていた。
「し、失礼しました! ですが、領主様が騎士団を連れて1階にお越しです。すぐにギルドマスターを呼べと言ってます!」
それを聞いてエウスコはすぐに窓から外を確認する。アラゴはエウスコが驚くほど機敏に動いたことで、自分が何を言おうとしたのか忘れてしまった。
エウスコは冒険者ギルドの建物が、騎士達に囲まれていることを見て、『ドラゴンの咆哮』が自分の予想通り取り返しのつかない失敗をしたことを悟った。
実はエウスコがすぐに外の確認をしたのは、逃げ出せないか確認をしたのだった。昨日から不安で、いざとなったら逃亡するしかないと考えていたのだ。
真っ青な顔色になったエウスコを見て、アラゴも不安になり問いかける。
「な、なにがあった!?」
エウスコは問い掛けられても、振り返らずに震える声で答える
「ギルドの建物を騎士達が取り囲んでいます」
「なにっ!」
アラゴは予想外の事態になぜそうなったのか理解できなかった。
「『ドラゴンの咆哮』が大失敗をしたのだと思います」
このような事態になっても、全く状況を理解できないアラゴを見て、なぜこんな男をギルドマスターにしたのか、ギルド本部の愚かさを心の中で罵倒していた。
「そうだとしても、こんなことをすれば冒険者ギルド全体が黙っていないぞ!」
「取り敢えず、領主のハロルド様がなぜこんなことをしたのか、話を聞きに行きましょう」
アラゴは不満そうにしながらも、それしか方法がないことも分かったので、急いで1階に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ギルドマスターのアラゴとサブマスターのエウスコが姿を見せると、首を刎ねられた死体を見て、エウスコの顔は真っ青になり震えだし、アラゴは顔を真っ赤にして怒り出した。
「何事ですか! うちの冒険者を殺すなんて、冒険者ギルド全体を敵にする行為だぞ!」
アラゴは自分の子飼いの冒険者が殺されているのを見て、頭に血が上り冷静な判断ができなかった。
「こいつは、領主のハロルド様に近づいて来たので制止したら、剣を抜いたから首を刎ねましたよ」
アランがそう説明するが、怒りで状況の把握ができないアラゴは、薄ら笑いを浮かべながら首を刎ねたというアランにさらに腹を立てる。
「こんなことしてタダで済むと思っているのかぁ。絶対に許さんからなぁ!」
「ほう、許さんとはどういうことじゃ。領主の私に剣を向けた奴を、冒険者ギルドは庇い立てするということかのぅ」
ニコニコ笑いながらハロルドがそう話すと、アラゴは相手が領主のハロルドで、その領主に剣を向けたと言われ、さすがに不味いと思ったが、もう引き下がれなかった。
「そ、そうではない、…ですが、冒険者ギルド内で冒険者を殺すなど、騎士団長のアラン殿でもやり過ぎだといっているのです!」
少し勢いが無くなったアラゴだが、簡単に引き下がれなかった。
「ふむふむ、ではギルドマスターとサブマスターが冒険者に命じて、孤児院の子供たちを脅して、切り殺そうとするのはやり過ぎではないというのか?」
こういわれてアラゴはやっと領主や騎士達が来たのか理解した。エウスコはやはりそれが理由だったのだと思った。
「な、なにを証拠に、」
ボゴォ! ギィン!
アラゴが答え始めると、ハロルドが突然前蹴りをしてきた。アラゴも元A級の冒険者だけあって、何とか腕を前に出して防御したが、出した腕の骨にヒビが入り、勢いのまま壁に背中から叩きつけられた。
ハロルドは追い打ちをかけるように、背中の大剣を抜くと、アラゴを切り殺そうと袈裟懸けに切りつけたが、後ろの石壁に剣がめり込み、肩を少し切られる程度で済んだ。
「閣下!」
アランが鋭く声を掛ける。
「なんじゃい!」
ハロルドは不満そうに返す。
「殺してはダメと言ったではないですかぁ」
さらにアランが少し軽く注意する。
「おぉ、そうじゃった。こやつが下らぬことをぬかすから、ついのぅ」
アランを見ながらハロルドが話す。それを聞いたアランは溜息を付く。
「お前たちも良く考えて答えてくれよ。ハロルド様と私の目の前で犯行が行われたんだぞ。すでに奴らの尋問を済ましてここに来ているんだからな」
アランはアラゴ達にそう話す。
ようやく下手な言い訳が命取りになるということをアラゴは理解したが、本当の話をしても危険だと思った。
「おい、水筒を貸してくれ」
ハロルドは一緒に来ていた騎士にそう言うと、差し出された水筒を受け取ると、アラゴに掛けてやる。
「こいつを掛ければ、すぐに怪我は回復するから安心すると良い。何度でも尋問はできるから安心しろよ」
ハロルドはそう話しながら笑顔を見せる。先程までの笑顔と変わらないはずだが、アラゴはその笑顔を見て『クレイジーオーガ』と心の中で呟いた。
「領主様、その者たちは確かに孤児院の子供たちに、薬草の納品をお願いに行かせましたが、決して乱暴をするような指示は出しておりません!」
エウスコは必死に少しでも罪が軽くなるように説明する。
「んっ、お前は誰じゃったかな?」
実はこの町の冒険者ギルドに着任した時に、エウスコはハロルドに挨拶していたが、随分前の話でハロルドはまったく覚えていなかった。
「わ、私はサブマスターのエウスコです」
バコッ、ボゴッ、バキィ!
エウスコが言い終わると同時に、ハロルドは殴りつけ、倒れた所に蹴りを入れた。
「なんじゃ、サブマスターというからもう少し行けると思ったのに、死んでしまいそうじゃ」
「閣下ぁ」
そういうとハロルドは水筒からポーションをエウスコに掛けてやる。
エウスコは突然殴られて、半分意識が無くなりかけたところに、腹と胸を連続で蹴られ、折れた肋骨が胸に刺さったようで、口から血を流して死ぬ寸前だった。
何か体に水のようなものが掛けられ、徐々に痛みが引いていくのを感じると同時に、口から血を流していることに気が付いた。
「おお、死ななかったようじゃぞ。ほれ、これを飲め」
そういって口に無理やり水筒を押し付けられ、エウスコは何とかそれを飲み込むと、一気に痛みが引いていく。
「もう大丈夫そうじゃな。お主は体が弱そうじゃから、今度嘘を付いたら目を抉るぞ」
ニコニコしながら話すハロルドを見て、エウスコも『クレイジーオーガ』と心の中で呟いた。
「閣下、目を抉るなら片方だけにしてくださいよ。家族を目の前でごうも、尋問する様子を見てもらわないとダメですからね」
「そうじゃった、そうじゃった。お前はギルド職員の家族を攫ってこい」
ハロルドは近くにいた騎士にそう指示を出した。
「閣下ぁ、それでは我々が悪人みたいではありませんか。攫うはないでしょ、連れて来いとか招待しろとか言い方を考えてくださいよぉ」
アランは笑いながらそう話す。
「そうかのぅ、やることは一緒なんじゃが、……まあ適当に頼むぞ」
「はい!」
騎士がそういって走り出そうとすると、ランベルトがハロルドに話しかけるのであった。
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